883)シンバスタチンはがん患者の生存率を高める

図:3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A(HMG-CoA)がHMG-CoA還元酵素によってメバロン酸に変換され(①)、メバロン酸からゲラニル・ピロリン酸(②)、ファルネシル・ピロリン酸(③)が合成され、さらにコレステロールが合成される(④)。ファルネシル・ピロリン酸からゲラニルゲラニル・ピロリン酸が合成され、このゲラニルゲラニル・ピロリン酸とファルネシル・ピロリン酸は低分子量Gタンパク質のRasやRhoの活性化に必要(⑤)。さらにメバロン酸経路の中間代謝産物はインスリン様成長因子-1(IGF-1)受容体の活性化にも関与する(⑥)。これらはがん細胞の増殖を促進する(⑦)。高脂血症治療薬のスタチンはHMG-CoA還元酵素とHMG-CoAとの結合を競合阻害することによって活性を阻害する(⑧)。スタチンは様々なメカニズムでがん細胞の増殖や転移を抑制し(⑨)、がん患者の生存率を高める(⑩)。 

883)シンバスタチンはがん患者の生存率を高める

【コレステロールはアセチルCoAを材料に体内で合成される】
コレステロールは、動物細胞にとっては生体膜の構成物質の一つであり、細胞膜の流動性や機能の調節に重要な働きを行っています。さらにシグナル伝達など様々な生命現象に関わる重要な化合物で、生体内に広く分布します。
コレステロールは食物にも含まれていますが、体内のコレステロールのうち、食事由来は3割程度で、7割くらいは糖質や脂肪酸を材料にして体内(肝臓や皮膚、腸粘膜、副腎、卵巣、精巣など)で合成されています

コレステロールはアセチルCoA(グルコースや脂肪酸などの分解によって生成される)からメバロン酸を経由して合成されます。この生合成経路をメバロン酸経路と言います。
メバロン酸経路の律速酵素は3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoA還元酵素(3-hydroxy-3-methylglutaryl-CoA reductase ;HMG-CoA還元酵素)です。

一連の化学反応系において、全体の反応速度を決定する反応を律速段階と言い、その反応に関わる酵素を律速酵素と言います。律速(りっそく)というのは「速さ」を「律する(制御する)」という意味で、「全体の反応速度を決める」という意味の用語です。例えば、ボトル(瓶)に水を入れて、逆さまにして水を出すとき、水が出る速さを決めるのは、ボトルの首(ネック)の部分の大きさになります。化学反応においてボトルネックと同じ役割を担うのが律速酵素です。

HMG-CoA還元酵素を阻害すると肝臓でのコレステロール生合成を抑制することができるため、多くのHMG-CoA還元酵素阻害剤が開発され高脂血症治療薬として臨床で使われています。
このようなHMG-CoA還元酵素の働きを阻害することによって血液中のコレステロ-ル値を低下させる薬(HMG-CoA還元酵素阻害剤)の総称をスタチン(Statin)といいます。
(下図)

図:スタチンは肝臓においてヒドロキシメチルグルタリル-CoA(HMG-CoA)からメバロン酸に変換するHMG-CoA還元酵素を阻害することによってコレステロール合成を抑制する。

最初のスタチンであるメバスタチンは1973年に青カビの一種から発見され、それ以降、様々な種類のスタチンが開発され、高コレステロール血症の治療薬として世界各国で使用されています。近年の大規模臨床試験により、スタチンは高脂血症患者での心筋梗塞や脳血管障害の発症リスクを低下させる効果があることが明らかにされています

【メバロン酸経路の中間代謝産物ががん細胞の増殖を亢進する】
細胞内でメバロン酸経路は、コレステロールだけでなく細胞の増殖や機能に重要な働きを持つ多くの物質を産生しています
例えば、細胞内シグナル伝達系のスイッチとして働くGTP結合タンパク質の機能にメバロン酸経路の中間代謝産物のファルネシル・ピロリン酸ゲラニルゲラニル・ピロリン酸が必要です。
GTP結合タンパク質(Gタンパク質)は内在性のGTP加水分解(GTPase)活性をもつタンパク質の総称で、この内、低分子量Gタンパク質群(Ras, Rho,など)は分子量が2万~3万のタンパク質で、これまで100種類以上報告されています。RasやRhoはがん遺伝子として知られています。

RasやRhoといったGTP結合タンパク質(Gタンパク質)が機能を発揮するためにはGタンパク質がプレニル化をいう修飾を受ける必要があります。
プレニル化反応(Prenylation)とは、疎水性のプレニル基を付加する反応のことです。プレニル基とは、炭素数5のイソプレン単位で構成される構造単位の総称ですが、このプレニル基はメバロン酸経路で合成されます。(下図)

図:タンパク質にファルネシル基やゲラニルゲラニル基が結合すると細胞膜と結合できるようになる。

また、がん細胞の増殖を促進するインスリン様成長因子-1(IGF-1)の受容体の働きにも、メバロン酸経路の代謝産物が必要で、メバロン酸経路の阻害がIGF-1受容体の働きを阻害して、がん細胞の増殖を抑制することが知られています。
このように、がん細胞のメバロン酸経路を阻害することは、がん細胞の増殖を抑制することになります。
(トップの図参照)

【脂溶性スタチンは乳がん治療後の再発率を低下させる】
スタチンによる抗腫瘍効果は薬剤の種類によって異なります。スタチンには水溶性のものと脂溶性のものがあり、がん細胞に対する効果を期待するには脂溶性のものを使う必要があります
水溶性スタチンは肝臓細胞膜に存在する有機アニオン輸送担体によって細胞内に取り込まれるので、肝細胞に選択的に取り込まれます。一方、脂溶性スタチンは細胞膜透過性が良いので、あらゆる臓器・組織の細胞内へ移行し得えます。
つまり、肝臓におけるコレステロール産生を抑制する目的では、他の細胞に影響が少ない点で水溶性スタチンの方が良いのですが、がん細胞に取り込まれて、メバロン酸経路を阻害して増殖抑制効果を期待するには脂溶性のスタチンの方が良いのです

スタチンの中で最も脂溶性の高いのがシンバスタチン(simvastatin)で、乳がんの患者さんがシンバスタチンを服用すると再発率が顕著に低下することが複数の臨床試験で報告されています。
例えば、1996年から2003年の間にデンマークの乳がん登録に報告されたステージIからIIIの浸潤性乳がんの患者18,769人を対象にしたデンマークの全国規模の前向きコホート研究の結果が報告されています。
Statin Prescriptions and Breast Cancer Recurrence Risk: Danish Nationwide Prospective Cohort Study. J Natl Cancer Inst 2011;103:1461-1468

この研究では、平均6.8年間追跡して3,419人の再発を認めています。6.8年間で18%の再発率です。
シンバスタチンを服用していた乳がんサバイバーはスタチンを服用していない群に比べて再発リスクが70%に減っていました。この値は、スタチンを服用しない場合に比べて、シンバスタチンを服用すると10年間の追跡で100人あたり10人の再発患者を減らすのに相当するという結果です。
この研究において、水溶性スタチンには再発予防効果は認められませんでした。

脂溶性スタチンが乳がんの予後の改善に有効であることはメタ解析でも指摘されています。
スタチンの使用と乳がんの転帰(再発や死亡)との関連を記述した14件の臨床研究をメタ解析した報告では、脂溶性スタチンを服用していた乳がん患者は、再発や死亡率が30%前後の低下が認められています。この研究でも、水溶性スタチンには再発や死亡を減少させる効果は認められませんでした
Impact of statin use on cancer recurrence and mortality in breast cancer: A systematic review and meta-analysis. Int J Cancer. 2016 Sep 15;139(6):1281-8.

HMG-CoA還元酵素は乳がんに発現し,予後関連因子であることが同定されています。したがって、HMG-CoA還元酵素阻害剤のスタチン(特に脂溶性のシンバスタチン)は、乳がん細胞の増殖を抑制する効果が期待できます。以下のような報告があります。

Post-diagnostic statin use and breast cancer-specific mortality: a population-based cohort study.(乳がん診断後のスタチン使用と乳がん特異的死亡率:集団ベースのコホート研究)Breast Cancer Res Treat. 2023 May;199(1):195-206.

ニュージーランドの乳がん女性の大規模サンプルを対象に、診断後のスタチンの使用と乳がんの転帰(死亡および再発)との関連を調べています。
2007年から2016年の間に初めて原発性乳がんと診断された女性を、ニュージーランドの人口ベースの4つの地域乳がん登録から特定し、国の医薬品データ、退院、死亡記録と関連付けました。 Cox 比例ハザード モデルを使用して、診断後のスタチン使用に関連する乳がん特異的死亡のハザードを推定しました。

分析対象となった14,976人の女性のうち、27%が診断後にスタチンを使用し、追跡期間の中央値は4.51年でした。スタチンの使用は非使用と比較して、乳がん特異的死亡率の統計的に有意な減少と関連していました(調整後ハザード比=0.74; 95%信頼区間:0.63-0.86)。

「新規」スタチン使用者のサブグループを考慮すると関連性は弱まりましたが(HR: 0.91; 0.69-1.19)、他の分析では、エストロゲン受容体陽性患者(ハザード比= 0.77; 95%信頼区間:0.63-0.94) )、閉経後の女性(ハザード比=0.74; 95%信頼区間:0.63-0.88)、および進行期疾患の女性(ハザード比=0.65; 95%信頼区間: 0.49-0.84)ではスタチンの保護効果がより顕著であることが明らかになりました

結論として、 この研究では、スタチンの使用は乳がんによる死亡リスクの統計的に有意な減少と関連しており、サブグループ解析ではエストロゲン受容体陽性患者、閉経後の女性、および進行期の疾患を持つ女性においてより高い予防効果があることが明らかになりました

ハザード(Hazard)というのは「単位時間あたりのイベント発生率」で、この論文のイベント(出来事)は死亡です。この報告において、スタチン非使用群に対するスタチン使用群のがん患者の死亡率のハザード比が0.65というのは、スタチンを服用したがん患者はスタチンを服用しなかったがん患者に比べて、単位時間あたりの死亡が35%減少したという意味になります。
95%信頼区間とは,仮に同様な試験を100回した場合に95回はこの値の幅の中に入るという意味です。95%信頼区間が0.49-0.84というのは、同様な試験を100回行なえば、95回はハザード比が0.49-0.84の間に入ることを意味します。つまり、がん患者がスタチン治療を併用すると、追跡期間中の死亡のリスクが49%から84%程度に低下する確率が95%ということです。
進行した乳がんで、エストロゲン受容体陽性で閉経後の患者はスタチンを併用すると死亡リスクが半分近くに減少する可能性を示唆しています。

【スタチンは膵臓がん患者の生存率を高める】
スタチンが膵臓がん患者の延命にも有効であることが示されています。
例えば、米国のがん登録データを使って7813人の高齢の膵臓がん患者を解析した結果が報告されています。
The association of statin use after cancer diagnosis with survival in pancreatic cancer patients: a SEER-medicare analysis.PLoS One. 2015 Apr 1;10(4):e0121783.

その結果、全ての膵臓がん患者を対象にした場合は、がん診断後のスタチン使用と生存率との間には関連は認めませんでした(ハザード比 = 0.94, 95%信頼区間: 0.89 - 1.01)。
しかし、ステージIとIIの膵臓がん患者を対象にした場合は、がん診断後のスタチン使用は死亡率の21%の低下が認められました(ハザード比 = 0.79, 95% 信頼区間: 0.67 - 0.93)。腫瘍摘出手術を受けた膵臓がん患者でも、がん診断後のスタチン使用は同様の生存率の改善が認められました。
この論文の結論は「比較的早期あるいは切除可能な膵臓がん患者において、がん診断後のスタチン使用は生存率を高める」となっています。

この研究では、がん診断前にスタチンを使用していなくても、がん診断後にスタチンを服用すると膵臓がん患者の生存率を高めることを示しています。ただし、統計的に有意な生存率の改善がみられたのはステージIかIIあるいは切除可能の比較的早期の膵臓がん患者さんでした
膵臓がんの場合、ステージIII以上や切除できない局所進行がんでは、平均余命が半年から1年くらいという厳しい状況ですので、スタチンによる統計的有意な生存率改善を得るほどにはスタチンの抗腫瘍効果は強くないということかもしれません。

しかし、進行した膵臓がんでも生存期間を延ばす目的でスタチンを服用するメリットはあることが報告されています。膵臓がん患者における死亡率に対するスタチンとコレステロールの影響を検討した研究があります。(Influence of Statins and Cholesterol on Mortality Among Patients With Pancreatic Cancer. J Natl Cancer Inst. 2016 Dec 31;109(5)

この研究は2142名の膵管腺がん患者を対象に、薬局の記録を使って、スタチンの種類や投与期間や投与量を解析した後ろ向きコホート研究です。死亡率に対するシンバスタチン、ロバスタチン、アトルバスタチン、プラバスタチンおよびロスバスタチンの影響を評価しています。
その結果、いかなるスタチンの使用はいずれも死亡リスクの低下と関連していました。個々のスタチンを評価すると、シンバスタチン(ハザード比 = 0.87,95%信頼区間 = 0.77〜0.98)およびアトルバスタチン(ハザード比 = 0.58,95%信頼区間 = 0.46〜0.72)の死亡率の低下が認められました。
シンバスタチンもアトルバスタチンもともに脂溶性です。
シンバスタチンはリポバスなどの商品名で、アトルバスタチンはリピトールなどの製品名で販売されています。いずれも後発品があり、安価な薬です。

コレステロールは死亡率と関連がなく、スタチンと生存との間の関係を媒介しませんでした。つまり、コレステロールレベルよりスタチンの使用が、膵臓がん患者の死亡リスクの低下と関連していました。スタチン類は、脂質に依存しない機構を介して生存を改善する可能性が示唆されます。
スタチンが転移を伴う膵臓がん患者の生存期間を延ばす効果が2つの第III相試験のプール分析で示されています。以下のような報告があります。

Statin treatment and outcomes of metastatic pancreatic cancer: a pooled analysis of two phase III studies.(スタチン治療と転移性膵臓がんの転帰:2つの第III相試験のプール分析)Clin Transl Oncol. 2019 Jun;21(6):810-816.

【要旨の抜粋】
背景:転移性膵臓がん患者の生存に対するスタチンの併用療法の影響を評価することを目的とした。

方法:2つの臨床試験(NCT01124786とNCT00844649)の匿名化された患者データのプール分析を実施した。患者サブセット(スタチンを投与した患者またはスタチンを投与しなかった患者)に応じた全生存期間および無増悪生存期間を、カプラン・マイヤー分析およびログランク検定により評価した。全生存期間および無増悪生存期間に潜在的に影響を及ぼすさまざまな要因を、単変量および多変量のCox回帰分析にて検討した。

結果:この研究では、合計797人の膵臓がん患者が評価された。 156人の患者がスタチンを服用しており、641人がスタチンを服用していなかった。カプラン・マイヤー生存推定値を使用すると、スタチンを投与された患者は、投与されなかった患者と比較して、全生存期間および無増悪生存期間が統計的有意な延長を認めた(それぞれP = 0.008; P <0.001)。
全生存期間に影響を与える要因の多変量解析では、全生存期間の悪化に関連していたのは、パフォーマンス状態の悪化(P <0.001)、スタチン使用なし(P = 0.044)、複数の転移(P = 0.023)であった。
同様に、無増悪生存期間に影響を与える要因の多変量解析では、無増悪生存期間の悪化に関連していたのは、パフォーマンス状態の悪化(P <0.001)、ゲムシタビン化学療法(P = 0.015)、スタチン使用なし(P = 0.048)であった 。
スタチンの使用は全生存期間および無増悪生存期間の改善と関連していた(それぞれP = 0.005; P = 0.040)。

結論:スタチンの使用は、一次化学療法で治療された転移性膵臓がん患者の全生存率の向上と関連することが示された。このスタチンの潜在的な効果を確認するために前向き研究が必要である。

この論文で、「ゲムシタビン化学療法が無増悪生存期間の悪化に関連していた(P = 0.015)」というのは膵臓がんの抗がん剤治療にゲムシタビンは効果が無い、むしろ病状を悪化させることを示唆しています。

がん患者の死亡率を減少させるスタチンの効果は、乳がんや膵臓がん以外にも、大腸がん、肺がん、前立腺がん、卵巣がん、肝細胞がんなど多くのがんでも報告されています。
例えば、スタチン服用と肺がんの生存率に関して以下のような報告があります。

Effects of statin exposure and lung cancer survival: A meta-analysis of observational studies.(スタチン服用の効果と肺がんの生存:観察研究のメタ解析)Pharmacol Res. 2019 Mar;141:357-365. 

【要旨】
スタチン服用は、いくつかのがんの生存率を改善することが報告されている。しかし、肺がん患者のスタチン服用と予後との関連を評価する研究の結果は一致していない。スタチン服用と肺がんの予後との関連性を調査した研究を検討した。
主要評価項目は全生存期間であり、二次評価項目はがん特異的生存期間と無再発生存期間であった。これらの結果のハザード比と95%信頼区間を解析した。
99,297人のデータからなる13の研究が特定された。研究は、バイアスのリスクが低から中程度であるとランク付けされた。
メタ分析により、スタチン服用は全生存期間(ハザード比= 0.79、95%信頼区間: 0.72〜0.86)、がん特異的生存期間(ハザード比= 0.83、95%信頼区間: 0.77〜0.89)および無再発生存期間(ハザード比= 0.85、95%信頼区間: 0.81〜0.89)の改善と有意に関連していることが示された。
サブグループ分析では、全生存期間は、肺がんの診断後のスタチン使用者(ハザード比=0.68, 95% 信頼区間:0.51〜0.92)は、診断前の服用者(ハザード比= 0.86、95%信頼区間: 0.81〜0.90)および現在の使用者(ハザード比= 0.79、95%信頼区間: 0.62〜1.02)よりも改善が高かった。
さらに、スタチン使用者は、他のステージの患者よりもステージIV肺がん患者(ハザード比= 0.77、95%信頼区間: 0.74-0.79)でより多くの生存利益を得る可能性が認められた
スタチン服用は、肺がん患者の生存率の大幅な改善と関連している。今後さらに、肺がん患者におけるスタチンの治療的役割をさらに実証するための研究が必要である。

以下のような報告もあります。

The effect of statins on survival in patients with stage IV lung cancer.(ステージ4の肺がん患者の生存におけるスタチンの効果)Lung Cancer. 2016 Sep;99:137-42.

この研究では、肺がんの診断前にスタチンを服用していた場合と服用していなかった場合のステージIV非小細胞肺がん患者の生存率を比較しています。
メディケアのがん登録のデータを使用して、2007年から2009年にかけてステージIV非小細胞肺がんと診断された65歳以上の5118人の患者を特定し、交絡因子を調整しながら、全死因死亡率および肺がん特異的死亡率とスタチン使用の関連を解析しました。

全体として、患者の27%が肺がんの診断時にスタチンを服用していました。スタチン服用群での生存期間の中央値は7ヶ月でしたが、スタチンを服用していない患者では4ヶ月でした(p <0.001)
ベースラインの患者特性、癌の特性、病期分類、化学療法の使用などの因子を調整したあとのハザード比を解析すると、スタチンの服用は全死因死亡率(ハザード比=0.76、95%信頼区間:0.73-0.79)および肺がん特異的死亡率(ハザード比=0.77、95%信頼区間:0.73 -0.81)の有意な低下を認めました。
つまり、スタチンの使用は、ステージ4期の非小細胞肺がん患者の生存率を改善し、スタチンの潜在的な抗がん効果を示唆しています。
 

シンバスタチンが卵巣がんのがん幹細胞の性質を阻害して転移を抑制する効果が報告がされています。

Simvastatin interferes with cancer 'stem-cell' plasticity reducing metastasis in ovarian cancer.(シンバスタチンは、がんの「幹細胞」可塑性を妨げ、卵巣がんの転移を抑制する)Endocr Relat Cancer. 2018 Oct;25(10):821-836.

がん起始細胞(cancer-initiating cells)が持つ幹細胞様の細胞可塑性は、がん細胞の転移と進行の原因となっています。この報告では、親油性スタチンであるシンバスタチンが、婦人科悪性腫瘍の中で最も致命的な高悪性度漿液性卵巣がんのがん起始細胞の転移能を阻害するかどうかを検討しました。
シンバスタチンはがん幹細胞性および上皮間葉細胞可塑性に関するマーカーの発現パターン(mRNAとタンパク質レベルの両方)を変更し、がん起始細胞の腫瘍塊形成を著しく阻害することを実証しました。その結果、がん起始細胞は転移性が低下し、移植腫瘍の増大を抑制しました。
シンバスタチン非使用者と比較して、シンバスタチン使用者は生存率と生活の質において良好な結果が認められました。

【スタチンは進行がん患者の死亡率を低下する】
以下のような報告があります。

The effects of statins in patients with advanced-stage cancers - a systematic review and meta-analysis.(進行期がん患者におけるスタチンの効果 - 系統的レビューとメタ分析)Front Oncol. 2023 Aug 18:13:1234713.

【要旨の抜粋】
背景:スタチン療法は、幅広い種類のがんおよび全体的な病期(ステージ)において死亡率を低下させることが示されている。しかし、進行がん患者の生存率を高める効果については不確実な点が残っている。

方法:スタチン療法を受けた進行期がん患者の全生存期間、がん特異的生存期間、無増悪生存期間のハザード比を比較するすべての研究のデータを用いてメタ分析を実施した。研究は、開始から 2022 年 12 月 31 日までの PubMed、Embase、および Web of Science データベースから選択された。がんの種類は、年に一度の検査では発見が困難で進行した状態で見つかることの多い、肺がん、膵臓がん、卵巣がんなどに限定されるので、27 件の研究がメタ分析の対象となった。

結果:スタチン療法は全死因死亡率の26%減少(ハザード比=0.74、95%信頼区間:0.67〜0.81)、がん特異的死亡率の26%減少(ハザード比=0.74、95%信頼区間:0.61〜0.88)と関連していた。進行期がん患者の無増悪生存期間は24%増加した(ハザード比=0.76; 95%信頼区間:0.65〜0.87)。この関連性は、研究デザイン、研究地域、がんの種類、その他の医療によって弱められたり強化されたりすることはなかった。他の抗がん剤の併用は交絡作用を引き起こさなかった。

結論: スタチン療法は、全生存期間とがん特異的生存期間に大きな利点をもたらす。承認された免疫療法薬よりも効果は低いかもしれないが、その費用対効果は劇的な有効性につながる可能性がある。将来の臨床試験では、がん治療としてスタチン系薬剤の併用が強く推奨される。

以上のような多くのエビデンスから、がん患者は生存率を高める目的でシンバスタチンの服用は強く推奨できると思います。

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