見もの・読みもの日記

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おじさんたちの放談/言論統制列島

2005-07-15 23:34:59 | 読んだもの(書籍)
○鈴木邦男、森達也、斎藤貴男『言論統制列島:誰もいわなかった右翼と左翼』講談社 2005.6

 斎藤貴男は高橋哲哉との対談本を、森達也は姜尚中との対談本を読んだことがある。私の整理では、2人とも、どっちかといえば「サヨク」の側の発言者である。鈴木邦男は、むかし、雑誌「SPA!」を読んでいた頃に名前を覚えた。あまり印象に残る発言を記憶していないが、右翼を名乗っているはずだ。というわけで、立場の異なる3人の鼎談本。ちょっと面白そうだと思って買ってしまった。

 あとがきで、鈴木邦男は「よく思い切ってこれだけのことを言ったもんだ」と自画自賛し、「どうせ編集が危ない発言を削るのだろうと思っていたら、そのままなので驚いた」という趣旨のことを語っている。しかし、私は本書を、それほどのものとは感じなかった。

 飲み屋でクダをまいているおじさんみたいな(この比喩は、高橋哲哉と斎藤貴男の対談本にも使った)暴言、放言はあるけど、別に目新しくないし、面白くもない。「よく思い切って」とは、「こんな中流以下に生まれたら最後、どうせ兵隊か慰安婦にしかされっこない世の中」(斎藤発言)とか「北朝鮮みたいな独裁者国家のほうが、支配されているという自覚があるだけまし」(森発言)などの発言を指しているらしいが、鈴木さん、ナイーブだなあ。いまどき、こんな発言、誰も驚かないのに。

 まあ、それでも、いまの社会の息苦しさの根底には「何がなんでも二項対立」という風潮があり、ジャーナリズムがそれを煽っているという指摘は、私の実感に合致している。これに対して、森達也が、子供の頃に読んだ『泣いた赤鬼』の衝撃を語って、むかしの童話や漫画には「この世は単純な善悪では割り切れない」ということを教えてくれるものが多かった、という発言は感銘深かった。いまの小中学生には、中途半端なディベートを教えるより、『泣いた赤鬼』や『ごんぎつね』の深い意味を噛み締めさせるほうが先じゃないか。

 むしろ面白いと思ったのは、3人が自分の半生を具体的に語った部分である。鈴木邦男でいえば、生長の家と産経の反共的親和性とか、産経新聞の大リストラとか。森達也の父親は、バリバリの左翼活動家から一転して海上保安庁に入ったとか。それぞれの個人史に、日本の戦後史の一断面が照射されていて面白い。

 そのほか、昭和16年に「独身税」法案が閣議決定されているとか、イラクに派遣されている自衛隊員の特別手当が1人1日2万円であるとか、未確認だが、気になる情報が、散見する。

コメント
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