○石坂浩一ほか『東アジア、交錯するナショナリズム』 社会評論社 2005.9
東アジアを騒がすナショナリズム現象について、それぞれの地域の専門家が論じたもの。韓国(石坂浩一)、中国(塩沢英一)、香港・台湾(和仁廉夫)、そして日本(小倉利丸)が取り上げられている。
各章は、特別、長いものではない。それでも、日々、マスコミによって伝えられる情報が、いかに断片的で、当該国の政治的背景や歴史的文脈に無知であるか、また、日本の政治家や”識者”の反応が、いかに短絡的で独断的かを反省するには、十分な材料である。
中国と韓国は、しばらく措こう。個別に論じられることの少ない、香港のレポートは興味深かった。2005年春、中国各地で激しい反日デモが行われたと同時に、香港でも、1万人を超える(主催者発表)大規模な反日デモが行われた。しかし、暴力的な行為は発生せず、日本資本のデパートや飲食店は、いつもどおりの営業を続けた。筆者は、そこに、反英→抗日→祖国中国に対する民主化闘争と、相手を変えながら継続してきた、香港の民衆運動の成熟を見て取る。
それから、台湾について。近年、「台湾人意識」が高揚していることは事実だが、それは「台湾独立」志向とイコールではない。日本で通用している、「台湾人は親日家でみな独立を望んでいる」という「おめでたい俗説」(筆者)は、きわめて根拠薄弱なものである。
そうだろう。私は初めて台湾に行ったとき、故宮博物院で、小学生の一団を見た。引率者は、彼らを床に座らせて、長い中国の歴史について、熱心に説明していた。台湾の人々が、中華民族の誇りを持って生きているということを、深く印象づけられた光景だった。
台湾という国は、既に十分な民主化が達成されたように思っていたけれど、まだまだ違法な選挙賭博の横行など、政治の暗部があるらしい。保守派の国民党に対して、陳水扁総統の民進党は、日本では、リベラルな都市型政党のように思われているが、実際は、中南部の農村や労働者を基盤とし、利益誘導によって得票を伸ばしてきたのだという。こんな内政事情、全く知らなかった。
また、日本人には受けのいい李登輝氏だが、もはや台湾政界における存在感はないという。台湾篇の最後は、「棄てられる李登輝」という衝撃的なタイトルで結ばれている。2007年末の立法委員選挙(小選挙区制で行われる!)に注目である。
香港・台湾の執筆を担当した和仁廉夫さんは、巻末の「紹介」によれば、「現在は中国の『美女経済』を追跡中」だそうだ。早く読みたい。
東アジアを騒がすナショナリズム現象について、それぞれの地域の専門家が論じたもの。韓国(石坂浩一)、中国(塩沢英一)、香港・台湾(和仁廉夫)、そして日本(小倉利丸)が取り上げられている。
各章は、特別、長いものではない。それでも、日々、マスコミによって伝えられる情報が、いかに断片的で、当該国の政治的背景や歴史的文脈に無知であるか、また、日本の政治家や”識者”の反応が、いかに短絡的で独断的かを反省するには、十分な材料である。
中国と韓国は、しばらく措こう。個別に論じられることの少ない、香港のレポートは興味深かった。2005年春、中国各地で激しい反日デモが行われたと同時に、香港でも、1万人を超える(主催者発表)大規模な反日デモが行われた。しかし、暴力的な行為は発生せず、日本資本のデパートや飲食店は、いつもどおりの営業を続けた。筆者は、そこに、反英→抗日→祖国中国に対する民主化闘争と、相手を変えながら継続してきた、香港の民衆運動の成熟を見て取る。
それから、台湾について。近年、「台湾人意識」が高揚していることは事実だが、それは「台湾独立」志向とイコールではない。日本で通用している、「台湾人は親日家でみな独立を望んでいる」という「おめでたい俗説」(筆者)は、きわめて根拠薄弱なものである。
そうだろう。私は初めて台湾に行ったとき、故宮博物院で、小学生の一団を見た。引率者は、彼らを床に座らせて、長い中国の歴史について、熱心に説明していた。台湾の人々が、中華民族の誇りを持って生きているということを、深く印象づけられた光景だった。
台湾という国は、既に十分な民主化が達成されたように思っていたけれど、まだまだ違法な選挙賭博の横行など、政治の暗部があるらしい。保守派の国民党に対して、陳水扁総統の民進党は、日本では、リベラルな都市型政党のように思われているが、実際は、中南部の農村や労働者を基盤とし、利益誘導によって得票を伸ばしてきたのだという。こんな内政事情、全く知らなかった。
また、日本人には受けのいい李登輝氏だが、もはや台湾政界における存在感はないという。台湾篇の最後は、「棄てられる李登輝」という衝撃的なタイトルで結ばれている。2007年末の立法委員選挙(小選挙区制で行われる!)に注目である。
香港・台湾の執筆を担当した和仁廉夫さんは、巻末の「紹介」によれば、「現在は中国の『美女経済』を追跡中」だそうだ。早く読みたい。