【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

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下川裕治・仲村清司『新書 沖縄読本』講談社、2010年

2011-06-15 00:09:11 | 地理/風土/気象/文化

            新書沖縄読本
 沖縄長寿国の伝説がくずれつつあり、一時の観光ブーム、沖縄ブームに翳りがみえはじめてきました。米軍基地移転問題は未解決のままです。本書はこうした事態を直視し、新たな地平にたった沖縄論です。

 話が具体的であること、個人レベルの話題を沖縄全体の問題と結びつけて展開されているので、わかりやすく、説得的です。

 例えば、長寿であったはずの沖縄では平均余命の全国県別ランキングで若年層ほどその位置が低くなっていること、内閣府公表の肥満率が全国ワースト一位、糖尿病の死亡率、肝疾患死亡率が全国一位(2005年)など異変が臨界点にせまっています。総メタボ化が進行し、これは食生活に原因があるといわれています。

 以上は健康指標の話ですが、観光では2008年12月以降に入域数で前年同月比を下回りつつあり、全体としての減少傾向に歯止めがかからなくなっているとか。あおりをくったかのように老補のホテルの閉鎖つづいています。沖縄最古の那覇東急ホテル(前身は琉球ホテル)が2000年委閉鎖、京都観光ホテル(沖縄市のホテルが何故か京都ホテル)が2007年10月に幕、といた具合です。

 普通の観光ガイドではあまりとりあげない「社交街」という異空間が紹介されいるのも特徴です。社交街とは、簡単に言えば歓楽街です。

 そして、年金問題でも、話がものすごく具体的です。ここでは新里愛蔵さんという個人の年金加入期間のカウントの仕方で、沖縄特例をどのように適用したかが詳しく語られています。

 米軍基地移転問題で、普天間から辺野古への移転に関して、アメリカの胸算用についての言及、要するに分散している基地機能の辺野古への集約を目的とした複合施設の一体化(p.250)も鋭い指摘です。

 この他、迷走する沖縄独立論(県民意識調査では、「沖縄は独立すべきだ」とした人が2007年には20.6%、2005年には24.9%)[p.242]、サンゴ問題、八重山諸島の「沖縄観」、与那国と台湾の関係など、問題の所在を的確につかんだ立論に好感がもてました。

 著者たちはかつて沖縄ブームの火付け役を担ったことがあるらしく、そのことの反省の弁もあります。「沖縄は『癒しの島』でも、『楽園』でもない。問題が山積した南の島にすぎない。しかしそこには、いつも海からの優しい風のように、『ゆるさ』というエネルギーが流れていた。出口のない問題を呑み込んでしまう沖縄のエネルギーを、僕らは憧れの眼差しで眺めていた」(p.10)。本書を著した著者たちのよりどころが、これです。