永田社長と「羅生門」のことは切っても切れないと思い前回登場させましたら、
とても反響があり驚きました。色々伝聞はありますが、永田社長と黒沢監督の
2人がいなければ「羅生門」は完成しなかったと思っていただければ本望です。
「羅生門」の受賞で気をよくした永田社長は、大映ならでわの手法を駆使して
更に海外進出を目指ざそうと製作された作品がカンヌでグランプリ、アメリカ・
アカデミーで優秀作品賞を獲得した「地獄門」(昭和30年・1953)です。
この作品に触れる前に大映のカラーに関する当時の進捗状況にどうしても触れ
なければなりません。
当時外国ではもうカラーは当り前の時代に入っていたのですが、我国の状況は
遅々として進んでおらず、大映は昭和25年頃から色々と研究を始めていました。
世には出さなかったけど、フジ・カラーを使って「キャバレーの花籠」や、少し
遅れてコニカラーでも「歌は風に乗って」の短編をテストで製作したのですが、
どちらもボツにしています。
その時期に松竹が国産カラーで「カルメン故郷に帰る」をカラーが不完全ながら
も公開にこぎつけました。
大映はどうせ出すのなら完全なカラー作品を出したいと考えたために松竹に先
を越されたことになります。私的には「カルメン・・・」の努力を大いに買い評価し
ますが、勿論そんな事は言えなかった時代でもありました。
これから先は当時の永田社長の言葉を引用することにします・・・
一般の客は国産カラーだからというハンデキャップをつけてくれない。私は大映
の技術者をヨーロッパやアメリカに派遣し、私も自ら乗り込んで勉強したんだ。
テクニカラーはあまりにも費用がかかりすぎる。イーストマンもいま一歩なので
アンスコ・カラーを使う寸前まで行った。だがすぐにアメリカの撮影所は電気が
直流で、日本に持ち込むと膨大な電気設備がかかることに気付いた。
その点イーストマンはタングステン・タイプの電球でOKだし、立派に色の出る
フイルムの研究が完成したと言うので決心した。日本に帰ってテスト用のフイル
ムを送ってきたので、それを使ってみるとイーストマン・カラーは日本人の皮膚
と合う。それにカメラの前にフィルターのかけ方を上手くすれば良いということ
で最終決定をした。
さらに監督の衣笠貞之助と相談し、宮川カメラマンと双璧の杉山公平や技術者
を アメリカに派遣して研究させた。こうして出来上がったのが「地獄門」である。
カンヌでこれを見たジャン・コクトオが「自分が生まれてからこれまで、こん
な美しいものを見たことがない」といって激賞した。イーストマンでもこれを長
くイーストマンの歴史に残したいということで今でもちゃんと保存されている。
苦労して選んだフイルムが良かっただけではない、もっと本質的な根本的なもの
がある。私の狭い視野であるけれど、日本ほど色彩のセンスを持っている国民は
いないと思う。それは長い間の生活の伝統だと思うが、日本人の生活の中に応用
されているすべての色彩が傑出している。女性の着物にしろ、蒔絵にしろ、また
建物とかお宮の鳥居など、神社仏閣に使われている色、それをそのままキャッチ
して立派なものが出来るといったら外国人が驚くのは当り前だと思う。
ただ日本人自身がそれを知らないだけだ。
その後、アメリカの映画会社の技術者が、当時少なくとも映画においては後進国
であり、色彩技術においても劣るはずの日本が、どうしてこれほど傑出したもの
が出来るのか、調査してこいというので来たが判らない。その結果あんまり本国
から督促されるので「わかりました。日本のカラーのよいのは、そりフィルムを
現像する水がいいので、あれだけの傑出した色彩映画が出来たのです・・・」
こういう答えをした。後からその技術者がぼくをつかまえて言う「そうでも言わ
なければ、いいようがなかったから、そう言っておいた・・・」アメリカ人らしい話だ。
また「地獄門」がなぜこれだけ受けたかというと、カラーが美しかっただけでは
ないと私は思う。ストリーが簡単で、登場人物が少なく、しかもバック・グラ
ンドにおいては日本の美というもの、芸術的なものをちゃんと備えていたと思う。
題名は「地獄門」とつけたけれど、あれは初代大映社長の菊池寛先生の原作
「袈裟と盛遠」を改題して内容を引き出したものであり、外国人に受ける物語の
要素が大いに盛り込まれていたと自負している。。。(社長の話はここまで)
続いて「雨月物語」や「大仏開眼」などが製作されていくことになるのですが、
永田社長は目の付け方が他社とは違うのだぞ・・・ と言いたかったのだろうし、
監督も黒沢に頼らなくても溝口・衣笠がいる、そして撮影や技術者の層の厚さ
を誇りたかったに違いないと私は思っています。
今回はこのくらいで・・・。 (続く)
↑左から雷蔵と一人置いて私。 ↑京都撮影所のグランプリ広場で私。
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