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見もの・読みもの日記

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真っ当なサヨク批判/ラディカリズムの果てに(仲正昌樹)

2006-08-14 01:10:17 | 読んだもの(書籍)
○仲正昌樹『ラディカリズムの果てに』 イプシロン出版企画 2006.6

 現役大学院生の知人によれば、最近、人文社会学系の学会では「サヨク」の跋扈がひどいのだそうだ。どんな議論も「反権力」「反体制」に結びつけなければ、気がすまないらしい。へえーそうなの。私は、ネットやマスコミを見ている限り、うっとおしいのは右翼のほうかと思っていたのに。学者の世界はまた違うんだな。

 著者も、サヨクの跳梁に苦痛を味わっているひとりだそうだ。本書は、「世の中の人たちは悪い権力者に騙されている」という独り善がりの使命感を抱き、半分空っぽの頭で吠えているサヨクに対して、「吠えたかったら、てめえの犬小屋に籠って吠えてろ!」「マルクスの亡霊と一緒に地獄の穴蔵に戻ってくれ!」と思っている著者が、恨みの一部(4割くらい)を吐き出して、語り下ろしたものである。

 と、こんなふうに紹介してしまうと、誤解を招くかしら。上記は、著者一流のリップサービスに満ちた「本書を読む前の注意書き」(まえがき)の要約であるが、以下、本文で著者がインタビューに応えて語っている事柄は、ちょっと爺くさいくらい、常識的で、真っ当である。

 たとえば、「つまんない本」を読むことは大切である、とか。それによって忍耐力が身につき、基礎教養が養われる。専門書を読めないバカに限って、新書やエッセイだけを読んで、「こいつ、こんな単純なことを言っている」と不毛な悪口を言いたがる。むかしは右にも左にも、江藤淳や廣松渉のような大物がいて、基礎教養のない者が論壇に近づく余地はなかった。ところが、パフォーマンスで目立つ人が論壇で偉くなり始めると、教養の権威が上から崩れていく。同時にどんな独り善がりの意見でも、ネットを使って公表する機会が持てるようになると、妙な「参加幻想」を持つ思想オタクが増えてくる。大学生になった時点で「ちゃんとした手続きを踏んで定式化された言論にこそ価値がある」ということを学ぶべきである、云々。

 苦笑しながら読んだのは、左翼は「ちゃんとしろ」と言えない、という指摘。左翼思想は、「ブルジョワ的人間性を破壊することは良い」という前提に立っているものだから、ニート的、下流アウトロー的な生き方をしている若者に対して、市民道徳を持ち出して「ちゃんとした生活をしろ(=稼げるようになれ)」という激励をすることが、理論的にできない。あー、分かった。うちの職場の労働組合の、理解し難さも、これだわ。どう見ても当人に問題があるケースでも、「ちゃんと労働しろ」とは絶対に言わず、「組織が悪い」「政策が悪い」に論点を移しかえてしまうのが、とても不思議だったのだけど。

 さて、読者の多くは、著者と北田暁大氏との「トークセッション中止騒ぎ」の顛末に興味を持って、本書を手に取るのではないかと思う。しかし、詳細は略すが、この件についても、著者の説明は、しごく穏当である。私は北田さんのファンでもあるので、著者が「北田君を全否定しているわけではない」と語っていて、ちょっと安堵した。いつかまた、両人の対話が実現する日を待っていたい。

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