見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

ちょっとガッカリ/昭和女子大学図書館貴重書展

2009-06-14 22:58:42 | 行ったもの(美術館・見仏)
昭和女子大学光葉博物館 『昭和女子大学図書館貴重書展』(2009年5月15日~6月13日)

 宣伝用リーフレットを見たときは、これはチカラが入っているなあ、と感じた。A2版、4つ折り×両面の8ページにわたって、カラー図版満載である。絵巻、奈良絵本、有名作家の書簡、近代文学の初版本、等々。本音をいうと、奈良絵本程度では全く心が動かないのだが、洋物の素晴らしく美しい写本の写真がたくさん入っていたので、ああ、これは見たい!と思って出かけたのだ。

 そうしたら、洋書のうち、視覚的に美しいものは、全て複製本だった。ええ~。宣伝用リーフレットのつくりかたがズルいのである。4つ折りリーフを開いたところには、いかにも本物らしく、ため息の出るような手彩色写本の写真が何枚も載っていて「The Cantabury Tales(Ellesmere Manuscript)」とか「The Book of Durrow」という短い英文キャプションしかついていない。さらにもう1折り開いて、内側を覗き込むと「The Cantabury Talesのエルズミア写本(複製本)…などを展示するほか」云々と、小さく注記されている。

 これは詐欺だろう、と憤慨したが、『The Cantabury Tales(カンタベリー物語)』の最も美麗で信頼のおける伝本「エルズミア写本」は、米ロサンゼルスのハンティントン図書館(鉄道王ヘンリー・エドワード・ハンティントンが創設)が所蔵しているそうだ。また、『The Book of Durrow(ダロウの書)』はアイルランド様式の装飾写本で、ダブリンのトリニティカレッジ図書館が所蔵している。そもそも、このくらいのことは、常識として、知っておかなくちゃいけないことかもね。どこかの大学図書館が、源氏物語絵巻を展示すると言ったら、複製か摸本に決まっているわけで、怒りを収めて、洋書稀覯本に関する自分の知識不足を恥じ入った。

 気を取り直して、面白かったのは、日本の近代文学者の手稿・書簡いくつか。坪内逍遥の原稿(大正11年)はものすごい悪筆。伊東屋製の12行×25字という、不思議な原稿用紙を使っている。大正5年の夏、千葉一宮海岸に逗留していた芥川龍之介・久米正雄と、夏目漱石の往復書簡も興味深かった。漱石は、例の漱石山房の原稿用紙、芥川は松屋製の原稿用紙(十ノ廿 松屋製)を使っている。芥川は、時々「、」「。」を打たずに1字空白を残しているのが面白いと思った。

 旗本夫人の日記『井関隆子日記』に覚えがあったのは、野口武彦さんの本で読んだのではないかと思う(→asahi.com:書評)。子どものように、流派にとらわれない、生き生きと巧みな挿絵つきで楽しかった。
コメント
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