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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

肉筆浮世絵の美人たち/筆魂(すみだ北斎美術館)

2021-03-03 23:32:32 | 行ったもの(美術館・見仏)

すみだ北斎美術館 特別展『筆魂 線の引力・色の魔力-又兵衛から北斎・国芳まで-』(2021年2月9日〜4月4日)

 私が、久しぶりに東京東部の住人になったのが2017年の春。すみだ北斎美術館は、2016年11月に開館した新しい美術館である。一度行ってみようと思いながら、そんなに浮世絵好きでないもので、ずっと機会を逃していた。今回は、浮世絵の中でも肉筆画に重点を置き、浮世絵の先駆とされる岩佐又兵衛の作品も展示。菱川師宣、喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎、歌川国芳などの60人に及ぶ浮世絵師の肉筆画約125点を展観し、初公開作品も多数という、力の入った特別展なので、ようやく重い腰を上げて行ってみた。

 まず奇抜な美術館の外観に驚く。最近は、こういう建築が流行りなのだろうか。

 私が行ったのは前期で、又兵衛は『弄玉仙図(旧金谷屏風)』(摘水軒記念文化振興財団所蔵、寄託先の千葉市美術館でときどき見るもの)、『和漢故事説話図・浮舟』(福井県立美術館)『本間孫四郎遠矢図』(大谷美術館)を展示。最後の作品は初めて見たかもしれない。左端に描かれた馬上の武者(孫四郎)が、魚をつかんだ海鳥のミサゴを射落とす。飛矢によって、まさに片翼を引きちぎられたミサゴの姿態がストップモーションのよう。船の中で驚き呆れる武士たちの表情にも生き生きと躍動感があって面白い。

 作者不詳の『遊楽図』(個人蔵、菊や桔梗が目立つ)は、くねくねしたS字立ちのポーズ、男女とも切れ長の目が大きく、赤い唇のおちょぼ口で、無駄にセクシーな顔立ちをしている。『紅葉狩り図』(個人蔵)は武家の一行を描いており、笠をかぶった女性(?)を除く8人ほどはすべて男性だと思うが、やはり顔の描写が丁寧すぎる。髭の侍まで目がぱっちり。腐女子の需要があったのではないかと疑いたくなる雰囲気。

 そして数々の美人図。無背景に立ち姿の美人を単独で表したものは「寛文美人図」と呼ばれるが、寛文年間(1661-1673)を下り、18世紀初頭まで描き継がれている。師宣、懐月堂安度、宮川長春くらいは知っていたが、松野親信、梅翁軒永春、梅祐軒勝信、鳥居清春など、初めて聞く名前が多かった。これらの美人図、江戸中期以降の版画錦絵の、やや奇を衒い、画一化した美人画に比べると、驚くほど自然な女性の表情がとらえられている。一枚ものという特性から、万人受けを狙う必要がなく、画家が自分の好みの女性をのびのび描いていたのではないかと想像する。着物を強調した結果、身体に健康的なボリュームがあるのもよい。

 なお、川又常正『ほおずきを持つ美人』に「どこか切ないような、思い詰めたような」という解説が添えてあったが、ほおずきは堕胎薬だったことと関係していないだろうか。祇園井特の『美人図』2件が見られたり、烏山石燕の『関羽図』を見ることができたのも嬉しかった。

 18世紀末から19世紀、浮世絵美人画は格段の洗練を加える。目鼻立ちの小さいあっさり顔で、身体は棒のようにスラリとした、しかし体幹にちゃんと厚みのある、この時代の美人たち。歌麿の『夏姿美人図』好き! 黒地に絣模様の薄手の着物、草木模様の緑の帯がシックでおしゃれ。観雪斎月麿の『楊枝をくわえた美人』は後期出品で、図録で見つけた作品なのだが、コケティッシュな視線が魅力的で、浮世絵にこんな美人画があるのか!と衝撃だったので書き留めておく。鳥文斎栄之の『傾城図』も好き。

 幕末は、豊国、国芳、英泉など、私の知っている絵師が多くなる。満を持して、同館所蔵の北斎作品が登場。美人画以外にも、多様な肉筆画が展示されていて面白かった。やっぱり肉筆浮世絵はいいな、というのが今回の感想である。

 最後に常設展示室にも寄った。晩年の北斎と娘の阿栄の姿が再現展示されている。生き人形! ときどき、筆を持つ手が微妙に動いたりする。

 そして、墨田区には、生誕地である本所割下水をはじめ、北斎ゆかりの地が多数あることも知った(→ゆかりの地MAP)。やっぱり墨東は面白いな。

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