見もの・読みもの日記

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身近なあの世/かわいい仏像、たのしい地獄絵(須藤弘敏、矢島新)

2015-03-05 22:32:15 | 読んだもの(書籍)
○須藤弘敏、矢島新『かわいい仏像、たのしい地獄絵:素朴の造形』 パイインターナショナル 2015.1

 矢島先生の『日本の素朴絵』に魅せられた私にとっては、待望の姉妹編。しかし本書にはびっくりした(いい意味で)。前半は、青森県から岩手県北部に残された近世の仏像を扱う。須藤弘敏さんを中心とする地元の研究者の丹念な研究調査によって、近年見出されたものだという。「純朴にして自由奔放な造形に、目が(心が、じゃないのねw)洗われる思い」という矢島先生の序文に心から同意。

 小さくて丸っこい、アンパンマンみたいな愛らしい仏もある。真面目に作っているのに、どこかパースがおかしい、謎めいた仏もある。一目見て言葉を失う、ぶっ飛んだ造形もある…。岩手県八幡平市兄川山神社の山神像の衝撃。土筆のような大きな頭部をまじまじ眺めた末に、胴体の胸の前で小さな手が合掌しているすることに気づいて、もう一度殴られたような衝撃を受ける。青森県平川市広船神社の、モヒカン頭みたいな男神像もいいなあ。神のようでもあり仏のようでもある。区別は無意味なのだろう。

 やさしくユーモラスな鬼たちについて、著者はいかにも地元の研究者らしい視点で語っている。北東北地方では、食料不足や疾病で幼い子供が亡くなることが多かった。地獄でわが子を待っている鬼たちは、やさしい姿であってほしいと人々は願ったのである。納得。

 後半は、矢島新先生が、近世の地獄絵を紹介。『善光寺如来絵伝』(長野市善光寺淵之坊)『地蔵十王図』(滋賀県高島市宝幢院)など。『地獄十王図』(千葉県長柄町)は淡い色彩でほのぼの。登場人物がみんな、鬼も亡者も白目の大きい点目。日本民藝館の『十王図屏風』は、たまに展示に出ていると嬉しくなる作品だが、部分を拡大するとユルさが際立つ。「団扇を使って炭火焼き」「怪獣に喰われるというより舐められているよう」など、本気か冗談か分からないコメントにくすぐられて、悶絶する。著者の目のつけどころ(拡大する箇所)とコメントは、どの作品も楽しい。

 葛飾区東覚寺の『地獄十王図』は、ペンキ絵みたいな強烈さがある。大きな黒目の登場人物、きっちり、はっきりした色彩など、お絵かき大好きな子供が張り切って描いたようだ。そして、品川区長徳寺の『六道絵』。これは何度見てもすごいなあ。鬼かっこいい。修羅道の武者たちも。この作品は、著者の企画した『素朴美の系譜』展(松濤美術館)で実物を見ることができたことを幸せに思っている。

 矢島先生も、素朴でおおらかな地獄絵が生み出された背景について、16世紀から17世紀にかけて、日本史上で最も多くの血が流れ、地獄を身近に感じざるをえない乱世であったこととの関連を示唆しているのが、興味深かった。ヨーロッパの中世美術にも、似た傾向があるかもしれない。

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