見もの・読みもの日記

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深みに欠けた皇帝像/李世民(塚本青史)

2015-03-10 21:39:50 | 読んだもの(書籍)
○塚本青史『李世民』上・下(日経文芸文庫) 日本経済新聞社 2014.10い

 中国歴史小説を数多く書いている作家だということは知っていたので、いつか読んでみたいと思っていた。最初の作品に李世民を選んでしまったのは…間違いだったかもしれない。正直、面白くなかった。ヤマがなくて、平板なのだ。これが李世民という男のせいなのか、著者の力量のせいなのか、よく分からない。私は、主人公の有名無名に限らず、何らかの人間の業のようなものが描かれた歴史小説のほうが好きだ。

 けれども本書の李世民ときたら、感情の起伏がないに等しい(と私には見える)。最大の山場、兄弟殺しの「玄武門の変」さえも、淡々と事務的に処理されて、次の場面には、葛藤も禍根も残らない。歴史年表の「重大事件」にマーカーで印をつけながら進んでいく受験勉強みたいで、なんとも味気ない。主人公だけでなくて、個性豊かな(はずの)脇役たち=李世民を囲む文官・武官たちも全くキャラ立ちが感じられない。そこが安心だという読者もいるのかなあ。あまり血なまぐさい、ドロドロした歴史は読みたくないというような。

 細かいことをいうと、李世民の文化的な側面、詩作とか書への偏愛が全く描かれていないのが残念。日本の古代史を題材にして、和歌や歌謡(そして漢詩)が出てこない小説も興ざめだが、中国を舞台に詩が全く出てこないのもさみしい。どこの国のどこの時代の話か分からなくなる。ああ、登場人物が日本のさむらいことば(「みども」「それがし」「おこと」の類)を使うのも私はあまり好きではない。さむらいにも平安鎌倉のことば、中世後期のことば、江戸のことばなどがあって、それらが雑に使われていると、時代をイメージしにくいからだ。

 読んでよかった点を探すと、李世民が唐の皇帝であると同時に「天河汗」として、周囲の遊牧民族に号令していたと分かったこと。中国のネット百科によれば、李世民だけでなく、歴代の唐の皇帝はみな「天河汗」を名乗った。これは清と同じ体制ではないか。やっぱり唐って色濃く遊牧民族の王朝なんだな。それから、吐蕃王に嫁いだ文成公主など、遊牧民族との関係がわりと詳しく書かれていたのも興味深かった。

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