見もの・読みもの日記

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伴大納言絵巻上巻を見る/物、ものを呼ぶ(出光美術館)

2024-09-23 21:37:43 | 行ったもの(美術館・見仏)

出光美術館 出光美術館の軌跡 ここから、さきへIV『物、ものを呼ぶ-伴大納言絵巻から若冲へ』(2024年9月7日~10月20日)

 休館を控えたシリーズ展もいよいよ最終章になってしまった。本展は、同館が所蔵する2つの国宝、『伴大納言絵巻』と古筆手鑑『見努世友』をはじめ、やまと絵、風俗画、仏画、文人画から古筆まで、書画コレクションの粋を展観する。

 私は2016年の展示以来となる『伴大納言絵巻』をゆっくり見たくて、日曜の朝イチに入館しようと計画を立てていた。ところが家を出るのが遅れて、到着したのは開館の10分後くらい。展示室内が見るからに混雑していたので、あっマズい!と思った。ところが、人混みを突っ切って先に進むと、奥はまだ人がいない。みんな、冒頭の若冲と江戸絵画で滞留しているのだ。私のお目当て『伴大納言絵巻』は、第3展示室の奥の壁際にあった。まだほとんど他に人がいなかったので、行きつ戻りつ20分くらい眺めていた。

 冒頭は、まだどこかのんびりした検非違使たちの巡行。黒い小札を赤い糸で綴じた揃いの鎧を身に着けている。馬上の人々は弓矢を携え、徒歩の従者たちが剣を持っている様子。剣は直刀っぽい。何人かが松明を持っているのは、夜であることを示すのだろう。

 次第に人々の足取りが早くなり、注意が前方に向けられる。朱雀門を潜って、群衆が大騒ぎをしながら眺める先には、凄まじい炎と黒煙に包まれた応天門(よく見ると瓦屋根が見える程度)。反対側(大極殿側)でも貴族たちが呆然と眺めている。これ、同じ野次馬でも、門の内外の身分の対比を、けっこう意識して描き分けているように思う。外の群衆の中には女性がいない(たぶん)が、内側には、垂髪の女性が二人混じっている。なお、今回の展示は上巻のみ。え~中巻、下巻も見たくなってしまった。この作品が出光コレクションに入ったのは、2代目館長・出光昭介のときというのも初めて知ったので書き留めておこう。

 さて冒頭に戻って、鑑賞スタート。プライスさん、若冲の『鳥獣花木図屏風』を日本に譲ってくれて、本当にありがとうございます。縁取り模様が緑と茶色で、唐三彩のタイルみたいだと思った。仙厓『双鶴画賛』は出光佐三氏が最後に収蔵した作品で、賛に「鶴は千年、亀は万年、我は天年」という。鈴木其一『蔬菜群虫図』は、上からキュウリ、ナス、ヘビイチゴの重なりを描いているが、視点の位置がヘンで、非現実的な雰囲気を漂わせる。クールなシュールレアリスム絵画みたいで江戸絵画畏るべし。

 酒井抱一は『風神雷神図屏風』(光琳作品を写したもの)に加えて、『十二ヵ月花鳥図貼付屏風』と『十二ヵ月花鳥図』(元プライスコレクション)を同一展示室内で見比べる楽しみあり。たとえば1月はどちらも梅だが、後者には赤い太陽が添えられている。10月はどちらも柿の木だが、前者は目白(?)、後者はカラスを配する、など。

 山水画では与謝蕪村『山水図屏風』に見惚れてしまった。いやー本場の明清の山水図みたいに巧い。それに比べると、池大雅や田能村竹田は和風な感じがする。こっちが好きな人もいるだろうけれど。

 『祇園祭礼図屏風』は学生の頃に見て、派手な母衣武者の出で立ちに驚き、風俗画の面白さを知った作品。『江戸名所図屏風』は、もちろん黒田日出男先生の『江戸名所図屏風を読む』が副読本(向井将監邸を見つけてニヤリ)だが、男女問わず、描かれた人々の目もとが妙にくっきりしているのも好き。

 古筆は、高野切第一種と継色紙(むめのかの)を堪能。ほかに久松切倭漢朗詠集や中務集が出ていたのは、出光佐三の好みに従ったセレクションだったようだ。いま、出品リストを見直したら、江戸絵画以外は全て国宝・重文・重美指定という、とんでもない展覧会だった。

 丸の内の出光美術館に入れるのは、これが最後になるだろうか?と、ちょっと感傷的になっていたのだが、11月~12月にまだ次の展覧会があるらしい。よかった。お別れはもう少し先。

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