じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

江國香織「ピクニック」

2022-05-31 15:08:25 | Weblog
★ 昨日の内田百閒、還暦を超えて全く「じいさん」の雰囲気が漂っていたが、今や人生100年時代。60などまだまだ現役だ。私なども10代(時には10歳未満)の人々と毎日接しているせいか、気持ちだけは若い。足と目の衰えは難儀なことだが。

★ さて、今日はまず歌野晶午さんの「放浪探偵と七つの殺人」(講談社文庫)から「有罪としての不在」、続いて江國香織さんの「犬とハモニカ」(新潮文庫)から「ピクニック」を読んだ。

★ 「有罪としての不在」は、学生寮で起きた殺人を論理的に解決していく話。誰が犯人としての可能性があり、どういう手口を使って逃げたのかを追究していく。出だしは物語調だったが、犯行が行われた後は論理学の授業のようだった。

★ 江國さんの作品はあまりに多く、「さてどれを読もうか」と迷ったが、何気なく「犬とハモニカ」を手にし、何気なく「ピクニック」を読んだ。結婚5年目。ピクニックを楽しむ幸せそうな夫婦(裕幸と杏子)なのだが、美しい文章で表現されたその雰囲気が何とも不気味なのだ。物語は夫の視線で書かれているが、物事に頓着しない妻の様子はまるで「ラブドール」のようでもある。

★ 妻の想いは書かれていないが、夫の名前を正確に覚えることができなかったり、何とも奇妙だ。杏子という名前から古井由吉さんの「杳子」という作品を思い起こした。
コメント

内田百閒「華甲の宴」

2022-05-30 15:57:28 | Weblog
★ 週末は断捨離で書類の整理。捨てるのもなかなか骨が折れる。

★ 井上ひさしさんの「ナイン」(講談社文庫)から「握手」を読み返し、内田百閒さんの「まあだかい」(福武文庫)から「華甲の宴」を読んだ。

★ 「握手」は、中学3年生の検定教科書に載っていたので何度も読んだが、久しぶりに読むとまた新鮮だった。ルロイ修道士の人柄が伝わってくる。

★ 内田百閒の「華甲の宴」。「まあだかい」は黒澤明監督の映画「まあだだよ」の原典。「華甲の宴」は華甲(数えの61歳かな)に達した作者が、生い立ちを振り返りつつ、華甲を祝ってくれる知人や元学生たちのことを記したもの。

★ 映画の中でも描かれていたが、葬式の予行演習の場面など面白かった。
コメント

五木寛之「さらば モスクワ愚連隊」

2022-05-29 10:39:52 | Weblog
★ 今日は気温が30度を超えそうだ。期末テストも終わり、久々にゆったりした日曜日。2週間もすれば「期末テスト対策」が始まる。そして「夏期講座」に突入だ。

★ 昨日は五木寛之さんの「さらば モスクワ愚連隊」(新潮文庫)を読んだ。最近風当たりの強いロシア。この作品は1960年あたりだろうか、ロシアがまだソ連だった頃の話。

★ 人気を得て豊かになるにつれてブルースを演奏できなくなったジャズピアノ奏者・北見。今は音楽ブローカー(呼び屋)として糧を得ている。そんな彼に依頼が来る。ソ連でジャズを演奏する企画だという。

★ 有力な政治家や財閥系商社がスポンサーだというが、冷戦下、しかもイデオロギーで凝り固まった官僚相手の仕事とあって、大手のプロダクションは離脱。リスクを負って成功してきた彼に白羽の矢がたった。

★ 彼は仕事を受けソ連に。早速、ソ連の政治官僚から「打ち合わせ」と言う名の演説を聞かされる。その言葉にはジャズを軽視する響きが。彼らにとってジャズは、抑圧された人民のガス抜きのようなものなのだ。

★ 北見は街に出て、若者たちと出会う。彼らは、作品の中では日本の「太陽族」や「みゆき族」に比喩されている。北見は彼らとジャズのセッションをする。そして忘れていた音を取り戻すのだが。

☆ 階級闘争、革命を経て平等を獲得したはずの社会主義国ソ連。しかし、革命から40年を経て、新たな階層が生まれていた。強固な官僚制は階層を固定する。「えらい役人か、芸術家か、工場長か、技師か」、そしてそもそも「党員」でなければ、「良い家」ではないという。

☆ 「教育者自身が教育されなければならない」、そして「変革的実践」を説いたマルクスの想い(フォイエルバッハに関するテーゼ)は都合よく退廃していったようだ。
コメント

伊集院静「水澄」

2022-05-28 12:32:29 | Weblog
★ 今日は朝から英検。検定試験は多々あるが、やはり英検の人気が高い。近隣の中学校は明日から2泊3日の修学旅行(信州方面)。ここ数年、コロナ禍で中止されていたが、少しずつ日常に戻りつつあるようだ。

★ さて、昨日はまず、石持浅海さんの「心臓と左手」(光文社文庫)から「罠の名前」を読んだ。過激派の内部抗争。武闘派が穏健派シンパの弁護士を拉致した。そのアジトを、警視庁のSATが急襲するのだが、ミッションは失敗に終わる。警視庁の大迫警視は、ハイジャック事件で知り合った「座間味くん」と焼肉を食べながら、事件のからくりを考察する。

★ 次に、伊集院静さんの「三年坂」(講談社文庫)から「水澄」を読んだ。「みずすまし」と読むんだね。元高校球児。県大会の決勝戦まで進むものの、敗戦。その後は転落の人生だった。どの仕事も長続きせず。転職をすればするほど条件は悪くなる。詐欺まがいの今の仕事ももはや限界。公園でぼんやりしていると、草野球が始まった。

★ いろいろあって(ここが面白いのだが)、男はあることに気付く。「自分は危険な道ばかり選んできたのでは」と。どうやら男の再生が始まるようだ。

★ 人間、いつでもやり直しができる。切羽詰まるとマイナス思考が先行し、自分から不幸に陥ってしまう。主人公は自意識が高い分、苦悩も深かったのではなかろうか。マイナス思考からプラス思考への転換。この「気づき」が再生への鍵なのかも知れない。
コメント

石坂洋次郎「人生」

2022-05-27 14:58:33 | Weblog
★ 凪良ゆうさんの「流浪の月」(創元文芸文庫)は全体の3分の1まで読んだ。過去の事件が尾を引いて、彼氏ができても結婚に踏み切れない主人公。彼女は新しい人生を歩むことができるのか。

★ 男女関係は今も昔も小説の大きなテーマになっている。今日はそうしたカップルを描いた作品を2つ読んだ。1つ目は、石田衣良さんの「1ポンドの悲しみ」(集英社文庫)から「ふたりの名前」。

★ 同棲して1年、結婚には踏み切れないカップル。別れるときのためにそれぞれの「所有物」に名前を記して暮らしている。決して仲が悪いわけではないが、あと1歩に躊躇している。そんな彼らが子猫を飼うことになった。ところが・・・、という物語。

★ 2つ目は石坂洋次郎さんの「霧の中の少女」(新潮文庫)から「人生」。石坂洋次郎さんと言えば「青い山脈」が思い浮かぶ。どの時代に生きても悩みは尽きないが、石坂作品は苦悩と同時に戦後の明るさがあるような気がする。

★ 「人生」は昭和22年の作品。結婚間近の珠子。許婚の職場に行く途中、ある男性に道を尋ねられる。その男性に珠子は見覚えがあった。戦時中、珠子は南方での仕事に従事するため輸送船に乗っていた。その船が魚雷攻撃を受け沈没してしまう。何とか救命ボートにたどり着くが、既にボートは満員。その時、一人の男性が場所を譲ってくれた。道を尋ねた男性はまさにその男性だったのだ。

★ そのことを思い出した珠子は、一言お礼を言いたいと、男が尋ねたビルに向かう。そこは偶然にも珠子の許婚が勤める会社で、二人は商談中だった。珠子は男性にお礼の言葉を言うのだが、男性の反応は意外なものだった。

★ 最後は道徳の教科書のような終わり方だけれど、そう感じるのは私の心がひねくれているからかも知れない(笑)。
コメント

池永陽「初恋」

2022-05-26 14:01:36 | Weblog
★ 円安、ウクライナ戦争の影響で物価の上昇が止まらない。先日読んだ新聞記事に、この度のインフレは「デマンドプル」ではなく「コストプッシュ」だと書かれていた。コストプッシュ型は賃金の上昇につながりにくいとも。

★ 景気は頭打ちなのにインフレが起こる、スタグフレーションなのかも知れない。円安は輸入品の価格に影響を与える。ウイスキーやコーヒー豆は早速値上げだ。小麦の値上げはパンなどの値段を急激に押し上げている。単品で10円、20円の値上げもトータルにすると結構な額になる。財布のひもは一層堅くなりそうだ。

★ コーヒーということで、池永陽さんの「珈琲屋の人々」(双葉文庫)から「初恋」を読んだ。

★ 商店街の片隅でひっそりと営業中の珈琲屋。時代を感じる木造の手触り。ひと時の憩いを求めて、常連客が訪れる。店のマスターは2代目。ちょっとわけありで、寡黙に珈琲をたてている。

★ 物語が一瞬過去に戻る。仕方ないこととはいえ、マスターは取り返しのつかない過ちを犯した。それが心の傷となり、かつての恋心も封印してしまっている。

★ 以前ドラマで見た作品の原作だ。ドラマでは高橋克典さんがマスターを演じられていた。

★ 人口減少と高齢化が進んだせいか、書店同様、喫茶店も少なくなった気がする。カウンターで美味しい珈琲を喫するなんて、もう何年もしていない気がする。
コメント

池井戸潤「十年目のクリスマス」

2022-05-25 14:26:02 | Weblog
★ 警察小説の次は経済小説あるいは業界モノと言っても良いかな。池井戸潤さんの「かばん屋の相続」(文春文庫)から「十年目のクリスマス」を読んだ。

★ 新宿の老舗デパート。ある銀行マンが奥さんとクリスマスの買い物をしていた。彼はそこで高級ブランドを手に持った一人の男性を見かける。それは10年前、経営破綻したかつての取引先の社長だった。

★ 確か、債務超過で社長自身も自己破産したと聞いている。それにしては裕福そうな雰囲気。調べてみると成長著しいIT企業の大株主、実質的なオーナーだとわかる。一時は全財産を失ったはずの男が、わずか10年でここまで再生したのか。

★ いやそれにしても、やり直しの資金はどう用意したのか。銀行マンは調べてある真相にたどり着くのだが。

★ 浮き沈みが激しいのは業界の常。中小零細あるいは個人事業主は日々資金繰りに追われている。経営が好調な時は平身低頭の銀行もいったん経営危機に陥ると手のひらを返したような扱いに。銀行とて私企業、その心理はわからなくもないが。

★ 破綻した社長の悔恨の言葉、「会社経営するんだったら、常に出口を用意しておくことが必要だってことにもっと早く気づくべきだった」(27ページ)は示唆に富む。失ってはじめてその価値に気づくことはたびたびだ。会社経営も好調な時にこそ浮かれず冷静な備えが必要だということを改めて感じた。
コメント

相場英雄「十二桜」

2022-05-24 14:30:33 | Weblog
★ たまたまながら警察小説が続いた。相場英雄さんの「ナンバー」(双葉文庫)から「十二桜」を読んだ。

★ この話は警視庁捜査二課が舞台。殺人などを扱う捜査一課とは違って、二課は横領・詐欺などの知能犯を扱う。二課の新人・西澤はミスを繰り返し上司に叱責される。そんな彼を励ましてくれたのは退職間近のベテラン刑事・大岩だった。

★ 今回、西澤が追うのは大手デパートの子会社に勤める男。派手な衣装に身を包み、連日女性と豪遊。実家が金持ちでいくら独身とはいえ、その行動は度が過ぎている。会社のカネを横領しているのでは、というのが狙いだ。

★ 捜査を進めていくと思わぬ進展が。

★ 「十二桜」とは本部の刑事部長賞だ。金、銀、銅の三種類あり、12個揃うと満開賞となる。子どもじみているとは思うが、こんなことでもしなければなければやっていけない、警察官の仕事は過酷なんだろうね。

☆ 録画してあったNHKのドキュメンタリー「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」を観始めた。1950年代から2010年代まで、アメリカの現代史ともいえる。全8回。第1回は「理想の50’s」、第2回は「闘争の60’s」。6月は「幻想の70’s」「葛藤の80’s」、そのあと「喪失の90’s」「不信の2000’s」「分断の10’s」最後に「フランス 興亡の60’s」が放映されるという。

☆ オープニングのタイトルで、時代を象徴する大統領の映像が流された。ケネディ、ニクソン、レーガン、クリントン、オバマ、そしてトランプ。そうそうたるメンバーだ。
コメント

安東能明「孤独の帯」

2022-05-23 13:38:23 | Weblog
★ 週末、そうじをして、家電器具の保証書を大量に処分。中には20年以上も前のものもあった。もっと新陳代謝を良くしなければ。書類を整理していると行方不明だった「教員免許状」が見つかった。教員免許の更新制が廃止され、免許状の効力が復活するとか。まぁ今更使うことはないだろうが、大切に持っておきたい。

★ 安東能明さんの「撃てない警官」(新潮文庫)から「孤独の帯」を読んだ。年配の女性の遺体が発見された。70歳を少しばかり過ぎているが小さなスーパーでパートをしていた。欠勤を心配した店長が彼女のアパートを訪れて発見したという。

★ 女性は寝た状態で首に帯が巻かれていた。自ら命を絶ったのかそれとも他殺なのか。刑事課が手いっぱいなので警務課の柴崎警部補も駆り出されることに。彼は警察官と言っても管理畑が多く、現行犯での逮捕は経験していない。現場にも慣れていない。あまりの惨状に気分が悪くなる始末。しかし、彼の機転で解決の糸口が。

★ テレビではドラマ「CSI:科学捜査班」(2000年)にはまっている。捜査には彼らのような科学捜査官も関わっているんだなぁと思った。

★ 高橋和巳「悲の器」(河出文庫)、第3章あたりから面白くなってきた。第1回文藝賞受賞作。新人の作品とは思えない中身の濃さだ。いつからだろうか、文学賞は受賞年齢の若さを競うような時期があって、内容が軽くなっていったように思う。
コメント

染井為人「悪い夏」

2022-05-22 10:46:34 | Weblog
★ まずは、安倍公房「R62号の発明 鉛の卵」(新潮文庫)から「変形の記録」を読んだ。コレラで瀕死の兵士が友軍に射殺され、その霊が、友軍とともに旅をするというもの。安倍公房さんらしいシュールな作品だ。死んで肉体から解放され自由になったはずなのに、まだ肉体にこだわるところが面白かった。

★ 続いて、染井為人さんの「悪い夏」(角川書店)を読み終えた。最近、社会保障制度、中でも生活保護を扱う作品が目につく。格差社会の進行によるものだろうか。

★ とにかく、この作品には生活保護制度を食い物にする「悪いやつら」がいっぱい登場する。その「悪いやつら」と前線で戦っているのが社会福祉事務所の職員だ。しかし、この仕事も危険と誘惑に満ちている。中には「悪いやつら」にはめられて、悪の道に落ちる人も。

★ 主人公は26歳の佐々木守。意図せず「生活福祉課・保護担当課」に配属され、上司からも「三年の我慢だ」と説かれる。それほど、この職場は過酷だ。「働きたくない」から生活保護を申請する人、嘘っぽい診断書を手に申請する人、生活保護を受けている人から上前をはねる貧困ビジネス。これに加担する医師や民生委員。一方で、生活保護費の削減をノルマとする役所。

★ そして、中には本当に援助を必要とする人がいる。声の大きい人や要領のいい人が受給でき、そうでない人は見逃されやすい。

★ 前半は社会派小説のようだが、だんだんエンターテインメントになり、最後は大団円(ハッピーエンドではないが)という感じだ。コミカルな面もあり、額にしわを寄せずに楽しめる。楽しみつつ、格差社会のことを考えられる。

★ 一番の「悪」であるようなヤクザ者のセリフ、「一生懸命働いているのに生活保護世帯よりも安い賃金しか貰えない社会はおかしい」(単行本280ページ)は、ヤケに説得力がある。

★ 「貧・病・争」は人の苦しみの多くを占める。現代は資本主義の進行(格差の拡大)や過度の個人主義による孤立・分断が人を苦しめている。かといって、古代や中世は良かったのか。宗教国家や絶対主義、ムラ社会が良かったのか。そこは考えどころだ。
コメント