見もの・読みもの日記

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持ち込み、核燃サイクル/日米〈核〉同盟(太田昌克)

2014-12-02 21:44:24 | 読んだもの(書籍)
○太田昌克『日米〈核〉同盟:原爆、核の傘、フクシマ』(岩波新書) 岩波書店 2014.8

 重たい本だった。本書は「日米核同盟」を、二つの側面から説いていく。一つは「核持ち込み」に関する密約。1951年に締結された旧安保条約では、米軍が日本に核兵器を持ち込むことに何の制約もなかった。1960年、安保条約の改正よって、「米軍の装備における重要な変更」(具体的には米軍による核兵器の持ち込み)は「事前協議」を必要とすることになった。

 しかし、日米両国はある機密文書に署名することにより、核兵器を搭載した米軍艦船や軍用機の日本領海・領土への「通過・寄港、飛来」は、事前協議の対象から除外された。この「核密約」について、歴代政府は2009年(民主党の政権奪取)まで一貫して存在を否定してきた。著者は、膨大な公文書と関係者への取材によって、この「密約」の存在を明らかにする。

 生々しいのは外務省関係者の証言である。外務省には核密約に関する「メモ書き的な紙」が残されており、歴代事務次官がそれを引き継いできた。さらに北米局には、密約の原型ともいうべき「機密討論記録」の原本、条約局にはそのコピーが存在しており、「長続きしそうで、立派な」大臣にだけブリーフィング(説明)をしていた。外務官僚が、信頼できる首相、外相とそうでない首相、外相を選別していたというのだ。官僚主導、極まれりというか…すごい話だと思った。よい悪いを別にして、あるべき姿として教えられている行政システムと現実には、いかに大きな隔たりがあるかをしみじみ感じた。

 さらに驚いたのは、2001年4月の情報公開法施行を前に、外務省内で核密約をはじめとする日米密約の関連文書が大量廃棄されたことだ。詳細は本書の記述に譲るとして、「許されぬ歴史への冒涜」という著者の怒りに私は共感する。しかし天網恢々疎にして漏らさず、どこからか廃棄した文書が出現する(誰かが隠し持っていた)みたいなことは起こらないのかなあ。

 「日米核同盟」の第二の側面は、原子力政策に関するものである。1953年、国連総会で「アトムズ・フォア・ピース」の演説を行ったアイゼンハワー大統領は、同盟・友好国に「原子力の平和利用」の導入を急いだ。その結果、1956年、日本初の総合的な原子力政策「原子力開発利用長期計画(長計)」がまとめられた。そこには、使用済み核燃料から取り出したプルトニウムやウランを有効活用し、最終的には高速増殖炉をフル稼働させて、消費した以上のプルトニウムを増殖するという「核燃サイクル」の夢が語られている。

 使用済み核燃料の再処理工場(青森・六ヶ所村)は、今日なお完成していないが、日本が保有する民生用”余剰”プルトニウムは、すでにに世界でも突出した量(約45トン)に達している。核爆弾5000発分以上に当たるというのだ。私は原子力は使わないほうがいいと思っており、できれば今すぐ日本に原子力と縁を切ってほしい。しかし本書を読んで、事はそれほど単純でないということは理解した。原発再稼働のめどが立たないまま、再処理工場が本稼働すれば、使用目的のないプルトニウムはいよいよ増えていく。いわゆる「ならずもの国家」に核物質が渡るリスクを防ぐため、余剰プルトニウムの発生を警戒するアメリカは、日本の迷走に深い懸念を感じているという。もっともな話だ。私は原発稼働には賛成しないが、核不拡散の観点から、「余剰プルトニウムは持たない」という国際公約を軽々に反故にしていいとは思わない。

 最終章は、2004年の春先、渋谷某所のファミリーレストランで、経済産業省資源エネルギー庁の若手官僚が「19兆円の請求書」と題したパワーポイント資料を作っていたという、小説のような幕開けで始まる。資料には「行政の無謬性へのこだわり-今まで核燃料サイクルを推進してきたことが時代遅れとなったという政策の誤りを認められない」との文言。国家プロジェクトが、いつの間にか撤退不能の「絶対完遂型」事業となり、根拠のない安全神話で飾られていく背後には、「無謬性」にこだわるエリート官僚の独善があるのではないかという著者の見解が述べられている。

 この点には半分だけ同意する。私はむしろ、一度始めた国家事業が撤退不能の「絶対完遂型」事業となってしまうのは、官僚だけの責任でなく、日本国民のひとりひとりが、怠惰で無責任であるためではないかと思う。自分の頭で考えなくても、困ったことはアメリカが何とかしてくれるという甘えは、そろそろ捨てなければならない。私が生きているうちに、大人になったこの国を見ることはできるだろうか。

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