見もの・読みもの日記

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悠久の美・中国考古文物の名品/東京国立博物館

2007-01-14 22:02:11 | 行ったもの(美術館・見仏)
○東京国立博物館 特別展『悠久の美-中国国家博物館名品展』

http://www.tnm.jp/jp/

 今年の「行ったもの」は、何からスタートしようか。ちょっと考えたけれど、やっぱり、いちばんお世話になるだろう、上野の東博から始めることにした。新春の特別展は、中国国家博物館の名品展である。北京の天安門広場にある中国国家博物館には、4、5年前に行ったことがある。幅広い地域と時代の名品を揃えた博物館だった。半日かけて見学して、お昼は地下の食堂で北京名物ジャージャー麺を食べたっけ。

 今回の名品展は、最初が「新石器時代(前1万年頃~前2000年頃)」と題されたセクションで、陶器や玉器などの考古文物が並んでいる。それから、ようやく「歴史時代」に入って、商(殷)、周、春秋、戦国と続く。このへんまでは、確かに高度な技術に感心はするけれど、どうしてこんなもの作ったんだか、現代人には理解不能の「あやしい」(呪術的な)名品が多い。

 山東省出土の鉞(エツ・まさかり)は、罪人の首を切る斧の歯の部分だが、そこに歯をむき出した人物の顔がデザインされている。目尻の上がったドングリ眼、四角い顎、耳のつきかたなど、ああ、中国人の顔だなあ、と思ってしまった。

 秦・漢時代に入ると、写実的な武士俑や騎兵俑が登場して、現代人の美的感覚に親しくなる。四川省出土の説唱俑は、太鼓を叩き、大きく手足を振り上げながら、歌い踊っているさまを表す。ふと、額に刻まれた深い皺が目に入った。やっぱり、中国でも、歌語り(説唱)は老齢者の役割だったのかしら。芸能の誕生を論じた、折口信夫の「翁の発生」を思い出して、興味深く思った。

 次は「西南中国の滇文化」というセクションで、私は「おお!」と軽く興奮した。滇(てん)は、紀元前3世紀に、中国西南の雲南省にあった辺境国である。一般的な中国史では無視されるのが普通なのに、わざわざセクションを設けてくれたことは、雲南省びいきの私としては、とても嬉しい。滇国は、福岡県志賀島で発見された「漢委奴国王」の金印によく似た「滇王之印」が出土していることで有名である。この金印、雲南省の博物館で見た記憶があるが、北京の国家博物館が本物を所蔵しているのだとすれば、あれはレプリカだったんだなー。

 雲南省出土の「祭祀場面貯貝器」は、本展の白眉だと思う。直径40センチくらいの青銅器の、平たいフタの上に、さまざまな姿態を示すミニチュアの人物が120人余り、載っている。高床・屋根つきの小屋の中では、向き合って座った人々によって、厳粛な祭祀が執り行われている様子。外の広場では、牛や豚の解体と料理、飼育された猛獣の見世物、さらには石碑に磔にされた男もいる。そのほかにも、物乞い?物売り?夫婦喧嘩?洗濯しながらお喋り?押しくらまんじゅう?などなど、見ていると飽きない。私がいちばん気になったのは、磔にされた男の隣、蛇の巻きついた石柱のようなものがあって、寝かされた人の姿が見えるんだけど、あれも中国の極刑のひとつ、石臼で挽かれる死刑執行の様子じゃないのかなあ...。

 最後は「三国時代~五代」。隋唐(6~8世紀)に至ると、もうすっかり文化の爛熟が感じられる。陝西省西安市の李静訓墓は、9歳で亡くなった貴族の娘の墓だそうだ。金に細かな真珠と宝玉をあしらった首飾り(9歳の女の子の首には重すぎないかしら)や、透きとおるような白玉に金の縁取りをつけた杯が出土している。ほんとに長いなあ、中国の歴史。
コメント
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