CLASS3103 三十三組

しがない個人ホームページ管理人の日記です。

【読書】涅槃

2022-06-27 20:55:49 | 読書感想文とか読み物レビウー
涅槃  作:垣根涼介

宇喜多直家の勃興を描いた時代小説でありました
信長が版図を広げる少し前、備前における小勢力の小競り合いと、
武士として生きる方法、そして、才覚について、
主人公の直家が、そんな気持ちもないのに、流れるまま、
殿様へと出世していく物語でありました

いわゆる梟雄と呼ばれる暴虐というか、謀略のそれこれはあまり悪辣には描かれず、
どうやって部門、一門を発展させるか、そのために必要なことをただやると
自家を一番として行動していく様が、結果として卑怯となることもあり、
他家にとって脅威でしかないというスタンスで描かれていて面白かった
なにせ頭がよいというのが主題で、そこに武家の誇りとか、しがらみのようなものがない
だから、平然と卑怯と呼ばれる行為ができてしまうと
そんな塩梅なのが面白くて、なかなか読まされたのであります

途中、突然に閨の話をこんこんとやりだしたときは、
この小説大丈夫かと思ってしまったんだが、
古き良き時代小説には、だいたいこういうシーンがつきものだよなと
勝手に納得したりして、それでいてその修練に一途である直家の姿が
キャラクタとして好ましく映るのが面白かった
モテたんだろうと思わされるわ

現代人の視点もありつつ、武家の、その当時の情勢を鑑みての
仕方ない政治駆け引きというのもでてくるんだが、
そこが好きではないけど、やらざるをえないまま、無双していくというのが
読んでいて面白くて仕方なかったんだが
当時の風呂描写を執拗にしたかと思えば、いわゆるサウナ道的「ととのう」を堪能してみたりと
このあたり、現代の小説っぽくてすごく面白かった
蒸し風呂でその発想はなんというか、いいなぁと思うのである
ととのったことないけどな

悪辣行為はあまり執拗に描かれていないので、
インパクトがあったのは、血を分けた娘の嫁ぎ先を皆殺しにせざるを得なかったところくらいで
まぁ、他の場合も、だいたいこれと同じような感じからやったんだろうなと
思ったりしつつ、腕一本でのし上がり、それでも、毛利と織田という大きな勢力とどうしていくべきか
中小企業の社長みたいな心境で描かれるのが胸に響いたのであった
主君というか、そうあるべきという立場を演じる人という見方が
面白いと思ったのだが、同時に、だからこそ誰かの傘下に入るのがいやだというのも
ものすごく理解できてよかった