見もの・読みもの日記

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伝統と革新の富士山/富士と桜(山種美術館)

2023-03-24 22:30:03 | 行ったもの(美術館・見仏)

山種美術館 特別展・世界遺産登録10周年記念『富士と桜-北斎の富士から土牛の桜まで-』(2023年3月11日~5月14日)

 富士山の世界遺産登録10周年という記念の年に、富士と桜という、日本の美が凝縮された優品の数々を展示する。ポスターになっているのが、北斎『冨嶽三十六景・凱風快晴』と奥村土牛の『醍醐』だし、伝統的な日本の美意識にのっとった作品が主だろうと勝手に思い込んで見に行った。そうしたら、意外と「そうでない」作品にも出会って衝撃を受けてしまった。

 前半は「富士山を描く」セクション。寺崎広業、平福百穂、安田靫彦など、おなじみの画家の名前が並ぶが、作品は「10年ぶり」「16年ぶり」などの注記が付いたものが多かった。特に「10年ぶり」が多かったのは、2014年に特別展・富士山世界文化遺産登録記念『富士と桜と春の花』が開催されているせいかもしれない。私はこの展覧会は見ていない(2014年は札幌に住んでいたときだ)。平福百穂の『富士と筑波』は屏風仕立てで、右隻に純白の大きな富士山、左隻に小柄な筑波山を並べる。筑波山は緑の地に目の細かい白いレースをかぶせたよう(高級なアイスクリームのようで美味しそう)。二つの峯の間が狭くて、私がつくば市住みのときに毎日見ていた山のかたちと違うのは、たぶん見ている方角が違うのだろうなと思った。伊東深水の『富士』は下がり松の枝越しに眺める富士山で、青と白のツートンカラーが鮮やか。深水の描く、ちょっとバタ臭い美人を連想させる。

 さて展示室の突き当りの壁に並んでいた4点が素晴らしかった。まず小松均(1902-1989)の2点。『富士山』はモノクロで、富士山のゴツゴツした山肌を執拗に描き込む。その隣りの『赤富士図』は夕焼け空を背景に赤と黒で描かれた富士山。灼熱の溶岩をまとった姿に見えなくもない。小松均は富士山に魅せられた画家のひとりで、富士山の麓の小屋に籠って『赤富士図』を描いたという。

 その隣りは、川崎春彦(1929-2018)の『赤富士』と『霽るる』。『赤富士』は、西洋画ふうの大きな縦長の画面で、青黒い雲海が渦巻く中に赤富士の鋭角な頭頂部が立ち上がっている。この陰鬱で禍々しい赤と青の対比は、中国ドラマ『三体』のビジュアルだ!と思い当たった(正確には、ちょっと色調が違う)。この作品(個人蔵、初公開)を見せてくれて、本当にありがとうございます。『霽(は)るる』は漢字を読めなかったのだが「晴れる」の意味なのかな? 暗い空と波立つ海、渦巻く雲の中に富士の影が浮かび上がる。これもなんとなく暗い情念を感じる作品。いや~(横山大観的な)めでたく神々しい富士山よりも、こっちのほうが断然好き。この展覧会、見に来てよかった。しかし川崎春彦(川崎小虎の息子なのか)をネットで検索してみると、ふわふわしたパステルカラーの富士の絵しか出てこないのも面白い。加藤東一(1916-1996)の『新雪富士』も好きだ。このひとの絵、もっと見たい。

 後半は「桜を描く」で、富士に比べると、おなじみの作品が多かったが、それはそれで良し。奥村土牛『醍醐』は何度見てもいい。毎年、見慣れた桜の木が花をつけるのを見るような安心感と喜びがある。ついでにいうと、展示室をほぼひとまわりしたところでこの作品に出会う、今年の展示位置が一番いいと思う。背中合わせに『吉野』が掛かっていたのも嬉しかった。

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