じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

松本清張「駆ける男」

2022-09-30 15:52:47 | Weblog

★ 日本推理作家協会編「ミステリー傑作選9 犯罪ショッピング」から松本清張さんの「駆ける男」を読んだ。

★ 蒐集癖のある男。薬の外商のついでに、出張先のホテルであまり価値のないものをくすねることを趣味にしていた。その日、男は格式ある旅館に宿泊し、貴賓室の品物をコレクションに加えようともくろんだ。

★ ところが、その日はあいにく貴賓室は宿泊客で埋まり、男は何とか忍び込もうとする。そんな折、ある事件が起こる。 

★ この作品、構成が少し変わっている。導入部は蒐集癖のある男を中心に描かれているが、途中から貴賓室に宿泊する夫婦に話題が移る。

★ この夫婦。初老の男性と30代の若い女性。事業に成功し、豪奢な生活をしているようだ。二人が旅館に併設している料亭で食事中、夫がいきなり訳の分からない言葉を発したかと思うと、まっしぐらに駆けだしたのである。ただでさえ心臓が弱かったので、夫は心臓麻痺で死んでしまう。

★ 当初は事故死と思われていたのだが、という話だった。

★ 高橋和巳「悲の器」(河出文庫)、中身の非常に濃い作品で、1日数ページしか読み進まない。戦中戦後を通して、法曹あるいは大学の法学部教授として地位を得た男が主人公。この男を通した戦後史ともとれる。

★ 警職法をめぐる男(大学の法学部長になっている)と自治会の学生たちとのやりとりが興味深い。青臭い学生たちは教授の理屈に全く歯が立たない。一方で、難解な学説を苦も無く語る教授が女性問題で右往左往している対比が面白い。人間の二面性を見せつけられる。

★ この二面性も教授の言説で納得させられそうになる。裏の姿がいかに人間臭く、あるいは破廉恥であっても、表の仕事をプロとして全うしていれば良いという感じだ。それはそうなのだが。教授の行き末は作品の後半の楽しみだ。

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栗本薫「青ひげ荘の殺人」

2022-09-29 21:09:45 | Weblog

★ 夜になると虫の音が聞こえる。もうすぐ10月。明日、近隣の中学校では中学3年生の「校内実力テスト」、10日1日は英検、2日は五ツ木の京都模試、そして12日、13日は中間テストと忙しくなってきた。

★ 今日は日本推理作家協会編「ミステリー傑作選17 とっておきの殺人」(講談社文庫)から、栗本薫さんの「青ひげ荘の殺人」を読んだ。

★ 「完全な完全犯罪」事件を描いた作品。伊集院大介は数々のアルバイトを経験した。中でも犬の散歩に高額を出すというものがあった。さぞかし危険な犬ではと思いながら、とりあえず面接に訪れた。

★ 「青ひげ荘」と呼ばれる屋敷。何か異様な雰囲気で、屋敷の主は「青ひげ」の未亡人だという。伊集院大介は面接には落ちたが、その未亡人からかつて彼女が犯した「完全犯罪」を暴露される。

★ (「古畑任三郎」の鈴木保奈美さんのエピソードを思い出すなぁ)

★ 最後にどんでん返し。なかなかリスクの高い「完全犯罪」だと思った。

★ 少し前に「後妻業の女」という作品が話題になったが、「青ひげ」は、それの男版という感じだ。

★ 併せて、「ミステリー傑作選9 犯罪ショッピング」から都筑道夫さんの「退職刑事」を読んだ。

★ 刑事を退職した父親が時間をもてあまし、刑事をしている末っ子の事件に首を突っ込む話。彼は今、若い女性の殺人事件を追っている。半裸の遺体。奇妙なのは彼女が男性用のパンツをはいていたことだ。犯人探しと、パンツの謎に親子が迫る。

★ 考えすぎて墓穴を掘る犯人。完全犯罪などできるものじゃない。(いや、誰も気づかないのが完全犯罪なのかも)

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岡義武「山県有朋」

2022-09-28 00:10:53 | Weblog

★ 儀式というのは厳粛にして退屈なものだ。安倍元首相の国葬。唯一気を引かれたのは菅元首相の弔辞。長期にわたる安倍ー菅体制、権謀術策の政治の世界とはいえ、感慨は伝わってきた。

★ 菅さんが引用した岡義武著「山県有朋」。本棚を捜してみると、あった。私は1990年に読んだものらしい。引用された歌「かたりあひて尽しゝ人は先立ちぬ今より後の世をいかにせむ」は108頁にあった。

★ 伊藤博文の死を悼んだ山県有朋の歌だという。

★ 菅さんは歌だけ引用されたが、歌の後に次の文が続く。「伊藤という人間はどこまでも幸運な人間だった。死所をえた点においては自分は武人として羨ましく思う」と山県は述懐したという。

★ これもまた菅さんの思いなのだろうか。

 

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星新一「骨」

2022-09-27 16:08:16 | Weblog

★ 日本推理作家協会編「ミステリー傑作選7 意外や意外」から星新一さんの「骨」を読んだ。

★ 都会での暮らしや人間関係から解放されるために1人旅(それも廃村のような人のいないところ)を楽しんでいる青年、彼が河原である人物に出会う。その人物は、長年の座禅、修養の結果、悟りを開いたという。

★ その悟りとは、「生命現象とは生きる意欲である」というもの。生きる意志さえ失わなければ決して死なないという。男は自らの不死を証明するため、青年に殺せという。申し出を辞退した青年だったが、それではと男は青年を襲ってきた。青年は意図せず、男をナイフで刺してしまう。

★ 出血多量。血の気を失い、もはや脈もない。しかし、男は生きていた。不死身は本当だったのか。

★ 一夜が明け、精神は確かに生きているようだったが、肉体は急速に滅び始めているようだ。青年は男から必死に逃れようとするのだが、という物語。 

★ 悟りを開いたという男はニーチェのツァラトゥストラのようだ。ツァラトゥストラの永遠回帰は、カミュの「シジフォスの神話」のようだ。徒労のような人生も一念の変革で意味を見出すことができるかも。

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梶井基次郎「雪後」

2022-09-26 19:24:52 | Weblog

★ 梶井基次郎の「檸檬」(新潮文庫)から「雪後」を読んだ。

★ 大学に職を得た男が嫁をもらい、つつましくも穏やかな日を送っている様子が描かれていた。物語中、主人公が妻にチェーホフの「たわむれ」を語る場面がある。

★ 若い男女がそりに乗る。女性は怖がって最初嫌がっていた。しかし、急斜面をすべると「ぼくは、おまえを愛している」という囁きが聞こえてきた。それが男性の囁きなのか、それとも風の音なのかわからない。女性はそれを確かめるために何度もそりで滑るのだが、結局わからないまま。

★ 二人はやがて離れ離れになり、再び会うこともなかったという話。

★ 気になったので原作を読んでみると、少し違っていた。原作では男性が「君を好きだ」と本当に囁いている。不思議に思う女性をいじわるにも観察している。これが「たわむれ」なのだろうか。結末は「雪後」と同じ。

★ チェーホフの方がドラマチックに描かれている気がする。

★ 素晴らしい文学を生んだロシア。それが今は侵略国の誹りを受けている。予備役の兵士を動員するほど、戦況は苦しいようだ。徴兵を目前に海外に逃れる若者も多いとか。指導者はどこで道を誤ったのか。政権は倒れるのか。

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中井由梨子「20歳(はたち)のソウル」

2022-09-25 16:10:09 | Weblog

★ 「鎌倉殿の13人」第36話「武士の鑑」は1週間たっても心に残る。濡れ衣を着せられた畠山氏と北条軍が戦うことに。「もうちょっと生きようぜ」と説得する和田義盛に、「誰が戦などしたいと思うか」と絶叫する畠山重忠。重忠を演じる中川大志さんの迫力に心が揺さぶられる。

★ NHKの大河ドラマ、かつてのように視聴率は稼げないが、上質なドラマだ。適度にコミカルな演出を入れ、それがメリハリの利いた緊張感になっている。三谷幸喜さんの脚本が素晴らしいと思う。

★ さて、今日は中井由梨子さんの「20歳のソウル」(幻冬舎文庫)を読んだ。高校の吹奏楽部に所属する塾生が夏休みの読書感想文に読むというから便乗した。泣ける作品だった。

★ スポーツで有名な市立船橋高校には応援歌がある。「市船soul」という。吹奏楽部でトロンボーンを演奏する浅野大義さんがつくったものだ。

★ 浅野大義さんは病に倒れ、わずか20歳で亡くなってしまう。この作品は、葬儀までの数日間を追いながら、大義さんの20年の生涯を、お母さんの桂子さんや吹奏楽部顧問の高橋先生、大義さんの彼女の愛来さん、吹奏楽部部長のユナさんや吹奏楽部の仲間たちが回想する。

★ 不治を悟った大義さんは心の中で語る。「人というものは、身体より先に心が死ぬのだろうか。身体が死ぬから、心も死んでいくのだろうか」と。

★ それに答えるかのように、巻末で顧問の高橋先生がメッセージを送られている。「大義は・・・彼が作曲した“市船soul”と共に生き続けていく」と。

★ 告別式の日、かつての部員たち164名が集まり、演奏で大義さんを送ったという。

 

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小川洋子「百科事典少女」

2022-09-24 11:22:17 | Weblog

★ 塾生から聞いた話。来週の火曜日は午前中授業だという。

★ この日、安倍元首相の「国葬」が行われる。私が小学生の頃、吉田茂元首相の国葬が行われ、その日も授業が半日で終わったから、同じようにするのかと思いきや、そうではないらしい。

★ どうも自治体に「国葬をやめなければ、児童を誘拐し、学校を爆破する」といった物騒な脅迫メールが届いており、その対応らしい。半旗を掲げるのか、黙とうをするのか、そもそも「国葬」の意味は何か。何かと論議のある中、学校にとってみれば渡りに舟か。

★ きな臭い話はさておき、今日は小川洋子さんの「百科事典少女」(「最果てアーケード」講談社文庫所収)を読んだ。胸にジーンとくる話だった。

★ 昭和のイメージがするアーケード商店街。そこに小さな休憩室があり、100冊ほどの本が並べられていた。アーケード商店街のオーナーの娘である11歳の少女は、そこで父親の働く姿を垣間見ながら本を読むのが好きだった。

★ この読書休憩室にクライメイトの女の子(Rちゃん)がやってくるようになった。学校では言葉も交わさない関係であったが、お互いに読書をしながら少しずつ親しくなっていった。主人公の少女が物語などのフィクションを好んでいるのに対して、Rちゃんはノンフィクションを好んだ。そして遂には百科事典を読みだしたのだ。さまざまな知識を吸収しながら、「あ」から「ん」への長い旅が始まった。

★ ところがこのRちゃんが急死してしまう。百科事典を読み切ることはできなかった。

★ Rちゃんと入れ替わるように一人の紳士が読書休憩室を訪れるようになった。Rちゃんのお父さんだった。お父さんは、Rちゃんと同じように百科事典を読み、その記事を一字一句、ノートに書写していった。そして遂に「ん」までたどり着いたのだ。

★ お父さんにとって、百科事典の書写は何だったのか。道半ばで倒れた娘の志を継いだのか。娘との別れの儀式だったのか。

★ お父さんを見守る主人公やアーケードの人々が温かい。

★ 本を買ってもらうごとに「一冊分の厚みだけ自分の世界が広がったようで」という表現が素敵だ。教科書は良い作品を採用しているなぁ。

 

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有島武郎「一房の葡萄」

2022-09-23 16:37:35 | Weblog

★ 昨日の京都新聞に伊藤謙介さん(京セラ元社長・会長)の「経営者の涙」と題する記事が掲載されていた。先ごろお亡くなりになった稲盛和夫さんの若き日のエピソードを紹介したものだ。

★ 30歳にして起業することになった稲盛さん。技術屋としての自信はあっても経営者としてはまだまだ素人。それが成り行きとはいえ、従業員とその家族に責任を持つ立場になってしまった。「大変なことをしてしまった・・・責任を負うことになってしまった・・・もう後に引けない・・・」という涙ながらのささやきが印象的だった。

★ 「経営の神様」にもそんな時代があったんだね。

★ さて、題名は知っていても今まで読んでいない作品が多くある。そんな作品の1つ、今日は有島武郎の「一房の葡萄」(山田詠美編「せつない話第2集」光文社文庫所収)を読んだ。

★ 小学生ぐらいだろうか、少年は絵をかくのが好きだった。しかし、少年のもっている絵の具では透き通るような海の藍色などを描くことができなかった。少年のクラスには外国人の同級生がいて、彼は色鮮やかな西洋絵具をもっていた。

★ 少年は葛藤の末、その絵具から藍と洋紅の2色を盗んでしまう。しかし、彼の行いはクラスメイトに見つかり、先生(女性)に報告される。話を聞いた先生は決して声を荒げるではなく、静かに少年を諭して、クラスメイトと仲直りをさせる。

★ 一房の葡萄とは反省を促された少年に、先生が与えたもの。先生の真っ白な服装と一房の葡萄の紫色が少年の心に色鮮やかに残ったようだ。少年の日の思い出である。

★ 中学校の教科書にヘッセの「少年の日の思い出」という作品が採用されている。その作品でも、盗みをはたらき、「取り返しがつかないこと」を知った少年の心が描かれている。

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菊池寛「恩讐の彼方に」

2022-09-22 18:39:25 | Weblog

★ 小学生だったか、中学生だったか、「道徳」の授業で読んだ覚えがある。

★ 菊池寛の「恩讐の彼方に」(青空文庫)を読んだ。

★ 市九郎は、主人の愛妾と恋仲になり、不義を成敗しようとする主人を刺殺して愛妾とともに逃走した。彼らは悪事を重ねながら諸国をめぐり、もはや人を殺すことに抵抗すら感じなくなっていた。

★ その日も、旅の夫婦を襲い、金品や衣服を奪ったが、夫人の髪飾りを奪い損ねたことを妻(かつての主人の愛妾)になじられ、その悪女ぶりに今まで自分が行った悪行に目が覚める。

★ 市九郎は出家し、了海と名のる。そして、諸人救済の大願を果たすため、諸国を行脚、九州に至る。そこで年に数人、時には10人もが崖から転落死するという危険な街道を目の当たりにし、トンネルを掘ろうと決意する。

★ 人々の嘲笑を気にもせず、かつての過ちを悔いながら一つ一つのみを打ち、岩盤を砕いていった。2年、3年、5年、10年と時が経過すると、かつて嘲笑していた人々も力を貸すようになった。

★ トンネルの開通まであと少し。その時、かつての主人の子息が仇討にやってくる。

★ 市九郎の行いは後から思えば若気の至りだが、その行いは自ら償わねばならない。仇討され、あるいは法に裁かれるのならそれはそれで救われようが、自らの良心の呵責というのは厄介だ。悪行を悔い、善行を重ねても彼の行いによって命を奪われた人々の無念は晴れない。贖罪の難しさを感じだ。

★ さて、また三連休。といっても、うちの塾は平常通り。年中無休こそ健康の秘訣か。

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「笑わない数学」

2022-09-21 18:21:52 | Weblog

★ 久しぶりに宇治駅周辺まで足を延ばし、「地鶏家 心」でチキン南蛮と焼き鳥を買って帰る。この店、11時30分の開店時には行列ができる人気店だ。

★ タルタルソースが実にうまい。焼き鳥は歯ごたえがあり、噛めば噛むほど味が滲み出る。近くの「パティスリー Yuji」でシュークリームを買って帰る。この店、うちの元塾生がパティシエをやっている。元気そうで何よりだ。

★ さて、最近はNHKの教養番組「笑わない数学」にはまっている。未解決の数学の難問を紹介し、この問題に数学者たちがそのように挑んできたかを素人でもわかるように簡単に紹介してくれる。

★ 「素数」では不規則な素数にも何らかの法則性があるのではということが解説されていた。素数階段を対数を使って計算するところが興味深かった。

★ 「無限」「四色問題」「P対NP問題」「ポアンカレ予想」まで見た。これから「虚数」「フェルマーの最終定理」「カオス理論」「暗号理論」「abc予想」「確率論」「ガロア理論」と続くそうだ。

★ どの問題もさすがに難問。これっといった結論に達せず(多くの問題はまだ証明されていないのだから仕方ないが)欲求不満が残る。私などに解けるはずもないが、とてもスリリングだ。

★ 最近は人の名前がすぐに出てこず、遂に認知症が始まったかと少しばかり心配だが、わからないまでも難問を知り、頭を使うのは楽しい。

★ オイラーやガウスなど天才数学者の足跡について、もっと知りたくなった。

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