見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

被虜と漂流人/中世日朝海域史の研究

2005-07-07 23:44:57 | 読んだもの(書籍)
○関周一『中世日朝海域史の研究』 吉川弘文館 2002.10

 14世紀後半~16世紀後半にかけての東アジア海域における、主に日朝間の交流の変化を論じたもの。著者が2001年に筑波大学に提出した同名の博士論文に加筆訂正したものである。もとが学術論文であるだけに、史料に即した豊富な実例をあげ、堅実に論を進めている。大胆な推論や大雑把な要約がないので、素人が愉しみに読むには、ちょっとしんどいところがある。

 14世紀後半、同海域では倭寇が活発に活動し、中国・朝鮮人の略奪が頻繁に行われた。被虜人は筑前の博多や対馬で商品として転売され、奴隷として使役された。こう聞くと、前近代的で非人道的な話だと思って眉をひそめたくなるが、日本の公権力や地域権力は、しばしば、被虜人を解放し、送還することによって、明や朝鮮王朝に回賜品を求め、通交関係の契機を得ようとした。漂流人の送還にも同様の意味がある。中世人には中世人の倫理と世界システムがあったのである。

 また、「中世」とひとことで言っても、両国の政治事情(地域権力と中央権力、または地域権力どうしのバランス)によって、交流のありようは、さまざまに変化しているということを、実感した。

 明や朝鮮王朝が、冊封・朝貢体制や海禁政策によって、周辺海域に一定の外交秩序をつくろうと志向していたのに対し、(義満の一時期を除く)室町幕府の政策は、基本的に地域勢力の活動を黙認していた点で「むしろ東南アジアの港市国家との類似性を指摘できる」というのは、面白い見解だと思った(著者の独創ではない)。

 実は、先日のれきはくの展示『東アジア中世海道―海商・港・沈没船―』で、すっかりファンになってしまったギャラリートークの先生が著者なのである(たぶん)。まだ単行書の著作はこれ1冊らしいが、いい研究者になって、やがては我々素人が歴史を楽しめる本を書いてくれるよう、応援して見守り続けたいと思う。ちょっと勝手にパトロン気分。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする