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見もの・読みもの日記

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2020年11月関西旅行:天平礼賛(大阪市立美術館)

2020-11-25 22:57:41 | 行ったもの(美術館・見仏)

大阪市立美術館 特別展『天平礼賛』(2020年10月27日~12月13日)

 連休初日は大阪文楽劇場の正面の東横インに初めて泊まった。翌日は和歌山に直行の予定だったが、実は大阪でもうひとつ行きたい展覧会があり、いろいろ考えた結果、2日目の朝に行ってしまうことにした。9:30開館なので、早めに行って建物の前で開館を待つ。大阪市美は「GoToトラベル」事業者になっていることが分かったので、前日、ホテルで貰った1000円クーポンで入館料1,500円の一部を支払った。

 本展では、天平美術の名品とそれらに刺激を受けた後世の作品をあわせて紹介し、天平美術が日本の美の古典としての評価を得るに至った「天平礼賛」の歴史を解き明かす。なぜいま天平?という意図はよく分からなかったが、古代史・古代美術好きとしては嬉しい企画である。

 とは言え、実は何が出陳されているのか、あまりよく調べずに来てしまった。最初の展示室で目にしたのは、きらびやかな正倉院宝物の模造品の数々。大正から昭和にかけて、吉田包春(1878-1951)が制作したものだ。吉田は奈良女子大学と縁があり、同大は遺族から多数の作品や資料の寄贈を受けているそうだ(※関連記事)。特に『犀文螺鈿円鏡(さいもんらでんえんきょう)』が素晴らしかった。展示図録の写真と現物の印象がずいぶん違った。現物は、ケース内の照明のせいか、赤や緑の石片が目立たず、全体が白金のように輝いていて神々しかった。なお正倉院宝物検索では『円鏡 平螺鈿背 第5号(南倉70)』と呼ばれているものらしい。あれ?もしや?と思ったら、今年の第72回正倉院展に『平螺鈿背円鏡』という名前で出ていたものだった。本物は赤い石(琥珀)が印象的だった。

 最初の展示室、別の列には(模造でなく)本物の唐代の青銅鏡がずらり。大阪市美も充実した古鏡のコレクションを持っているのだが、なんだか見たことある?と思ったら、五島美術館や大和文華館、白鶴美術館などの名品が揃っていて眼福だった。天平礼賛はすなわち唐代礼賛なんだよなあ、と思う。

 仏像は、まず白鳳時代の小さな銅造観音菩薩立像に癒され、奥に進むと、見たことのある菩薩坐像(右足踏み下げの半跏像)。神奈川・龍華寺の土蔵で発見されたもの。そうだ、脱乾漆造による天平仏なのだ。充実した胸の厚み、引き締まった腰、過不足ない肉体の美しさに見惚れる。隣には、ずんぐりした兵庫・金蔵寺の阿弥陀如来坐像。体部は江戸時代だが、頭部は奈良時代の作で、龍華寺の菩薩坐像の作風にきわめて近似する(特に耳のかたち)。体部の補作を「天平礼賛のひとつのあり方」ととらえる視点が興味深いと思った。あと小さいもので、京都・観音寺の菩薩坐像もよかった。シンプルな造形だが、布のひだや折り返しの表現に神経が行き届いている。

 古経では、各地から集められた『金光明最勝王経』を堪能した。天平18年、聖武天皇の発願による「国分寺経」で、紫色の料紙に金泥が今も輝く。鎌倉時代に後宇多院が同様の紫紙金字経を制作したが、むしろ退色が進んでおり、「国分寺経の古代紫がいかに優秀な染色であったか」という指摘に納得した。中宮寺の『天寿国繡帳』も後世の刺繍のほうが退色が進んでいるのじゃなかったかな。

 大阪ゆかりの出土品が多く出ていたのも見どころのひとつ。難波宮跡から出土したという、重圏文軒丸瓦と重圏文軒平瓦は、蓮華文や唐草文に比べると、ずいぶんシンプルでモダンだと思う。

 さて、明治以降の画家たちが描いた天平の美女たち。藤島武二、青木繁、和田英作、岡田三郎助など、洋画家の作品が集められていて面白かった。どう見ても西洋文化への憧れがミックスされていると思う。本多修平の木造『元明天皇坐像』は、平城宮跡に平城神宮を建立しようという機運が高まったとき、そのご神体として造られたが、計画が頓挫して、今日まで個人宅にとどまっているという。歴史上では早世した草壁皇子の妃で、あまり幸せでなかった女性天皇のイメージだが、木彫りの像は丸顔の気のいいおばちゃんの雰囲気。どこか落ち着き先が見つかるといいのに。


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