見もの・読みもの日記

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《リレー対談》日本・アジア・世界’08

2008-08-03 19:31:39 | 行ったもの2(講演・公演)
○朝日カルチャー公開講座《リレー対談》日本・アジア・世界'08

 昨年の『日本・アジア・世界'07』に続く企画。会場は、いつもの新宿・住友ビルではなく、今春、東大本郷キャンパスにオープンした、情報学環(姜尚中氏の所属する研究科)の福武ホール(安藤忠雄設計)である。塀と道路に挟まれた異様に細長い敷地という悪条件にもかかわらず、周囲の緑を最大限に生かして、むかしからそこにあったかのように調和的な建物が生まれていた。公式サイトの「京都の三十三間堂を参照」という説明を読んで納得。全体のプロポーション(特に、建物の高さ)が、自然に対して謙虚なのである。

■藤原帰一×大澤真幸 アメリカ中心主義の崩壊と日本の選択
 
 「アメリカ」がテーマということで、政治学者の藤原先生の発言が目立った。フィリピンを例に、反米ナショナリズムさえもアメリカに擦り寄ることで成立しているという、身もフタもない真実を明らかにする(日本も同じ)。意表を衝かれたのは、今のアメリカを考えるために、藤原先生がキケロを参照されたこと。キケロは、ローマ帝国に対抗できる勢力が消滅したときこそ、帝国の危機であると捉え、「法」によって皇帝(および軍)を統制する必要を論じていたという。大事なのは、「われわれにとって有利なアメリカを如何に獲得するか」だという言葉に同感。サブカルチャー話で盛り上がったりして、楽しかった(スーパーマンって、宇宙からの「移民」なんですね)。

■小森陽一×大澤真幸 新しいナショナリズムからの脱却の可能性

 小森先生がナビゲーター役となり、大澤真幸さんが、近著『逆接の民主主義』を語りなおすかたちで進行。実は第1セッションのあと、会場の隅の席に、色とりどりの付箋をびっしりつけたこの本が置いてあって、へえー熱心な読者だなあと思っていたら、あとで小森先生のものと分かった。同書を読んだときは、「北朝鮮を民主化する」「自衛隊を解体する」などの具体的な提案に目を奪われてしまったが、最終的な目標として「僕は(国家)主権というものを骨抜きにする関係性をつくりたい」(だったかな?)とおっしゃったことが、心に落ちるように思った。

■姜尚中×藤原帰一 東北アジアの関係の再構築のために

 再び現実の政治課題に戻り、ヨーロッパを比較材料に、東北アジアの関係再構築を考える。重要なのは、姜先生が強調するのが、ブローカーとしてのアメリカの役割。また、ヨーロッパが、石炭鉄鋼共同体という、非常にプラグマティックな問題からスタートして今日の統合に至ったように、アジアも、北朝鮮の核という具体的なアプローチから始めて、最後は「われわれ」のアイデンティティの問題に至ることができるのではないか。ライス長官のピョンヤン訪問はあるか?とか、キム・ジョンイルのベトナム訪問計画とか、生々しい話題も出て、興味深かった。

 最後に4人の講師によるセッション。国際政治をめぐる大局的な話題から、一転、秋葉原通り魔事件を取り上げ、日本の社会に蔓延する閉塞感や無力感について、議論が交わされた。議論が真剣すぎて、出口の無さが目立つような結末になってしまったけれど、「自己責任」に還元せず、われわれがともに生きているこの社会の問題として考えていこう、と小森先生がまとめた。ご自身のことを「用心深い楽観主義」とおっしゃったのは姜先生だが、この形容は、どの講師にも当てはまるように思う。楽しい1日だった。

 「ここだから言ってもいいかな」みたいな発言もいろいろあって、記録するのもためらわれるのだが、ひとつだけ書き留めておきたい。小森陽一先生は「ご進講」の依頼があったけど、お断りしたのだそうだ。びっくり。今上天皇のご意向とすれば、非常に興味深いお方である。

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