見もの・読みもの日記

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破壊の爽快感/映画・シン・ゴジラ

2016-08-14 09:57:44 | 見たもの(Webサイト・TV)
○庵野秀明脚本・編集・総監督『シン・ゴジラ』(TOHOシネマズ流山おおたかの森)

 話題の『シン・ゴジラ』を見て来た。爽快感があって面白かった。それ以上に、これでさまざまなネタバレ批評を心置きなく読めると思ってホッとした。実はこの映画、私が初めて見た怪獣映画である。1970年代、テレビの特撮物は大好きだったのに、超人の出ない怪獣映画には興味がない子どもで、そのまま大人になってしまった。初代『ゴジラ』に関しては、さまざまな解釈や批評を読んできたが、実は原典を見ていないのである。

 『シン・ゴジラ』についても、セリフの量が異常に多くて会議の場面が多いとか、庶民の姿があまり描かれないとか、小池百合子似の防衛大臣と甘利明似の大臣が出るとか、ゴジラは野村萬斎のモーション・キャプチャーであるとか、その程度の情報は(求めなくても)入ってしまっていた。

 しかし、始まってすぐ画面に全身を表すゴジラ第二形態には意表を突かれた(第一形態は尻尾のみ映る)。瞳の小さい大きな目。笑っているように大きく開いた獰猛な口。吾妻ひでおのマンガっぽい。無様に這いずりながら多摩川を遡行する姿は、ゴジラとは全く別の怪獣だった。あとで立ちあがった第三形態、第四形態のゴジラの圧倒的な強さより、私は第二形態のほうが夢に見そうで怖かった。全然忘れていたけど、埼玉県鶴ヶ島市の脚折雨乞(8年前に見た)の龍蛇、一部で騒がれていたように、確かに第二形態に似ている。あと、水面に隠れたゴジラが、ボートや車や建造物の残骸を巻き込みながら川を遡行してくる姿は、どうしたって東日本大震災の津波の映像を思い出させた。

 この映画の見どころは、現在の日本にゴジラ(巨大不明生物)が現れたら、という想定で、閣僚・官僚・自衛隊の対応がリアルに描かれている点だと言われている。確かにセリフが容赦ない霞が関用語でできているので、字幕がほしいと思うときはあった。「自由」?と思って続きを聞くと「事由」だと分かるとか、気が抜けない。しかし官僚って、四六時中あんな調子でしゃべっているのか?と呆れたが、取材に基づくというから、そうなんだろうなあ。なお、私は、そんなことより、ゴジラの圧倒的な巨大さ、自衛隊の攻撃も米軍の攻撃も、ものともせずに撥ね返す強さが爽快だった。あまり(擬人化された、分かりやすい)怒りを露わにしないところに凄みがあってよかった。

 私は、ゴジラに血液凝固促進剤を飲ませる「ヤシオリ作戦」の意味が不覚にも分からなかった。あとでヤマタノオロチに飲ませて眠らせた「八塩折之酒」に由来すると知って、なるほど~と唸った。どちらかというと、福島第一原発事故のとき、消防車で水を注入したことを思い出していた。同時に、あれは結局、根本的な解決にならなかったなあ…という記憶があったので、ゴジラは、こんな人間の浅知恵を蹴散らして、もう一度起き上がるんじゃないかと思ったら、起き上がったところで、あっさり凍りついてしまったので、拍子抜けした。

 この映画、現政権のプロパガンダだとか、いや政権批判の立場だとか、いろいろ議論もあるそうだ。私はどっちでもいい。主要閣僚がゴジラの一撃で全員死亡してしまうのは、なかなかブラックだと思った。国会前(官邸前?)のデモらしきものが一瞬、遠景に映るが、これは意図がよく分からなかったところ。不眠不休の官僚たちの奮闘を際立たせるための対比なのかな? 一般庶民が自分たちの声を上げている唯一の場面とも言える。リアリティを追及しているようでいて、物事を決めるのは閣僚会議ばかりで、議会や議員が全く描写されないのは不思議。しかしこれが今の日本人の平均的認識なのかもしれない。

 あと天皇と皇室をどうするか、という描写もない。今の皇室一家を念頭に置きながら、あの混乱の中で避難はされたのだろうか、と案じてしまった。何しろ、ゴジラと自衛隊が最後の死闘をくりひろげるのが東京駅で、目の前が(映っていないけど)皇居だから気になったのだ(気になって調べたら、1954年のゴジラも皇居すれすれを通過していたことが分かった)。

 野村萬斎のゴジラであるが、とにかく姿勢がいい(笑)。全くきょろきょろせず、上半身を動かさずに摺り足で動いていく。下半身が袴を穿いたようにふくらんでいるし(自重を支えるためにそうなるのだろう)、背景に能舞台の松の絵(鏡板)が見えてくるような感じだった。あとは高橋一生さん演じる文部科学省の官僚(安田)がキュート。絶対、平時はダメ官僚なんだろうな、と想像できる。

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