じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

永井龍男「冬の日」

2021-09-29 22:44:06 | Weblog
★ 007シリーズは「ダイヤモンドは永遠に」(1971年)を観る。ショーン・コネリーのカムバック作品。やはりジェームズ・ボンドと言えば彼だ。

★ さて、永井龍男さんの「青梅雨」(新潮文庫)から「冬の日」を読む。ある家屋。年末も押し迫った29日に新しい畳を入れ替えている。この古ぼけた家屋に新婦がやって来るらしい。

★ 家屋には女性が一人残っている。40を半ば超えたばかりだが、もはや孫をもつ祖母だ。娘は孫を産むやこの世を去り、女性は義理の息子、孫と生活を続けていた。しかし、いつまでもこの生活を続けるわけにもいかず、古屋は義理の息子夫妻と孫の明け渡し、自らは身を引く算段のようだ。どうやらこの女性、娘婿と関係が・・・。

★ 淡々と物語が進み、淡々と終わる。それがどうも気持ち悪い。人生って重いなぁ。結局は悲劇に終わってしまうのだろうか。

★ それにしても永井龍男という作家。今までよく知らなかったが、深入りしそうな筆致だ。彼が、芥川賞選考に関わっていた時、「限りなく透明に近いブルー」や「エーゲ海に捧ぐ」の受賞に一石を投じたというが、その辺りの事情ももう少し知りたいと思った。
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阿刀田高「恋は思案の外」

2021-09-28 15:58:20 | Weblog
★ 緊急事態宣言が解除されるそうだ。度重なる発出で、もはや「緊急」が日常となり、宣言の効果は疑わしい。しかし皮肉なことにオリンピック開幕時期をピークにして、新規の感染者は激減しているから不思議だ。

★ ウイルスの気まぐれか、ワクチンの効果か。菅さんが総裁選出馬をあきらめたからか。理由がわからないだけに早くも第6波が気がかりだ。予想では1月中旬ごろにピークが来るらしい。ワクチンの効果が薄れる一方で、年末年始の人流増加が理由らしい。

★ 流行を繰り返しながらやがては季節性のインフルエンザのようにヒトと共存していくのだろう。特効薬の開発が頼みの綱だ。

★ さて、長い作品はなかなか読めないので、今日は阿刀田高さんの「ナポレオン狂」(講談社文庫)から「恋は思案の外」を読んだ。

★ 男にだまされたあげく、会社のカネにまで手を付けてしまった娘。娘から事の次第を聞かされ、ひとしきり叱った父親だが、そこは愛娘。会社のカネを弁済し事なきを得ようと思案を巡らす。しかし、職を失い伝手を頼って何とか食いつないでいる日常。工面できるあてもなく、遂にある計画を決断する。

★ 成功率がほぼゼロの営利誘拐。男が考えた方法(飼い犬を利用する)は確かに名案ではあったが、愛犬の恋愛事情までは知る由もなかった。

★ ブラックユーモアの名手。文章が滑らかでスーッと読める。
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筒井康隆「ベムたちの消えた夜」

2021-09-27 23:07:53 | Weblog
★ 007シリーズ第6作目は「女王陛下の007」(1969年)を観た。前作が海をテーマにしていたからか、今作は山だ。アルプスを舞台にアクションありラブロマンスありという作品。今までと違うのは、007役がショーン・コネリーでないことと、エンディングが切ないことだ。

★ さて、筒井康隆さんの「笑うな」(新潮文庫)から「ベムたちの消えた夜」を読んだ。人類が初めて火星に到達した日、酔っぱらったSF作家が公園でUFOと遭遇する話。

★ 「未知との遭遇」なのだが、こんなこと誰も信じてはくれまい。そもそも腰が抜けて、這って逃げるのが精いっぱい。とはいえ、自分一人で抱えるのも何だから、近くの交番に飛び込んだ。ところが交番には先客。若い二人が不純異性交遊を疑われて警官と修羅場を演じているところ。その様子をうかがっているうちに、小心な作家は交番を後にする。

★ 何か釈然としないが筒井ワールドにひき入れられてしまう。本作の前に収められている「末世法華経」は傑作だが、これは少々差し障りがありそうなので、興味のある方はご一読を。
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「断言、反復、感染」

2021-09-25 13:52:35 | Weblog
★ NHK「100分de名著」、ル・ボンの「群集心理」第2回、第3回を観た。面白い。

★ かのヒトラーも読んだという本。フランス革命の考察から導き出された「群集」の性質、その性質を利用して「群集」を操る政治家たちのテクニック。キーワードは「断言、反復、感染」だという。

★ 商業CMなどはまさにこのテクニックが活用されている。ビールを飲んで「うまいねー」とか。「安全安心」をくり返す政治家のメッセージも同じか。「自民党をぶっつぶす」「抵抗勢力」のフレーズをくり返した小泉さんはうまかったなぁ。ケネディもキング牧師も、カリスマと呼ばれる人はこの能力に長けているようだ。。共産主義国のスローガンや「欲しがりません、勝つまでは」といった戦前日本の標語もそうかもしれない。何となくその気になってしまう。

★ このテクニックを利用すれば私も政治家や宗教家になれるかも(笑)。いや、うちの塾のパンフレット「志望校合格、成績アップ」なんてのもこの類かも。

★ さて、昨日は生島治郎さんの「夜の腐臭」(日本推理作家協会70周年アンソロジー「夢現」集英社文庫所収)を読んだ。生島さんと言えば天地茂さん主演のドラマ「非常のライセンス」が印象深い。「昭和ブルース」は世相を反映してかヒットしたなぁ。

★ 「夜の腐臭」は大手電機メーカーの令嬢がカギを握る物語。主人公は20代後半の私立探偵。私立探偵と言えば少々カッコ良いが、弁護士先生の下請けで何とか食いつないでいる。生島さん北方さんと言えば、群れない男のダンディズムを感じる。喧嘩のシーンもお約束。

★ 果たして、令嬢の正体は。

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山村正夫「絞刑吏」

2021-09-24 15:27:37 | Weblog
★ 映画007シリーズ「007は二度死ぬ」(1967年)を観る。この第5作目は日本がメインの舞台。昭和40年代の日本が懐かしい。日本の諜報機関のボスを演じる丹波哲郎さんが若い。相撲あり芸者ありで、日本紹介のような作品だった。ちょっとステレオタイプだが。

★ 録画しておいたNHK「100分de名著」を観る。今月のテーマは、ル・ボンの「群集心理」。社会心理学の古典的な本だ。私は中学生の頃から社会心理学、中でも群集心理に興味があったので、久しぶりって感じだった。(私が群集心理に興味をもったのはオイルショックのときの、トイレットペーパー騒動だ。社会的な不安がある一定のレベルを超えると、どうも人間は理性を失うらしい。)

★ さて、昨日は山村正夫さんの「絞刑吏」(日本推理作家協会70周年アンソロジー「夢現」集英社文庫所収)を読んだ。

★ まず設定が奇想天外だ。ある老俳優、誰かの名前を呼べば、その人物になってしまう(文字通り「なってしまう」)という特殊な能力を持っている。(他者になっている間、自分はどうなっているのかは詳しく書かれていない。姿かたちがなくなっているようだが。)

★ その老俳優、ある出来事に巻き込まれ、次々と「乗り移っている」うちに、最終的に自分で自分を殺すなんてことに。作品としては面白いが、まずありえない前提を認めるかどうかだね。
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恩田陸「悪い春」

2021-09-23 17:59:13 | Weblog
★ 2000年頃だったか、森内閣で「奉仕活動」という言葉が賑わった。森首相の持論を具現化しようとしたのだろうが、「徴兵制」まで目論んでいるのではないかと批判され、結局、森内閣の倒閣と共に消えていったように記憶している。

★ さて、恩田陸さんの「悪い春」(小説トリッパー編集部編「20の短編小説」所収)を読んだ。近未来、あるいはパラレルワールドの出来事。そこの日本では「平和サポートボランティア」などという美辞をまとった「兵役」が実行されていた。

★ 「ボランティア」の原義通り「志願制」の兵役ではあるが、その参加が就職や進学に有利になるということで、暗に半強制的なシステムになっている。

★ 以前、現代のアメリカに関するルポ(岩波新書だったと思う)を読んだ。経済格差の拡大。進学や生計を得るために、軍隊に入る若者が描かれていた。

★ 安倍内閣は憲法の「(何人も)その意に反する苦役には服させられない」(第18条)を示して、徴兵制を否定していたが、「苦役」の解釈変更や集団圧力による実質的な強制がなされないとも限らない。

★ 恩田さんの作品の中にもあったが、「平和」と付けりゃ何でも許されるものでもない。権力の横暴を許すまじ。コロナ禍で「緊急事態条項(戒厳令)」がささやかれる中、一層気をつけねばと思った。
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永井龍男「青梅雨」

2021-09-22 20:43:53 | Weblog
★ 永井龍男さんの「青梅雨」(「日本文学秀作選 浅田次郎編」文春文庫所収)を読んだ。

★ 新聞記事の引用のような始まり。その記事は家族4人が経済苦の挙句、一家心中したことを伝えている。

★ そこから時間が巻き戻され、この家族が心中に至った理由、もはや覚悟を決めた最後の数時間を物語として描いている。

★ どんでん返しも、ひねりもなく、淡々と話が進む。そこに覚悟が感じられるが、ここに至るまでには逡巡があったのだろうなと想像する。悲惨な物語ではあるがスーッと読める。

★ さて、007シリーズは第4弾「サンダーボール作戦」(1965年)を観た。水中撮影が見せ場かな。007シリーズが第25作まであるとか。先が長いね。

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三好徹「存在の痕跡」

2021-09-21 15:02:23 | Weblog
★ 007シリーズは第3弾「ゴールドフィンガー」(1964年)を観た。テーマ曲が印象的だ。まだクイズ番組や洋酒の景品が「夢のハワイ」だった時代、「兼高かおる世界の旅」が世界を紹介していた時代。007シリーズにも世界の名所が取り入れられている。

★ さて昨日は、三好徹さんの「存在の痕跡」(日本推理作家協会70周年アンソロジー「夢現」集英社文庫所収)を読んだ。蒸発なんてコトバが一時流行ったが、ある男の婚約者が姿を消した。男は警察に届けを出すが、はっきりとした事件でもない限り、警察は動かない。その場面に偶然居合わせた新聞記者が物語を進める。さて、彼女はどこに消えたのか。

★ 今日、読者の目が肥え、作家にとっては受難の時代。この作品もだいたい結末は見えてしまうが、タネをいかに物語に埋め込むか、そこが腕の見せどころか。
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森見登美彦「廿世紀ホテル」

2021-09-20 09:43:59 | Weblog
★ 007シリーズ「ロシアから愛をこめて」を観て、読書を進める。今読書中は、澤田瞳子「火定」(PHP文芸文庫)、宇佐美まこと「黒鳥の湖」(祥伝社文庫)、原田マハ「楽園のカンヴァス」(新潮文庫)、中山七里「護られなかった者たちへ」(宝島社文庫)、柚月裕子「パレードの誤算」(祥伝社文庫)。

★ 「火定」は奈良時代の話。疫病(天然痘)の流行に翻弄される人々を描いている。2017年の作だというから、先見も明があったようだ。「黒鳥の湖」はある快楽殺人を追うという。まだ第一章を読んでいるところ。「楽園のカンヴァス」は山田五郎さんの番組で紹介されていたので読み始めた。「護られなかった者たちへ」「パレードの誤算」はどちらも生活保護制度がテーマになっている。世相なのだろうか。

★ さて、短編では森見登美彦さんの「廿世紀ホテル」(小説トリッパー編集部編「20の短編小説」朝日文庫所収)を読んだ。

★ 大正時代、京都は四条烏丸に「廿世紀ホテル」が開業した。欧州大戦で富を得た成金が造った豪華なホテルだが、モノノケが出るという。幽霊や妖怪など信じない、近代合理主義を信奉する旧制高校の学生がこの怪異に挑む。

★ 森見さんの文章は面白い。京都が舞台というのも京都人にはありがたい。さて、モノノケの正体は。夢と希望で迎えた廿世紀。理性が世界平和を実現するはずだったのだが、その顛末は我々も知っている。
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中島敦「狐憑」

2021-09-19 14:56:49 | Weblog
★ アマゾン・プレミアムビデオで「007」シリーズがリリースされた。早速、シリーズ第1作「007/ドクター・ノオ」(1962年)を観た。電話機・通信機や大道具などがアナログで面白かった。

★ さて、中島敦の「狐憑」(文春文庫「心に残る物語 日本文学秀作選 浅田次郎編」所収)を読んだ。時代は不詳。ホメロスが作品を残すよりは前の時代だという。ギリシャ人によると湖上に住む風変わりで未開な人種、その中にシャクという男がいた。彼には人や動物など自然界の様々なものが憑依するという。

★ 彼が語る物語は憑依によるようでもあるが、彼の創作のようでもある。いずれにせよ彼は今でいうエンタテーナー。作家であり演出家であり、役者だ。若者たちは彼の語りを聞くあまり、仕事がおろそかになった。

★ それを快く思わない長老たちは策を練って、働かないシャクをディスるように仕向ける。折しも彼らが畏怖する雷鳴が鳴った。彼らは不吉なシャクの存在と雷鳴を結び付け、遂にシャクを処分した。カニバニズムを思わせる結末は、日常的のこととして淡々と記述されているだけに、尚一層おぞましい。

★ ところで、先日、山田五郎さんの「オトナの教養講座」でルドン作「キュクロープス」を見た。そこには一つ目の巨人が描かれていた。「狐憑」の中で雷鳴を「天なる一眼の巨人の怒れる呪ひの声」というフレーズがあった。この巨人のことなのだろうか。
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