見もの・読みもの日記

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定められた独身者たち/結婚戦略(ブルデュー)

2008-01-15 23:48:04 | 読んだもの(書籍)
○ピエール・ブルデュー著、丸山茂・小島宏・須田文明訳『結婚戦略:家族と階級の再生産』 藤原書店 2007.12

 たまたま新刊書の棚で見つけて衝動買いしてしまった。初めて読むブルデューである。原文は1962年に発表された論文と、その追補2編。農村で激増する「結婚できない男たち」への聴き取り調査をもとに、旧社会(1914年=第一次世界大戦以前)における婚姻交換システムと、その変容を詳述したものである。「旧社会の婚姻」と言ったって、適度にロマンスの色付けをした小説でしか読んだことのない私にとって、こういう実証的な研究は、なかなか衝撃的だった。

 旧社会においては、先祖が蓄えた土地と家産以外に、生きる術(稼げる仕事)を見つけることは極めて困難だった。したがって、婚姻は経済的な損得を抜きに考えられなかった。長子は適度に裕福な家の女性次子と結婚することで家産を増やし、妹たちのために婚資を獲得しなければならなかった(ただし、高すぎる身分の女性との結婚も忌避された。多額の婚資を受け取ることが、負担と感じられたためである)。名家の男性次子は女性相続人(長女)との結婚を望んだ。この結果、長男や長女の独身は稀であるのに対して、貧しい家の男性次子はしばしば独身者だった。彼らの独身は、社会システムが要請する犠牲のようなものだった。

 ところが、大戦後、土地所有に拠らない労働機会が増加するとともに、女性たちは、いちはやく都市的な文化モデルに順応し(旧社会で権利が制限されていた分、縛られる義務も少なかった)、僻村よりは町場集落、町場よりは都市の男性との婚姻を望むようになった。その結果、僻村集落では、財産をもった長子でも結婚できない事態が生じている。

 こうしてみると「旧社会の婚姻交換システム」は、それなりの合理性を有していたことが分かる。個人主義の立場からは、個人の意思や感情を無視してると非難されるわけだが、そういう近代主義者が、土地と家産を手離しては生きていけないという当時の経済システムをどのくらい理解しているか疑問である。

 それにしても、大戦後の僻村の絶望的な事態、その後はどう推移しているのだろう。今でも都市と農村の結婚格差はあるのだろうか。もし格差が解消されているとすれば、どんな対策が取られたのか、フランスの出生率上昇よりも、よほど気になるところである。


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