773)COVID-19後遺症(Long COVID)に対するカンナビジオールの効果

図:重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は神経細胞やグリア細胞(アストロサイト、ミクログリア)に感染する(①)。ウイルスによって神経細胞は直接的にダメージを受け、変性や細胞死が引き起こされる(②)。ウイルスが感染して刺激されたアストロサイトとミクログリアは炎症性サイトカインの産生を亢進し、炎症反応を誘導し、神経細胞のダメージを促進する(③)。カンナビジオールとパルミトイルエタノールアミドは神経保護作用と抗炎症作用があり、SARS-CoV-2によって引き起こされる神経障害を抑制する(④)。

773)COVID-19後遺症(Long COVID)に対するカンナビジオールの効果

【COVID-19の後遺症は多くの患者で認められている】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染に由来し、炎症性サイトカインの放出や血栓形成によって重症化します。
COVID-19患者の多くが無症候性または軽度の症状で治癒します。しかし、そのような軽度の症状で回復した患者でも、感染の数ヶ月後にびまん性の多臓器症状を示すことが報告されています。
これらの症状には、倦怠感、筋肉痛、関節痛、頭痛、息切れ、胸部圧迫感、嗅覚や味覚の障害、睡眠障害、脳にモヤがかかったような状態(Brain fog)やその他の神経精神症状(うつ症状や不安感など)が含まれます。

COVID-19の後遺症に関する最も早い報告はイタリアからの報告でした。この報告によると新型コロナウイルス感染症(COVID-19)143人の回復者のうち87%の人々が、60日後でも少なくとも1つの症状が持続していることが明らかになりました。32%の人は1つまたは2つの症状があり、55%の人は3つ以上の症状がありました。
症状としては、倦怠感(53.1%)、生活の質の悪化(44.1%)、呼吸困難(43.4%)、関節痛(27.3%)、胸痛(21.7%)でした。咳、皮膚の発疹、動悸、頭痛、下痢、しびれの症状もありました。
患者はまた、不安、うつ病、外傷後のストレス障害などの精神的健康問題に加えて、日常的な日常活動を行うことができないことを報告しました。
(Persistent Symptoms in Patients After Acute COVID-19.JAMA. 2020 Aug 11; 324(6): 603–605.)

このように新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染から数週間または数か月後でも様々な症状が持続する病状を表す用語として「Long COVID(ロングCOVID)」、「post-COVID syndrome(COVID後症候群)」、「chronic COVID syndrome(慢性COVID症候群)」、「long haulers(長距離輸送車)」などが使用されています。
診断基準や調査方法が各国で異なるので正確な有病率についてはわかっていませんが、3ヶ月以上にわたり症状が持続する人は5〜10%程度存在すると推定されています

【コロナウイルスは全身の組織や臓器にダメージを与える】
COVID-19を引き起こす新型コロナウイルスは、体のさまざまな部位の細胞、特に肺や血管内皮細胞に存在する受容体(ACE2)に付着します。影響を受ける臓器には、心臓、肺、腎臓、脳、腸、膵臓の細胞などがあります。
新型コロナウイルスの感染した後に、体内では炎症反応を起きます。炎症はウイルスを倒すための反応ですが、炎症に伴うサイトカインと呼ばれる化学物質の産生により意図せずに自分の体の細胞に対して多くの損傷を引き起こしてしまいます。
さらにこのプロセスは血液を固まりやすくさせます。血栓が形成されると、臓器の一部への血液供給を遮断しより多くの損傷を与えます。

COVID19発症時や初期の症状が軽微であっても、体のさまざまな部位にダメージを受けている可能性があり、後遺症に繋がっている可能性があります。実際に、コロナ後遺症ではCOVID19の重症度によらず、持続的な症状を発症する場合があります。軽症で入院していないCOVID-19患者でも心臓、肺、肝臓への長期的な症状と臓器の損傷があることがわかってきています。

【Long COVIDは様々な機序で発生する】
Long COVIDと同様のウイルス感染後の長期間の後遺症の存在は古くから知られています。
インフルエンザ様疾患後の長期にわたる症状の説明は、女性の権利運動家であるジョセフィン・バトラー(Josephine Butler)が、ロシアのインフルエンザに感染した後の持続する倦怠感を訴えて息子に手紙を書いた1892年にさかのぼることができます。1895年、ロシアのインフルエンザに感染した首相を含む英国の政治家は、長期にわたる倦怠感と不眠症について記録を残しています。(出典:Lancet. 2020 Oct 31;396(10260):1389-1391.)

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)や中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)などの最近のコロナウイルス感染症でも、急性期後の長引く症状の持続が報告されています。SARS-CoV-1およびMERS-CoVの長期症状の系統的レビューでは、患者の約3分の1が、6か月までの長期間の不安、うつ病、および心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しんでいました。

Long COVIDの発症メカニズムは多彩で複雑です。複数の原因が複雑に関与しており、その要因や関与の度合いは患者ごとに異なります。
臓器損傷の程度、慢性炎症の程度と持続期間、免疫応答の程度や自己抗体の生成などが関与します。さらに入院や集中治療によるストレスや、治療薬や人工呼吸の身体に対する悪影響に関連する合併症、心的外傷後ストレスのような体調不良、心理的問題も症状の一因となります。どの患者でも、複数のメカニズムがLong COVID症状の一因となる可能性があります。(下図)

図:新型コロナウイルス感染症の後遺症(Long COVID)は様々や要因で発生する。ウイルス感染や炎症反応による組織・臓器のダメージだけでなく、治療に伴う副作用や相互作用、併存疾患の存在、免疫異常、他の感染症の発症、長期入院やICU治療によるストレスや治療による影響、精神的要因など多くの要因が複雑に関与する。(参考:Long COVID: An overview Diabetes Metab Syndr. 2021 May-June; 15(3): 869–875.)

COVID-19の後遺症として以下のような多くの症状が見られます。

参考:Long COVID: An overview Diabetes Metab Syndr. 2021 May-June; 15(3): 869–875. 

【コロナウイルスは神経細胞とグリア細胞に感染する】
新型コロナの後遺症のひとつに「ブレイン・フォグ(Brain fog)」という症状があります。Fogは霧という意味で、「脳の霧」という意味です。頭にモヤがかかったようにぼんやりしてしまい考えがまとまらない、集中できない状態です。その原因として脳の炎症の関与が指摘されています。
以下のような論文があります。

Editorial: The Pathogenesis of Long-Term Neuropsychiatric COVID-19 and the Role of Microglia, Mitochondria, and Persistent Neuroinflammation: A Hypothesis(論説:長期神経精神医学的COVID-19の病因とミクログリア、ミトコンドリア、および持続性神経炎症の役割:仮説)Med Sci Monit. 2021; 27: e933015-1–e933015-4.

【要旨】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染から回復した患者に長期に持続する後遺症が発生している。
このLong COVID(ロングCOVID)と呼ばれる病状は、中枢神経系の障害により、認知障害や脳霧(brain fog)や慢性疲労症候群を含む神経精神症状および徴候を引き起こす
SARS-CoV-2とエボラ(Ebola)、ジカ(Zika)、およびインフルエンザAウイルスの間には、これらの持続的な合併症に類似点がある。
正常な中枢神経系のニューロンのミトコンドリア機能は、酸化的リン酸化とATP生成のために高い酸素レベルを必要とする。最近の研究では、SARS-CoV-2ウイルスがミトコンドリア機能を乗っ取る可能性があることが示されている。
認知機能の持続的な変化は、他のウイルス感染症でも報告されている。SARS-CoV-2感染は、ミクログリアの機能障害を引き起こすことにより、中枢神経内の免疫プロセスに長期的な影響を与える可能性がある。
この論文は、COVID-19による長期の神経精神症状の病因がミクログリア、ミトコンドリア、および持続性神経炎症を伴うという仮説を議論することを目的としている。

ロングCOVIDで見られる認知障害脳霧(brain fog)慢性疲労症候群を含む神経精神症状はウイルスが中枢神経系に感染して、炎症を引き起こすことが原因と考えられています。
ウイルスは神経細胞(ニューロン)のミトコンドリアの機能を障害して機能を低下し、さらにミクログリアやアストロサイトを刺激して炎症反応を誘導し、この神経組織の炎症が、脳機能を障害して、認知機能障害や脳霧(brain fog)を引き起こしていると考えられています。
以下のような報告もあります。

Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2) and glial cells: Insights and perspectives.(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)とグリア細胞:洞察と展望)Brain, Behavior, & Immunity – Health. Volume 7, August 2020, 100127

【要旨の抜粋】
コロナウイルス病2019(COVID-19)と呼ばれる病気は、ヒトコロナウイルスの新しい形態である重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされる。コロナウイルス感染症は、けいれん、精神状態の変化、脳炎などの神経学的症状を引き起こすが、脳におけるSARS-CoV-2の影響についてはあまり知られていない。
重症の臨床症状を伴うCOVID-19患者において、神経学的変化が引き起こされることが明らかになっている。このプロセスに関与する分子および細胞のメカニズム、ならびにSARS-CoV-2の神経指向性および神経浸潤性の特性は、まだよくわかっていない。
アストロサイトやミクログリアなどのグリア細胞は、神経炎症性傷害や神経変性疾患に対する脳の反応において極めて重要な役割を果たす。さらに、これらの細胞が神経指向性のウイルスの標的となり、その機能に深刻な影響を受けることが明らかになっている。
グリア細胞の機能不全はいくつかの神経炎症性疾患の発症に関連している。SARS-CoV-2が神経細胞の損傷に加えて、これらグリア細胞に一次的影響を与える可能性が高いことが示唆されている。
ここでは、SARS-CoV-2の標的としてのグリア細胞の考えられる影響について解説する。脳の炎症反応におけるミクログリアとアストロサイトの役割を考慮して、COVID-19患者の神経学的症状に対する治療戦略のターゲットとしてグリア細胞に注目する。
このレビューの主な目標は、SARS-CoV-2によって誘発される神経学的損傷の原因としてアストロサイト(星状細胞)とミクログリアを含む可能性を指摘することである

脳や脊髄など神経組織には大きくわけて2種類の細胞が含まれています。神経細胞(ニューロン)とそれを支える神経膠細胞(グリア細胞)です。その他に血管を構成する細胞もあります。ニューロンは感覚や運動などの情報を処理する主体で、そのニューロンに栄養を与え、神経組織を健全に維持するのがグリア細胞の役目です。

「グリア細胞」の日本語訳は「膠細胞」です。「膠」は事典によると、「獣や魚の皮•骨などを水で煮沸し、その溶液からコラーゲンやゼラチンなどを抽出し、濃縮•冷却し凝固させたもの。接着剤•写真乳剤•染色などに用いる」とあります。つまり、動物の腱などから作られた接着剤のようなもので、「膠細胞」は神経細胞の間の組織を埋めるような支持組織で不活性が細胞と考えられていました。しかし、最近の研究でグリア細胞は脳機能やニューロンの制御に重要な役割を持っていることが明らかになっています。

ヒトの場合はグリア細胞の数はニューロンの10倍程度存在します。グリア細胞は主に3種類あり、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアと呼ばれています。
アストロサイト(星状膠細胞)は多数の突起があり、星のように見えることからこの名があります。実際は、星状というよりスポンジ状の形態をしています。神経組織の形態維持、血液脳関門、ニューロンへの栄養補給、神経伝達物質の輸送などの役割を担っています。
神経細胞(ニューロン)の活動にアストロサイトの働きは重要で、アストロサイトがなければ、貝類(shellfish)やミミズ類(worms)以上のレベルに神経組織は進化しないと言われています。

オリゴデンドロサイト(乏突起膠細胞)は神経細胞の軸策に巻き付いて髄鞘の形成や栄養補給の機能を持っています。

ミクログリア(小膠細胞)は骨髄系のマクロファージに由来し、病原菌の排除や死細胞の除去や傷害を受けた神経組織を修復する働きを担っています。アルツハイマー病など神経変性疾患ではミクログリアが炎症の増悪や神経細胞死に関わってきます。マクロファージと同様に組織の生体防御の第一線で働いていますが、慢性の炎症になると、その作用が有害に作用する場合もあります。

図:脳組織はニューロン(神経細胞)とグリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア)と血管組織などから構成される。

神経細胞(ニューロン)とグリア細胞はSARS-CoV-2が細胞内に入り込むときの受容体となるACE2を発現しているので、神経細胞とグリア細胞はSARS-CoV-2の潜在的な標的となります。
アストロサイトとミクログリアは、SARS-CoV-2によって引き起こされる神経炎症におけるサイトカインの主要な供給源であり、SARS-CoV-2によって引き起こされる神経学的損傷に関連している可能性があります。
SARS-CoV-2は、中枢神経系のアストロサイト(星状膠細胞)、マクロファージ、およびミクログリアに侵入し、炎症性メディエーターの産生を高めて、神経組織において炎症を引き起こします。

【Long COVIDの治療にミトコンドリア活性化が役立つ可能性がある】
コロナ後遺症(Long COVID)についての根本的な解決方法はまだ見つかっていません。発症要因が複雑で多彩なため、一つの治療法では解決できないと言えます。
 前述のようにLong COVIDは単一の病態ではなく、人によって症状の種類や程度は異なります。そのため、症状に合わせて症状を和らげる治療やリハビリテーション、また症状とうまく付き合うためのアドバイスを受けて生活や仕事ができるように工夫するしかありません。
コロナウイルス(SARS-CoV-2)がミトコンドリアをハイジャックして、ミトコンドリア機能を障害することが報告されています。強い倦怠感の軽減にミトコンドリアの活性化は有効です。また、ダメージを受けた組織や臓器の障害の回復を促進にもミトコンドリア機能の活性化は効果が期待できます。Long COVIDの治療法としてミトコンドリア活性化は試してみる価値はあると思います。

図:新型コロナウイルスのSARS-CoV-2(①)が細胞内に侵入するとミトコンドリアにもダメージを与え(②)、ATP産生が障害される(③)。ミトコンドリアがダメージを受けると活性酸素の産生が増える(④)。ATP産生低下と活性酸素産生亢進は全身の組織と臓器にダメージを与える(⑤)。SARS-CoV-2は肺炎などの炎症反応を引き起こし、過剰なサイトカイン産生によってサイトカイン・ストームを引き起こす(⑥)。サイトカイン・ストームや酸化ストレスは全身の臓器にダメージを与え、血管内皮細胞の透過性亢進を引き起こして、急性肺損傷や急性呼吸窮迫症候群を引き起こし、さらに悪化すると敗血症や多臓器不全を引き起こす(⑦)。このような多彩な要因が重なって後遺症(Long COVID)を引き起こす(⑧)。ジクロロ酢酸、ビタミンB1、L-カルニチン、NAD前駆体のニコチンアミド・リボシドやニコチンアミド・モノヌクレオチドは、ミトコンドリア機能を高めて、ATP産生を回復する(⑨)。コエンザイムQ10、R体αリポ酸、メラトニン、水素ガスは酸化傷害を抑制する(⑩)。ミトコンドリア機能を高めることはLong COVIDの治療に役立つ。

【カンナビジオールはCOVID-19の神経障害を軽減する?】
大麻成分のカンナビジオールがミクログリアの活性化抑制などの抗炎症作用と神経細胞を保護する作用があり、COVID-19の神経障害を緩和する効果が指摘されています。以下のような論文があります。

The potential of cannabidiol in the COVID-19 pandemic.(COVID-19パンデミックにおけるカンナビジオールの可能性)Br J Pharmacol. 2020 Nov;177(21):4967-4970.

【要旨の抜粋】
コロナウイルス病2019(COVID-19)に有効な薬を開発することは非常に重要である。
精神作用の無い植物カンナビノイドであるカンナビジオール(CBD)は、次のようないくつかの理由でCOVID-19の重症度と進行を抑制する可能性があるという仮説を提案する。
(a)CBD含有量の多い大麻抽出物はヒト上皮細胞のいくつかの実験モデルにおいて、SARS-CoV2の2つの重要な受容体の発現を減少させた
(b)CBDは広範囲の免疫調節および抗炎症効果を発揮し、急性肺損傷の原因となる過剰なサイトカイン産生を軽減することができる。
(c)CBDはPPARγアゴニストとして作用し、それは直接的な抗ウイルス活性を示す
(d)PPARγアゴニストは線維芽細胞/筋線維芽細胞の活性化の調節因子であり、肺線維症の発症を阻害し、回復した患者の肺機能を改善することができる
前臨床の証拠によって裏付けられた私たちの仮説が、COVID-19パンデミックにおける治療薬としてカンナビジオールをテストするための研究を刺激することを願っている。 

炎症性サイトカインや炎症誘発性ケミカルメディエーターの異常な放出は、肺損傷や多臓器不全を引き起こし、重症急性呼吸器症候群-コロナウイルス-2(SARS-CoV2)の予後不良と密接に関連しています。
サイトカインストームを抑える理想的な薬剤候補は、他の適応症にすでに使用されており、好ましい安全性プロファイルを持ち、複数の作用機序を持ち、サイトカインストームを相乗的に軽減できるものです。さらにステロイドのような免疫抑制薬ではなく、過剰なサイトカイン産生を抑える免疫調節薬として機能する必要があります。

カンナビジオール(CBD)はSARS-CoV2侵入の重要な経路であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)および膜貫通セリンプロテアーゼ2(TMPRSS2)酵素をダウンレギュレートすることが報告されています

CBDはPPARγ(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ)のアゴニスト(作動薬)となります。
常在性肺胞マクロファージにおけるPPARγ活性化は、肺の炎症を有意に制限し、呼吸器ウイルス感染後の宿主の回復を促進することが報告されています。
肺胞マクロファージは主にPPARγを発現します。PPARγの活性化は、サイトカインの過剰分泌の制御にも関与し、その結果、組織の損傷が軽減されます。したがって、カンナビジオールは、常在性マクロファージからのサイトカインストームの発症を大幅に打ち消す可能性があります。
興味深いことに、PPARγアゴニストの予防的または治療的投与により、A型インフルエンザウイルス感染時の罹患率と死亡率が低下しました。
さらに、PPARγアゴニストは、ヒト免疫不全ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、B型肝炎ウイルス、およびC型肝炎ウイルスなどの異なるヒトウイルスによるウイルス複製を直接阻害する可能性が報告されています。

最近の報告によると、COVID-19生存者の一部は、持続的に肺機能障害と肺線維症を伴う感染後後遺症を発症する可能性があります。PPARγ受容体は、マウスモデルにおいて線維芽細胞/筋線維芽細胞の活性化およびコラーゲン分泌を調節し、線維性肺疾患における潜在的な治療標的と認識されています。カンナビジオールは喘息の動物モデルで肺の炎症と線維症を軽減することが示されています。
したがって、PPARγ受容体アゴニストであるカンナビジオールは、COVID-19で回復した患者の遅発性肺線維症の開始を制限する可能性があると考えられます

【カンナビジオールは精神作用を示さない大麻成分】
大麻草(マリファナ)には600種類を超える化合物が含まれていますが、そのうちカンナビノイド(Cannabinoid)と呼ばれる大麻草固有の成分が100種類以上存在します。カンナビノイドは大麻に固有の成分で、他の植物にはまだ見つかっていません。
大麻は人体に対して様々な薬効を発揮しますが、その薬効は多種類のカンナビノイドやベータ・カリオフィレンなどの精油成分などの相乗効果によります。
Δ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)は大麻の精神作用の原因となるカンナビノイドです。
THCが結合する受容体としてCB1とCB2の2種類のカンナビノイド受容体が見つかっています。CB1とCB2は7回膜貫通型のGタンパク質共役型受容体です。
カンナビジオール(Cannabidiol: CBD)はΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)と並んで大麻の主要なカンナビノイドです。

図:大麻の薬効成分の主体は、Δ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)で、この2つは全く異なる作用機序と薬効を示す。THCは脳内報酬系を活性化して依存性があり、精神作用(気分を高揚する作用)がある。一方、CBDには精神作用はなく、脳内報酬系を抑制して薬物依存を阻止する作用がある。

CBDはカンナビノイド受容体のCB1とCB2には作用しないためTHCのような精神作用はありません。その他の受容体(セロトニン受容体の5-HT1Aなど)やイオンチャネル(TRPV1やTRPV2など)に作用して多彩な作用を発揮します。CB1やCB2やGPR55に対してはアンタゴニスト(阻害剤)として作用します。GPR55はリゾホスファチジルイノシトール(LPI)を内因性リガンドとする受容体です。
前述のように、CBDはPPARγを活性化します
例えば、カンナジオールは多彩な機序で抗がん作用を発揮しますが、CBDはいくつかのGタンパク質共役型受容体(CB1, CB2, GPR55)の阻害作用やイオンチャネルへの作用などによって直接的な抗がん作用を発揮するようです。その結果、THCとは全く異なる作用を発揮し、THCの副作用を軽減する作用もあります。(下図)

図:カンナビジオール(Cannabidiol)は様々な受容体に作用して、その働きに影響する。図内の(+)はその受容体にアゴニスト(作動薬)として作用して受容体を刺激する。(−)は拮抗的あるいは阻害的に作用してその受容体の働きを抑制する。カンナビノイド受容体のCB1とCB2に対してカンナビジオールは阻害作用を示す。カンナビジオールはセロトニン受容体の5-HT1A受容体とTRPV1-2バニロイド受容体とPPARγ(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ)を活性化する。その他にも様々な受容体やタンパク質と作用して活性化や阻害の作用を示し、これらの総合的な作用によって多彩なメカニズムで抗がん作用を発揮する。(図はBr J Clin Pharmacol 75(2):303-312, 2012年のFigure 2より改変)

【カンナビジオールは神経組織の炎症を抑制する】
以下のような報告があります。

Decreased glial reactivity could be involved in the antipsychotic-like effect of cannabidiol.(グリア細胞の活性抑制がカンナビジオールの抗精神病作用に関与している)Schizophr Res. 164(1-3):155-63. 2015年

【要旨の抜粋】
NMDA(N-methyl-D-aspartate;N-メチル-D-アスパラギン酸)型受容体の活性低下が、統合失調症患者にみられる認知機能障害などの様々な症状の発現に関与していることが指摘されている。
統合失調症と神経組織の炎症の関連性が多くの研究によって示されており、ミクログリアやアストロサイトのようなグリア細胞が統合失調症の発症に関連している可能性が示唆されている。
大麻に含まれる精神作用のないカンナビノイドの代表であるカンナビジオールは抗炎症作用と神経細胞保護作用を有し、抗精神病作用を示すことが知られている。
本研究では、NMDA型受容体の阻害剤のMK-801を28日間投与してNMDA受容体の機能を阻害した統合失調症の動物実験モデルを用いて、カンナビジオール(30mgと60mg/kg)の投与による効果を検討した。
NMDA阻害薬のMK-801の長期間の投与は、社会的行動試験(social interaction test)と新奇物体認識試験(Novel object recognition test)による評価で、マウスの社会的行動と新私意物体への探索行動を障害した。
MK-801の長期投与は、前頭前皮質内側部(medial prefrontal cortex)におけるアストロサイトの数を増やし、前頭前皮質内側部と背側海馬(dorsal hippocampus)におけるミクログリアの活性化(ミクログリアの数は不変で活性化したミクログリアの割合の増加)が認められた。神経細胞の数には変化が見られなかった。
このようなMK-801投与による行動障害と病理学的なグリア細胞の変化は、カンナビジオールおよびクロザピン(clozapine:非定型抗精神病薬で治療抵抗性の統合失調症の治療薬)によって抑制された。
このような実験結果から、カンナビジオールは精神病治療薬としての効果を有していることが示された。この効果の作用メカニズムはまだ十分に解明されていないが、カンナビジオールの抗炎症作用と神経細胞保護作用が関与している可能性があり、ミクログリアの活性化の阻害が統合失調症の症状の改善に寄与している可能性が示唆された。

以下のような報告があります。

In silico inquest reveals the efficacy of Cannabis in the treatment of post-Covid-19 related neurodegeneration(In silicoによる探索は、Covid-19に関連する神経変性の治療に大麻の有効性を明らかにする)J Biomol Struct Dyn. 2021 Apr 2;1-10.

【要旨の抜粋】
Covid-19パンデミックの原因であるコロナウイルス(SARS-CoV-2)は、致命的な病原体である。人口の大部分はこのウイルスに感染する可能性がある。Covid-19に対するワクチンが使用されて、ウイルス感染率は軽減した。しかし、身体的疲労、精神異常、炎症および他の多臓器障害が、Covid-19の症状として発生している。これらの症状の長期的な影響は甚大である。
この研究では、Covidの後遺症に対処するための戦略を模索した。
3つのヒトタンパク質、すなわちACE2、インターロイキン-6、膜貫通型セリンプロテアーゼとNRP1は、Covid-19タンパク質を介して損傷を受け、Covid感染後に発現が亢進することがすでに報告されている。
この研究の対象植物は大麻である。分子ドッキングとシミュレーションの研究により、大麻から得られたカンナビジオール(CBD)とカンナビバリン(CVN)は、Long-COVIDの症状に関連する中枢神経系タンパク質に結合し、それらの活性を低下できることが明らかになった。したがって、私たちは大麻を、Covid後遺症の症状に対する重要な治療植物として提案する。

in silicoはコンピュータを使った解析です。このコンピュータを使った解析で、カンナビジオール(CBD)とカンナビバリン(CVN)が、COVID-19の後遺症(Long COVID)の治療に役立つ可能性を指摘しています。
以下のような報告があります。

Could Cannabidiol Be a Treatment for Coronavirus Disease-19-Related Anxiety Disorders?(カンナビジオールはコロナウイルス病-19関連の不安障害の治療になりますか?)Cannabis Cannabinoid Res. 2021 Feb 12;6(1):7-18.

【要旨の抜粋】
コロナウイルス病-19(COVID-19)関連の不安および心的外傷後ストレス症状(post-traumatic stress symptoms)または心的外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder)は、現在の新型コロナ感染症の流行から生じる重大な長期的問題である可能性がある。大麻から分離された化学物質であるカンナビジオール(CBD)は、抗不安作用が報告されており、COVID-19関連の不安障害の治療の選択肢となる可能性がある。
世界中のCBD市場では、不安、ストレス、うつ病、睡眠障害が一貫して人々がCBDを使用する最大の理由となっている。
小規模の無作為化対照臨床試験では、CBD(300-800 mg)は、健康なボランティア、社交不安障害の患者、精神病の臨床的リスクが高い患者、パーキンソン病患者、およびヘロイン使用障害のある個人の不安を軽減する。
観察研究と症例報告は、不安神経症と睡眠障害、クローン病、うつ病、および心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対する有効性を示している。
不安を伴うことが多い睡眠(睡眠時間/質の向上と悪夢の減少)とうつ病の改善におけるCBDの治療的価値も裏付けている。
CBDのこれらの機能を組み合わせることで、COVID-19関連の心的外傷後ストレス症状における魅力的な新しい治療オプションとなる可能性がある。適切に設計されたランダム化された対照試験による調査とテストに値する。

このように、カンナビジオール(CBD)が、COVID-19感染によって引き起こされる神経変性または炎症性損傷を軽減する薬効があるため、COVID-19の潜在的な補助療法として議論されています
内因性カンナビノイドのパルミトイルエタノールアミドが、COVID-19の神経組織の炎症を抑制し、Long COVIDに対する治療効果の可能性については772話で解説しています。

COVID-19の後遺症の治療にカンナビジオールパルミトイルエタノールアミドは試してみる価値はあると思います。両方ともアマゾンなどのネット通販で購入できます。

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