見もの・読みもの日記

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大和国から眺めた大乱/応仁の乱(呉座勇一)

2016-11-15 23:31:31 | 読んだもの(書籍)
○呉座勇一『応仁の乱:戦国時代を生んだ大乱』(中公新書) 中央公論新社 2016.10

 応仁の乱は、小学校の教科書にも載る「日本史上、最も有名な戦乱の一つ」でありながら、その実態はあまり知られていない。全くその通りで、私も細川勝元と山名宗全の名前が思い出せるかあやしいくらい。ええと、室町幕府の将軍家の跡継ぎ争いが絡んでいたよな、と思ったが、それが直接の原因とは言い難いらしい。とにかく長く続いた戦いで(約10年間)、その結果、京都の町が恐ろしく疲弊したことだけは、高橋昌明著『京都〈千年の都〉の歴史』で読んで、印象に残っている。

 著者は、応仁の乱(1467-1477)の始まりから終結までを論ずるにあたり、二人の興福寺僧の日記を参考とする。経覚(きょうがく、1395-1473)の『経覚私要鈔』と尋尊(じんそん、1430-1508)の『大乗院寺社雑事記』である。したがって、本書は15世紀前半の大和国から始まる。応仁の乱なのに?と驚いていたら、興福寺の大乗院衆徒と一乗院衆徒の対立に端を発し、大和永享の乱が起きる。一度は平和が戻ったかに見えたが、隣国河内の守護である畠山氏が家督争いから分裂すると、諸大名が合従連衡し、戦乱が広がっていく。文正2年(1467)正月、ついに京都で戦乱が勃発。

 なお、足利義政の弟・義視と実子・義尚(母は日野富子)の次期将軍をめぐる争いは、余談程度にしか触れられていない。義政は東軍の側にあって、和睦のための努力もしていたが、義視との関係が次第に悪化。伊勢にあった義視は、上洛して西軍の陣に入ってしまう。西軍は幕府を模した政治機構を整え、二人の将軍が併存する事態となってしまう。

 文明3年(1471)には赤痢・疱瘡が流行。旱魃と戦乱で食料も不足し、次第に厭戦気分が蔓延し、山名宗全が正常な精神状態でないという噂が流れる。結局、細川勝元、山名宗全の両大将が表舞台を退く(家督を譲る)ことによって、うやむやのうちに大乱は終結した。

 正直、始まりから終わりまで、何も感動するとことがない。カッコいいと思える登場人物もまあいない(河内の畠山義就はちょっといい)。これではドラマにもなりにくいだろうなあと思う。1994年の大河ドラマ『花の乱』は、ずっと歴代最低視聴率だっというエピソードに苦笑。やっぱり素人にとっては、一度でもドラマを見たり小説を読んだりすると、登場人物の輪郭がはっきりするのだが、細川勝元って(あるいは山名宗全って)どんなヤツ?というのが、なかなかイメージできなくて、苦労した。本書を読み終わっても、正直、まだ応仁の乱ってよく分かっていない。

 むしろ面白いのは、当時の生活や戦いの実態である。この時代、防御施設をつくる技術が発達して、材木を井桁に組んだ物見櫓「井楼(せいろう)」が作られるようになったとか、陣の周囲に堀を掘って要塞化した「御構(おんかまえ)」が出現したとか、具体的な戦場の風景が目に見えるようで面白い。鎌倉時代までの市街戦は一日か二日で終わったが、応仁の乱では、市街戦が事実上の攻城戦になり、長期化した。また、軽装で機動的な足軽が活躍したこと、補給路の争奪が勝敗を制したことなどを読むと、本格的な戦国時代の先駆けだなあという感じがする。

 また、大和国(奈良)は、衆徒・国民の小競り合いはあっても、応仁の乱で戦場になることはなかった。衆徒・国民は、興福寺の法会(&春日大社の祭礼)を無事に開催することを重視し、決して他国の軍勢を引き入れようとしなかったという。大和国における興福寺の存在って、事実上の守護大名と言っていいものだったのか…。あまり意識したことがなかった。

 そして、京都の公家たちが「疎開」してきて、大和でおこなった遊芸の数々、連歌や薪猿楽(薪能)の話も面白かった。風呂から出たあとにお茶や宴会を楽しむ「淋間茶湯」も寺院など行われていたという。なお、京都文化の地方普及を促したものとして、公家の地方下向だけでなく、乱以前から在京していた武士(守護や守護代)が乱を契機に国元に下った影響も大きい、と著者は述べている。

 次に興福寺に行ったときは、中世の風景を思い描いて歩いてこよう。調べたら、一乗院跡は奈良地方裁判所であり、経覚と尋尊が門主をつとめた大乗院は奈良ホテルの南側に庭園だけ残っているそうだ。

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