○東京国立博物館 特別展『大徳川展』
http://www.tnm.go.jp/
徳川将軍家300年の成り立ちから終焉まで、さらに尾張・紀伊・水戸の御三家を加え、ゆかりの宝物を一挙に紹介しようという「欲張り」企画である。戦国の美学から伝統の雅びまで、「何でもあり」に過ぎて、全てを楽しむには、よほど視野の広い興味が必要なのではないかと思われた。
冒頭を飾るのは、武家の頭領の誇り、武具・刀剣の数々。噂に聞く「南蛮胴具足」が見られて興味深かった。伝統的な小札(こざね)を用いず、一体型の鉄板で作られている。西洋の甲冑を仕立て直したと思われるもの(繊細な唐草文様の彫金あり)と、舶来品を真似て、日本で製作されたものとがある。
巨大な馬印や旗指物もカッコよかった。久能山伝来の『金扇馬印』は「家康所用」と伝えられているが、そうでなくても、幕末の長州征伐に用いられたというだけで感慨深い。紺地に赤の日の丸って、白地に赤よりも好きだ。慶長年間の火縄銃(清尭=きよたか=作)は、細身で銃身が長い。古い鉄砲は、歴博の展示で多数を見たが、もっとずんぐりしてなかったっけ? 短期間に長足の進歩を遂げたのだろうか。
第1室で大興奮した戦国マニアにとって、次の出版文化のセクションは、面白くない品ばかりだろうが、印刷物マニア(?)の私はそうはいかない。おお~伏見版に駿河版!とテンションが上がる。伏見版とは、家康の命により伏見の円光寺で開版された木活字版のこと。この円光寺は京都市左京区一乗寺に現存する、というのを読んで、あっと思った。数年前に友人に連れられて行ったことがある。紅葉の名所で、夜のライトアップも行っているところだ。
駿河版は、朝鮮に倣い、家康が10万個の銅活字を新鋳して印刷したもの。展示品の銅活字は、紀州徳川家に伝わり、南葵文庫→凸版印刷→印刷博物館の所有となったという。駿河版の『群書治要』が展示されていたが、南葵文庫(紀州徳川家)の蔵書印があるのに、現有者は蓬左文庫(尾張徳川家)となっていた。謎である。
家康遺品の中にあった日本最古の鉛筆にはびっくりした。家康って、薬剤の調合を試みてみたり、定家の「小倉山色紙」を臨模してみたり、好奇心旺盛な人物だと知った。徳川義直(尾張藩初代藩主)の望遠鏡、徳川斉昭(水戸家)の地球儀も興味深かった。徳川治宝(紀州家)は書も画も絶妙。多士済々である。
後半「格式の美」のセクションは、禅僧の墨蹟、茶道具から始まる。南宋画の『布袋図』(伝胡直夫筆)、元代の『朝陽図』『対月図』(無住子)は眼福。能面、鼓胴などを見ながら進むと、奥の特設コーナーに国宝『源氏物語絵巻』(徳川美術館)が来ている様子。現在の展示は「柏木」である。さぞかし混んでるんだろうなあ~と思いながら、スクリーンの裏を覗くと、意外と人がいないので、拍子抜けした。みんな、ここまで来る間に疲れてしまうようだ。それと、「徳川」に惹かれて来るような武将マニアは、平安の古絵巻なぞに興味はないのかもしれない。この優品が、こんなにゆっくり見られる展覧会は、滅多にないと思う。狙い目!
徳川美術館の『西行物語絵巻』は初見だろうか(もっと色鮮やかな別本は記憶にあるのだが)。出家前の西行(佐藤義清)が、幼い娘を縁側から蹴り落とす場面が心に残った。
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徳川将軍家300年の成り立ちから終焉まで、さらに尾張・紀伊・水戸の御三家を加え、ゆかりの宝物を一挙に紹介しようという「欲張り」企画である。戦国の美学から伝統の雅びまで、「何でもあり」に過ぎて、全てを楽しむには、よほど視野の広い興味が必要なのではないかと思われた。
冒頭を飾るのは、武家の頭領の誇り、武具・刀剣の数々。噂に聞く「南蛮胴具足」が見られて興味深かった。伝統的な小札(こざね)を用いず、一体型の鉄板で作られている。西洋の甲冑を仕立て直したと思われるもの(繊細な唐草文様の彫金あり)と、舶来品を真似て、日本で製作されたものとがある。
巨大な馬印や旗指物もカッコよかった。久能山伝来の『金扇馬印』は「家康所用」と伝えられているが、そうでなくても、幕末の長州征伐に用いられたというだけで感慨深い。紺地に赤の日の丸って、白地に赤よりも好きだ。慶長年間の火縄銃(清尭=きよたか=作)は、細身で銃身が長い。古い鉄砲は、歴博の展示で多数を見たが、もっとずんぐりしてなかったっけ? 短期間に長足の進歩を遂げたのだろうか。
第1室で大興奮した戦国マニアにとって、次の出版文化のセクションは、面白くない品ばかりだろうが、印刷物マニア(?)の私はそうはいかない。おお~伏見版に駿河版!とテンションが上がる。伏見版とは、家康の命により伏見の円光寺で開版された木活字版のこと。この円光寺は京都市左京区一乗寺に現存する、というのを読んで、あっと思った。数年前に友人に連れられて行ったことがある。紅葉の名所で、夜のライトアップも行っているところだ。
駿河版は、朝鮮に倣い、家康が10万個の銅活字を新鋳して印刷したもの。展示品の銅活字は、紀州徳川家に伝わり、南葵文庫→凸版印刷→印刷博物館の所有となったという。駿河版の『群書治要』が展示されていたが、南葵文庫(紀州徳川家)の蔵書印があるのに、現有者は蓬左文庫(尾張徳川家)となっていた。謎である。
家康遺品の中にあった日本最古の鉛筆にはびっくりした。家康って、薬剤の調合を試みてみたり、定家の「小倉山色紙」を臨模してみたり、好奇心旺盛な人物だと知った。徳川義直(尾張藩初代藩主)の望遠鏡、徳川斉昭(水戸家)の地球儀も興味深かった。徳川治宝(紀州家)は書も画も絶妙。多士済々である。
後半「格式の美」のセクションは、禅僧の墨蹟、茶道具から始まる。南宋画の『布袋図』(伝胡直夫筆)、元代の『朝陽図』『対月図』(無住子)は眼福。能面、鼓胴などを見ながら進むと、奥の特設コーナーに国宝『源氏物語絵巻』(徳川美術館)が来ている様子。現在の展示は「柏木」である。さぞかし混んでるんだろうなあ~と思いながら、スクリーンの裏を覗くと、意外と人がいないので、拍子抜けした。みんな、ここまで来る間に疲れてしまうようだ。それと、「徳川」に惹かれて来るような武将マニアは、平安の古絵巻なぞに興味はないのかもしれない。この優品が、こんなにゆっくり見られる展覧会は、滅多にないと思う。狙い目!
徳川美術館の『西行物語絵巻』は初見だろうか(もっと色鮮やかな別本は記憶にあるのだが)。出家前の西行(佐藤義清)が、幼い娘を縁側から蹴り落とす場面が心に残った。