「公教育を問い直すフリースクール」1

標記内容の研究紀要が、北大大学院教育学研究院・教育行政学研究グループから発表された(紀要の書名は「公教育システム研究」)。中心となっている先生は横井敏郎准教授であるが、横井さんは次のように<編集後記>に書かれている。

「これまでは…主に学校と学校教育行政を対象として調査を行っており、フリースクールを対象としたのは今回が初めてである。わが国学校教育の困難が言われて久しいが、北海道だけでも毎年4,000人の不登校児童生徒、3,000人の高校中退者がでており、その状況は変わりそうにない。子どもの学習権保障のために、いまどんな教育制度設計がもとめられているのかをあらためて考えることとした」。

不登校や中退などの問題をいつも考えつづけてきた私たちは、どうしてこのことを重要なテーマとして教育学の専門的な研究者がまともにとりあげないのだろう、と疑問に思ってきた。このブログでも、その期待を込めて「教育科学研究会」などを批判したり注文をつけたりしてきたのだが、今回の北大教育行政学研究グループの試みに大いなる拍手をおくりたい。
なお、4月5日に北海道教育委員会とフリースクールネットとの定例の集まりで、道教委の担当者が「こういう研究紀要が出されているのですよ」と紹介してくれたこともうれしかった。

私たちはしばしば、「子どもの学ぶ権利の保障」が今日の教育と学校のシステムの中で行われていない、フリースクールはこれを回復する役割をもっている、という意味のことを言ってきた。このことに関連して横井さんの指摘は非常に明確である。
「子どもは十分な能力をもたないがゆえに、特別の保護の対象ではあっても、人権主体とはみなされなかった」。しかしそういう「強い人権論」の立場ではなく、「子どもは弱い存在であるがゆえにこそ人権主体として認めていくべき」という「弱い人権論」的な立場をいう。

(さらに横井さんは、「教育権」にかかわる諸点を指摘しているが、戦後の日本の教育権論で言われてきた内的事項外的事項区分論に関する説明については、大いに触発された)。

「公教育制度を問い直すフリースクール-札幌自由が丘学園の調査-」は分担して執筆されている。ただ「フリースクール」分野だけでなく、教育特区制にたつ「三和高校」の経緯等についても、触れられているのだが、総括的に「札幌自由が丘学園は『新しい社会的共同から新しい社会的教育制度へ』と展開しており、ここに現代学校の新たな可能性をみることができる」。
「このように、フリースクールは、現代学校という公教育制度をとらえなおす契機をもつものであり…子どもの権利を保障する新たな取り組みなのである」。
すなわち、札幌自由が丘学園の取り組みを広いパースペクティブにもとづいて評価している。
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