見もの・読みもの日記

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ドイツ怪異譚/トゥルーデおばさん(諸星大二郎)

2006-03-24 23:04:20 | 読んだもの(書籍)
○諸星大二郎『グリムのような物語:トゥルーデおばさん』(眠れぬ夜の奇妙な話コミックス) 朝日ソノラマ 2006.2

 年度替わりの忙しい毎日、手軽な読みものでもないかなあ、と思って、コミックの棚に寄った。そうしたら、気になる表紙に目が留まった。明るい色調と、古風なペン画のタッチ。石造りの古城の周りに、エプロンドレスの女の子、金髪のお姫様などが配されている。海賊のような帽子を被り、短筒(と呼びたい)を構えて気取る青年、ヘンな怪物もいる。そして、おお、確か、そんな題名のグリム童話があったな、と思わせる「トゥルーデおばさん」の文字。

 気になるコミックだな~。買ってみようかしら。しかし、私はまだ、著者の名前に気づかなかった。オビのいちばん下に示された「諸星大二郎」の文字が、目に入っていなかったはずはないのに――どうしても、あの諸星大二郎と結びつかなかったのだ。

 私は、むかしから、諸星大二郎の中国ダネ作品(『西遊妖猿伝』『諸怪志異』など)の愛好者である。最初に著者の名前を覚えたのが『桃源記』(1980年)だったし。その次に好きなのが『マッドメン』などの南方モノ。あとは、普通の人々(当然、日本人)の何気ない日常が、徐々に暗黒の陥穽に落ち込んでいくような雰囲気の作品も大好きである。

 しかし、諸星大二郎が、まさかグリム童話を題材にした作品を描いていようとは、考えてもいなかったのだ。びっくりした。しかし、当然、買って帰った。もう、言葉にならないくらい、イイ! 巻頭作『Gの日記』の冒頭、「また、針のない時計が時を告げる」というト書きを視覚化したコマで、もう私はノックアウトされてしまった。

 偏見かもしれないが、諸星さんの中国ダネ作品は、まさに中国怪異譚の真骨頂が視覚化されているように思える。それに対して本書は、「これがグリムなのか!?」と、まず戸惑い、それから「あ~グリムなのかもなあ~」と納得するような世界である。単に「本当は怖いグリム童話」などというレベルではなく、無意識の奥にしのび入るような恐怖と不安(と快感)に満ちている。

 しかし、主人公の女の子たちは、そんな恐怖と不安の諸星ワールドを、颯爽と渡っていく。私は、諸星さんの作品といえば、男性か少年が主人公というイメージを持っていたが、この作品集は、グリム童話の中から「女の子が主人公のものを意図的に選んだようなところがある」と、著者自ら語っているのが興味深い。

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