じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

安倍公房「公然の秘密」

2023-08-30 20:28:56 | Weblog

★ 今は亡き某芸能プロダクションの経営者が、所属する少年たちに性的虐待(そういっても良かろう)を与えていたことが話題になっている。(これは、氷山の一角なのかも知れない。)

★ 事件が発覚し、報告書が出され、性被害の事実が明確となった。それを受けて、ニュースキャスターは正論とマスメディアとしての反省を述べていたが、それには業界としての白々しさも感じる。

★ 有力事務所であるがゆえに、カリスマと言われる人物であるがゆえに、業界の中で「公然の秘密」として扱われてきたのではないだろうか。

★ そしてこれは、芸能事案に限らず、例えば絶対安全と叫ばれてきた原子力発電、メディアにとって大スポンサーである電力会社への忖度はなかったのか。大手広告代理店の不祥事も然りである。

★ そんなことを考えながら、安倍公房さんの「公然の秘密」(「笑う月」新潮文庫所収)を読んだ。

★ 淀んだ掘割の中に生息する腐敗した生き物。誰もがその存在に気づいていたが見て見ぬふりをしていた。「公然の秘密」だった。いざ、姿を現すとそのみずぼらしい姿に同情の声も上がったが、同時にそれを疎ましく思い、なかったことにしようとする心理もはたらいた。

★ 「弱者への愛には、いつだって殺意がこめられている」というのは、考えさせられる一文だ。

★ ファシズム、集団圧力、エゴ、心に突き刺さる作品だった。

コメント

筒井康隆「家族八景」より

2023-08-29 14:58:47 | Weblog

★ 「文學界」6月号で、筒井康隆さんの「老耄よりの忠告」という文章を読んだ。88歳に達した著者が、自らの老齢の経験から読者諸氏へ送った「忠告」の書である。

★ 私など著者より20歳以上も若いのだが参考になった。何といっても筒井節の健在なのがうれしい。

★ そんなこんなで、今日は筒井康隆さんの「家族八景」(新潮文庫)から、「無風地帯」を読んだ。

★ 七瀬は18歳のかわいいお手伝いさんだ。彼女には人の心を読む能力がある。いや、望む望まざるに関わらず、他人の心の声が聞こえてくるのだ。(慣れたこととはいえ、結構辛そうだ)

★ 今回、七瀬が訪れたのは尾形家。会社の重役らしき父親と年の割に老けて見えるその妻。夜中まで遊んでいるドラ息子とドラ娘の4人家族。外から見ると裕福で仲が良い理想的な家族なのだが、彼らの心の中はグチャグチャ。家族を装っているだけの仮面家族だ。

★ テレパシー能力があるお手伝いさんという設定が面白い。

★ お手伝いさんが主人公なのは「家政婦は見た」や「家政婦のミタ」の原型か。テレパスが登場するのは「スパイ・ファミリー」のアーニャの原型か。

★ かわいいのに訳ありというのは、ずっと昔にテレビで見た「かわいい魔女ジニー」を思い出す。

★ ブラックユーモア満載だ。

コメント

司馬遼太郎「忍者四貫目の死」

2023-08-27 18:21:45 | Weblog

★ 昼食時、ふとテレビをつけるとNHKで「生誕100年 司馬遼太郎 雑談昭和への道(1)何が魔法をかけたのか」を流していた。1986年作品の再放送だ。陸軍の内部対立。皇道派に対立する統制派のエリート、永田鉄山軍務局長が惨殺されるまでが語られていた。

★ 司馬さんの姿を見て、久しぶりに彼の作品が読みたくなったので、「侍はこわい」(光文社文庫)から「忍者四貫目の死」を読んだ。

★ 上洛した織田信長。敵対するものを徹底して滅ぼすことで恐れられていた。有力な戦国大名も少なくなり、その一人、甲斐の武田信玄が信長を暗殺するため、刺客を送ったという噂が流れた。

★ 刺客は「知道軒道人」という忍者で、伊賀、甲賀を問わず名の知れたレジェンドだった。彼の手にかかれば信長とて危ない。さすがの信長も警戒してお抱えの伊賀者・蚊羅刹に「知道軒道人」暗殺を命じた。

★ 当時の忍者集団は言わば傭兵部隊。大名にカネで雇われ警護に、通牒に、謀略に動いていた。蚊羅刹は命令は受けたものの、伊賀者同士の殺し合いとなれば、郷里への裏切りともなる。そもそも「知道軒道人」の姿さえわからない。ともかく、京の信長の寝所で待ち伏せすることにしたのだが。

★ 誰が味方で誰が敵か。情勢によっては敵が味方に、味方が敵になる。戦国時代ならではのスリリングが展開だった。

☆ 現代、政府が軍事を民間会社にアウトソーシングする時代になってきた。ロシアのワグネルもその1つか。しかし一つ間違えば、反旗を翻す結果にも。ロシアではプーチンに刃を向けたワグネルの創始者プリゴジン氏の乗った航空機が墜落したという。背後でどんな陰謀が渦巻いているのやら。

コメント

荻原浩「成人式」

2023-08-26 11:38:35 | Weblog

★ 夏休みが終わると、今年も受験態勢に入る。今日は朝からweb模試とかで、高校生が来ている。スマホで解答する形式とか。時代は移り変わっている。

★ 「まだまだ頑張ろう!」と気持ちは若いが、年を追って体が動かず、痛いところ、できないことが増えていくのは仕方ないことか。

★ さあて今日は、荻原浩さんの「海の見える理髪店」(集英社)から「成人式」を読んだ。泣いて、笑って、最後は泣き笑いするような作品だった。

★ ビデオに映し出される少女、うまく回らないセリフを何回も練習している。幼稚園の発表会で天使を演じるという。ビデオを観ている父親は親バカだと自覚しながら、その天使を見つめ続ける。

★ 少女は成長し中学生。父と娘は気まずい空気に陥ることも増えた。避けてるようでいて、嫌っているわけではない。そこは親子だからだ。

★ その娘が卒業を前に不慮の事故で亡くなってしまう。当然ながら父と母は娘の死をうまく受け入れられない。ただ月日だけが流れていく。そして5年。どこで調べたのが成人式の着物のカタログが届くようになる。最初は拒否していた母親。そんな彼女に父親はある提案をする。

★ 最後、記念撮影のシーンは泣ける。

★ 「海の見える理髪店」は第155回直木賞受賞作。家族をめぐる悲しくもあり嬉しくもある作品が詰まっている。 

コメント

角田光代「ロック母」

2023-08-25 19:40:51 | Weblog

★ 夏期講座最終日。寄る年波には勝てないが、何とかここまでたどり着いた。

★ 今日は、角田光代さんの「ロック母」(講談社文庫)から表題作を読んだ。

★ 主人公の女性、離島の暮らしが嫌で島を離れ、年下の彼氏ができて妊娠するも、彼氏からは冷たい仕打ちを受ける。このままシングルマザーになるのかと、何となく諦めながら、臨月のお腹を抱えて故郷に帰る。

★ 10年ぶりの故郷。温かい受け入れを期待したが、母親は主人公が高校時代に聴いていたロックミュージックを大音量で聴きまくり、父親はそんな母親を避けるかのように存在感が薄い。

★ そして、出産場面。両耳に響き渡る新生児と祖母となった母親の号泣、大音響のロックミュージックに勝るとも劣らない場面が印象的だった。

 

☆ 今日からバスケットボールのワールドカップが始まるらしい。

コメント

福沢諭吉「福翁自伝」

2023-08-24 15:44:05 | Weblog

★ 夏期講座はあと1日を残すのみ。今年もまずは無事に終われそうだ。

★ 甲子園の高校野球は慶応高校が優勝。応援の在り方が少々論じられているが、戦争を挟んで105回を数える大会、いろいろな意味で変革期が訪れているのかも知れない。

★ さて、慶応高校の優勝を記念して、「福翁自伝」(岩波文庫)を読み返した。巻末に「1985年6月25日読了」とあるから、大学院生時代に1度読んだようだ。

★ 九州の小藩、中津藩の下級士族の家に生まれた福沢諭吉。若くから身分制度に疑問をもち、「門閥制度は親の敵で御座る」(14頁)との意気込みで、幕末から明治の変革期を駆け抜けた。

★ 大阪では緒方洪庵の適塾に学び、江戸の藩邸に蘭学塾を開きたいという上役の依頼を受けて江戸に出る。時代は蘭学から英学に。日米修好通商条約批准のためアメリカを訪れる咸臨丸に便乗。アメリカを知る。(ハワイで少女と撮ったといわれる写真が残っている)

★ その後、ヨーロッパへ。世界は激変期。日本も討幕、王政復古と大きく時代が移り変わる。福沢が住む江戸にも戦火が近づいてくる。

★ 江戸から明治へ。福沢自身、テロの恐怖を感じつつ、「一国の独立は国民の独立心から湧いてでることだ」(297頁)をモットーに在野でその手腕を発揮する。以後、彼が開いた慶應義塾はあらゆる分野に人脈を築いていくこととなる。

★ 甲子園の熱狂的な応援の背景にはこうした歴史があったんだね。

★ 福沢諭吉の生涯は、中村雅俊さん主演で「熱き血に燃ゆる」(1984年)というドラマになっている。ビデオに収め何度も観た記憶がある。

コメント

宮本輝「紫頭巾」

2023-08-22 18:37:53 | Weblog

★ 夏期講座22日目。夏休みも残り少なくなってきた。まだ宿題を残している子どもたちはせっせと励んでいる。マンガ「サザエさん」では、カツオの宿題を一家総出で処理するなんて話があったように薄っすら記憶している。さすがに最近は、それほど要領の悪い生徒は見かけない。

★ さて今日は、宮本輝さんの「五千回の生死」(新潮文庫)から「紫頭巾」を読んだ。小学生たちが女性の死体を見つける。ある児童は、彼女が紫の頭巾をかぶって占いをしていたというが、かれはちょくちょく嘘を現実のように話すので友人たちは信じない。

★ その町は在日朝鮮人の人が多く住み、北への帰還事業が始まっていた。その町に住む人も、1軒、また1軒と新潟経由で帰国の途に就いた。国境など気にもしなかった子どもたちの間にも、複雑な国際関係が影を落とす。

★ 映画「キューポラのある街」や「パッチギ」を思い起こした。

★ 宮本輝さんの「泥の河」も、大人の世界の事情で揺れ動く複雑な子ども心が印象的だった。

コメント

劉慈欣「月の光」

2023-08-21 21:13:33 | Weblog

★ 夏期講座21日目。残るは4日間。昼の酷暑は相変わらずだが、日の入りが随分早くなったような気がする。

★ 今日は、劉慈欣さんの「円」(ハヤカワ文庫)から「月の光」を読んだ。

★ 月を眺めていると未来の自分から電話がかかってきた。科学の成果で寿命が200歳まで伸びたという。しかし、化石燃料の消費による温暖化の影響で、海沿いの都市は水没してしまったという。

★ 未来の自分は、化石燃料の使用を止めるため、ある発明品を過去の自分に教える。果たして、未来の自分と過去の自分が協力して、未来を救うことはできるのか。

★ 成功したかに見えたのだが、未来を変えるというのはなかなか大変そうだった。

★ 化石燃料は地球温暖化ガスを排出し、そもそもいつかは尽きてしまう。核燃料は廃棄物の処理が課題だ。自然エネルギーはコストと効率が課題か。核融合は禁断の果実か。

★ 課題は先送りされるばかりで、その負債は未来の人々が背負うことになる。人類存亡の危機はSF小説だけの話ではなくなるかも知れない。私が直面することはないだろうけれど。

コメント

あさのあつこ「ランニング」

2023-08-20 19:59:36 | Weblog

★ 高校野球もあと準決勝と決勝を残すのみ。年によって見たり見なかったり、今年はたくさんの試合を見た。

★ 時代の流れか、球児の髪型が変わった。それからもう一つ、最近の校歌が素敵だ。今年の甲子園には残っていないが、愛知至学館の「夢追人」、大分明豊高校の「明日への旅」は、普通にJ-POPの名曲だ。

★ 福工大城東高校の校歌には、昔懐かしいドラマ「アテンションプリーズ」を思い起こした。「やればできるは魔法の合い言葉」の済美高校の校歌には今でも励まされる。

★ さて今日は、あさのあつこさんの「晩夏のプレイボール」(角川文庫)から「ランニング」を読んだ。青春ドラマを絵に描いたような作品だったが、何だかジーンとくる。(夏木陽介さんの「青春とは何だ」、竜雷太さんの「これが青春だ」、村野武範さんの「飛び出せ!青春」、中村雅俊さんの「われら青春!」など、懐かしい。最近はこうした学園モノがなくなったねぇ。)

★ 主人公・野崎嘉人は中学生の時、隣に住む幼なじみに誘われて高校野球の地区予選を見た。彼はそれまで野球には全く興味がなかったが、1球、1打ですべてが変わるドキドキ感に魅了され、高校では野球部に入った。

★ とはいえ、運動が得意なわけではない。特にランニングが苦手で、もはや3年生。最後の夏だが、3番手キャッチャーで、試合に出ることはおろか、ベンチにも入れない。

★ 嘉人の高校に今年、注目の投手が入ってきた。久しぶりの甲子園出場との期待が高まっている。そんな凄腕ピッチャーがなぜこの高校に入ってきたのか。それには訳があったのだ。

★ 「青春て、いいなぁ」て感じる作品だった。

☆ ベンチ入りが20人に増えたとはいえ、ベンチに入れない球児の方が多いんだなぁとふと思った。

 

コメント

田口ランディ「アンテナ」

2023-08-19 21:00:40 | Weblog

★ 今日は授業が少なかったので、月に1度の診察に行き、1か月分の薬(高血圧、糖尿病など)をもらってくる。

★ 高校野球、特に贔屓のチームはないのだが、見始めると止められない。断片的ながら4試合とも見てしまった。

★ 田口ランディさんの「アンテナ」(幻冬舎文庫)を読んだ。ある家族、自宅から少女が姿を消した。それから10余年。家族それぞれがその現実を受け入れられず、心を病んでいる。

★ 母親は宗教に走り、弟は妄想に生き、主人公である兄は、哲学を学びながら、鬱屈した日々を送っている。彼は友人の紹介であるSM嬢と出会い、彼女の調教を通して魂の解放をめざしていく。

★ 随分とスピリチュアルな作品で、好き嫌いが別れそう。ユングの考えだったか、共振、共鳴など一人ひとりの意識を超えた領域はあるのかも知れない。オーラやアンテナなど表現は何であれ、生きるものは生体エネルギーを発し、またテレパシーに似た意思疎通のシステムもあるのかも知れない。

★ 私自身は深みに立ち入るつもりはないが、生と死の境界を超える何らかの法則性があるのやら。

★ ただ仏教の唯識の考え方は興味深い。阿頼耶識、阿摩羅識などどんな境地だろうか。

コメント