★ 迷走台風は人々をからかうように方向を変え、今なお各地に雨を降らせている。台風に意思などなかろうが、稀に見る陰湿な台風だ。
★ さて、今日読んだ横山秀夫さんの「鞄」(「陰の季節」文春文庫所収)にも似たような陰湿さを感じた。
★ 警察官と言っても事件を担当する刑事もいれば警察事務を担当する管理部門の人々もいる。「鞄」の主人公は秘書課に籍を置き、議会答弁を担当している。
★ ある県議が「爆弾発言」をするとの噂が走った。県議は何を取り上げるのか。議場で本部長が立ち往生するような事態だけは避けねばならない。そうした事態は秘書課員である主人公の失脚を意味する。
★ 役人(官僚)の世界は、警察畑であろうと他の部門であろうとさほど変わらない。民間企業のように飛躍的に地位が変動したり収入が増えることがので、関心は人事、とりわけ同期との競争や出世に寄せられる。そしてそのためには、どのような人脈に与するかが重要事だ。そこには陰湿な策謀も起こる。
★ 「爆弾発言」の中身を探るため、主人公は走り回る。しかしその中身がつかめない。そして遂に議会での一般質問。この期に及んで、主人公はある策謀に気づく。
★ 外から見れば滑稽にも思えるが、組織の中にいるとその滑稽さがわからないようだ。いや、わかっていても、どうすることもできないのが組織の中の個人なのかも知れない。