見もの・読みもの日記

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清朝宮廷の理想の夫婦/中華ドラマ『延禧攻略』

2019-12-20 23:16:53 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『延禧攻略』全70集(2018年、東陽歓娯影視文化有限公司他、制作人:于正)

 2018年の中国ドラマは「後宮もの」がブームの様相を呈したが、最も高い人気を博したのが本作である。日本では、2019年2月からCS衛星劇場において『瓔珞(エイラク)~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~』のタイトルで放映され、じわじわ話題になっているようだ。私は食わず嫌いで後宮ものは敬遠していたのだが、試しに1本視聴してみた。

 舞台は清の盛期、乾隆帝の宮廷。魏瓔珞は下級の宮女として出仕し、繍坊(刺繍の御用をつとめる)で働くことになる。才気煥発で独立心の強い瓔珞は、やられたらやり返して同輩のいじめをはねのける。やがて皇后富茶氏の目に留まり、長春宮に出仕。皇后は深い愛情で瓔珞を導き、教育を施す。しかし瓔珞には胸に秘めた野望があった。それは宮女だった姉の死の真相を突き止めること。はじめ瓔珞は、皇后の弟で御前侍衛の傅恒を疑うが、和親王(弘昼)が姉を凌辱し、死に至らしめた犯人であることを突き止める。皇帝は弟の不品行を叱責するが、たかが宮女の命の代償に重罰を課すことはなく、瓔珞の復讐は遂げられない。

 かえって瓔珞は宮中を騒がせた罪により、最下層の雑用を担当する辛者庫に送られて、袁春望という謎の太監と知り合う。瓔珞に惹かれていた傅恒は、彼女との結婚を願い出るが、皇帝は承諾せず、皇后の侍女・爾晴との結婚を命ずる。傅恒は瓔珞の罪が許されることの代償として、望まない結婚に同意する。しかしそれは、爾晴にも傅恒にも不幸の始まりだった。

 長春宮に戻ってきた瓔珞の奔走によって、皇后は皇帝の寵愛を受け、皇子を出産するが、出火によって皇子を失い、絶望して自ら命を絶つ。瓔珞は事件の背後に陰謀の匂いを嗅ぎ取り、復讐の決意を固める。皇太后に取り入り、ついに皇帝の寵愛を受け、令貴人ついで令妃(延禧宮)となって、後宮の妃嬪たちの嫉妬を、長春宮時代の同輩・明玉とともに乗り越えていく。最大の強敵は新たな皇后となった輝発那拉氏(嫻妃、承乾宮)だったが、瓔珞は皇子たちの平和な成長を願って、しばらく休戦を申し入れる。

 月日が流れ、乾隆30年。皇帝と令妃瓔珞の仲は相変わらず睦まじく、皇后は年齢による容貌の衰えを気にしていた。今は皇后に使える太監の袁春望は、皇后、そして皇后を慕う和親王の不安を煽り、ついに和親王は、南巡の御船に暴徒を引き入れる。しかし危険を察知して避難していた皇帝、皇太后らは事なきを得、瓔珞はかねて調べておいた袁春望の正体を暴いて一件落着する。

 以上はかなり省略した粗筋。実際は、もっと次々に事件が起こり、ひとり悪役が退場すると新たな悪役が現れて、70集という長丁場を飽きさせない展開になっている。というか、善良で平凡な脇役だと思っていた登場人物が次々に悪の道に踏み込むのでびっくりした。変貌ぶりにちょっと無理を感じたキャラもいないではないが、見方を変えれば、完全な悪人はいなくて、自分より恵まれた者への嫉妬、不確かな地位への不安、そして家族愛などから闇落ちしていく弱い人間ばかりなのである。序盤は聡明だったはずの皇后輝発那拉氏もそのひとり。皇帝の恩情で、命は長らえることができてよかった。

 人々の弱さを狡猾に操り、宮廷すなわち愛新覚羅家に決定的な破滅をもたらそうとしたのは袁春望。彼の正体は、先帝が太行山を流浪した際、農家の女に生ませた落し胤だった。皇太后は猛烈な勢いでそれを否定するが、なぜか皇帝に袁春望の助命を嘆願し、真実は視聴者の想像に委ねられる。袁春望を演じた王茂蕾さん、執念深くて虚無的な演技がとてもよかった。『軍師聯盟』で漢の献帝を演じた方なんだな。彼の存在が、ピリッと舌に刺さるドラマの味付けになっていた。

 瓔珞と惹かれ合いながら一緒になれない傅恒の純愛。最終回の最後の言葉まで純愛ひとすじで泣けた。一方で、自由で鼻っ柱の強い瓔珞(呉謹言)と、文句は言いながら寛容に見守る乾隆帝(聶遠)みたいな仲良し夫婦像は、いまの中国人の理想かもしれないなあと思った。私の乾隆帝イメージは、ずっと『鉄歯銅牙紀暁嵐』の張鉄林だったが、約20年ぶりにバージョンアップされた。

 本作には、その紀暁嵐(紀昀)先生の『閲微草堂筆記』が出てきたり、絵画『富春山居図』が出てきたり、乾隆帝漢人説(※参考。母は銭氏?)など、清朝の歴史文化を踏まえたエピソードが豊富で、本筋とは別なところでも楽しませてもらった。久しぶりに北京の故宮(紫禁城)に行きたくなった。


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