見もの・読みもの日記

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明清絵画を愉しむ/橋本コレクション 中国書画+石造彫刻(大阪市美)

2012-08-01 21:20:55 | 行ったもの(美術館・見仏)
大阪市立美術館 特別陳列『橋本コレクション 中国書画』(2012年7月28日~9月2日)

 関西行きの直前に、この展覧会の情報を知って、おや、と思った。中国絵画の橋本コレクションといえば、2010年に松濤美術館で、たまたま小さな企画陳列を見たのが出会い。橋本末吉(1902‐1991)って、どういう人なんだろう?と気になって調べたのだが、そのとき、ネット上にはほとんど情報がなかった。

 今回、会場でもらったリーフレットと、大阪市美のホームページに、簡単な紹介があるので、以下に引用しておく。……橋本は大蔵省から実業界に入り、日本アルコール販売株式会社などの役員・社長を歴任しました。戦後の動乱期に桑名鉄城旧蔵の明清書画を多数購求したことが契機となり、大阪高槻の自宅に蒐集した作品は800点余りにのぼります。独自の慧眼で選りすぐられた作品群は、明清両朝を網羅し、明では浙派や明末の奇想派の作品、清では康煕・乾隆年間の諸作品などに特色があります。また、それまで顧みられることのなかった来舶画人や近現代の書画にも及びました。

 それにしても、東京・渋谷の松濤美術館に寄託されているはずの橋本コレクションがなぜ大阪で?と、不思議に思った。会場で渡された出品目録には、所蔵(寄託)先の表示はない。どうやら松濤美術館の寄託を外れて、大阪市立美術館に収まることになった様子。業界の事情はよく分からないが、大阪に里帰りと考えれば、妥当な落ち着き先である。それよりショックだったのは、出品目録を見たら、計200点の大規模な展覧会である上に、ほとんどが前後期で入れ替わると分かったこと。ええ~また後期(8/14~)に行かなくちゃならないじゃないか…。

 展示は「明」「明末清初」「清」「来舶画人」「近現代」「呉昌碩」の6つのテーマ立てをして、だいたい時代順に進む。聞き覚えのある名前の画人も含まれるが、作品は、ほとんど初めて見るものだと思う。けれど、どことなく懐かしい感じがするのは、ちょっと蕭白ふうだなーとか、池大雅みたいとか、これは谷文晁だなとか、よく知っている江戸の画人の作風が重ね合わせに浮かぶためだろうか。

 私が「蕭白ふう」と感じたのは、鄭文林という後期浙派の画家で、文人の側から狂態邪学と非難されたそうだ。呉昌碩を見て富岡鉄斎を思い出すのは、わりとフツーの連想だろうが、これは林十江に似ているとか、この雪景色はどこかで見たことがある…(墨江武禅の『月下山水図』?)とか、いろいろ勝手な連想を楽しませてもらった。

 印象的だった作品を二つ。雪山の深い陰影が皺のように見える、文柟『寒江漁隠図』。生き物みたいにモコモコした山を描く、顧大申『渓山晴翠図』。江戸絵画の「奇想」好きなら、きっと明清の絵画も、見れば見るほどハマると思う。費晴湖『倣米友仁山水図』はとても可愛い作品で、米友仁ちがうだろーと思ったが、本質をとらえているのかもしれない。

■平常展『中国彫刻』(2012年7月28日~9月2日、9月11日~9月14日)

 二階の特別陳列を見終えて、階下に下りてきたら、思わぬ平常展をやっていた。気軽に入り込んで、しまった、と思った。これは平常展と思わないほうがいい。質・量ともに特別展レベル。たぶん中国の博物館を招聘しても、これほどの中国彫刻(石造彫刻)展は、なかなか開催できないと思う。冒頭に「大阪市立美術館は日本最大の中国彫刻コレクションを所蔵する美術館として、国内よりもむしろ海外で広く知られています」とあった。そうだなあ。日本の美術館は、こういうケースが多いような気がする。

 展示数は、リストで数えると50件余。北魏時代が最も多く、西魏、北斉、北周、隋、唐に至る。仏像が主だが、道教三尊像や道教四面像、人物を写実的にとらえた維摩居士像(天龍山石窟)、めずらしい河神王像(響堂山石窟、なぜか魚を抱き上げ、右頬にあてている)などもある。隋代の菩薩立像は、美しい彩色をよく残し、自然なくびれのウエストを大きな瓔珞で強調する。童女のような満面の笑みが愛らしい。唐代彫刻の、峻厳な印象の残る大人の微笑とは、違うなあ~というのがよく分かる。

 ひとつ残念なのは、保存のためか演出なのか、最初の一室だけ、全体の照明を暗くしていること。東博の法隆寺館みたいな感じで、闇に浮かび上がる石造彫刻が、とても美しいのだが、石龕の背面に美しい石刻や銘文やあるものが鑑賞しにくいのが残念。第二室以降は支障ない。

 なお、多くは「山口コレクション」と言って、旧関西信託の社長などを務めた関西の実業家、山口謙四郎氏が収集されたものである由。関西の文化の厚みって、こういう人たちが支えてきたんだろうなあ、これまでは。

 最後に、もうひとつの平常展『大阪の風景-通天閣・天王寺・新世界・難波-』(2012年7月28日~8月19日)も見ていく。東京人には異界を覗くような面白さがあり、充実した半日を過ごすことができた。
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