〇太田記念美術館 『浮世絵お化け屋敷』(2024年8月3日~9月29日)
歌川国芳や月岡芳年の名品をはじめ、妖怪や幽霊を描いた浮世絵約170点を紹介する。前後期で完全展示替えだったので、前期に続いて後期も見てきた。いや楽しかった! 浮世絵といえば、伝統的にコレクターに愛されてきたのは美人画や役者絵だと思うが、いま一番人気があるのは、スペクタクルな怨霊・妖怪画ではないかと思う。会期末にあたるこの週末、小さな美術館は大混雑で、若者や外国人の姿も多かった。
後期の見ものは歌川国芳『相馬の古内裏』。一度見たら忘れない、背を丸めて覗き込む巨大な髑髏が巨神兵みたいなやつ。しかし私はこの原作にあたる山東京伝作『善知鳥安方忠義伝』は、いまだ機会がなくて読んでいない。昨年、歌舞伎座で見た『新・陰陽師』に将門の復権を企む滝夜叉姫が登場したので、お、あの滝夜叉姫!と思ったが、だいぶ改変された物語だった。
後期展示で好きなのは、月岡芳年の『羅城門渡辺綱鬼腕斬之図』と『平維茂戸隠山鬼女退治之図』。どちらも縦長の構図を巧く使って、化けものと英雄をそれぞれクローズアップで描いている。髭のおじさんがどちらもカッコいい。
歌川芳艶『丹波国山中は数千年越し蜘蛛あまたの人なやますと聞源頼光四天王お召つれ遂にたいししたまふ図』は3枚組の中央を占める(左右の2枚にはみ出している)土蜘蛛の怪物感が半端ない。確か「新収作品」という注記が付いていたが、他館を含めて初見かどうかは不確実。四天王が蓆を編んだような籠に乗って谷底に吊り下ろされている様子は見た記憶がある。しかし背中に八ツ眼のような模様を持ち、大蛇を難なく抑え込んでいる土蜘蛛の迫力、爽快に感じるくらいにすごい。
本展は、長く語り継がれてきた日本の怨霊・妖怪の物語をあらためて確認する機会にもなった。その中で、私が再認識したもののひとつが、大森彦七(盛長)。南北朝時代、足方尊氏に与し、湊川の戦いにおいて南朝方の楠木正成を敗死させた後、正成の怨霊に遇う。伊予国の矢取川で川を渡してほしいと美女に頼まれ、背負って渡ろうとすると、川の中程で、怨霊の正体をあらわしたという。武将の怨霊(平将門、源義平、新田義興)って荒ぶるイメージが強いので、美女に化けるのは、かなり異質ではないかと思った。
将門といえば、芳年には戯画『東京開化狂画名所 神田明神 写真師の勉強』(明治14/1881年)がある。明治の東京に現れた平将門の写真撮影の図で、七人の影武者がいたという伝承に基づき、背後に7つの顔が浮かんでいるのだが、怒っているもの、あくびしているもの、妙ににこやかな顔もあって、かわいい。