「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

読書コーナー~「やっと読み終えた本」~

2010年07月01日 | 読書コーナー

最近、どうも根気が失くなってきた。

たとえば本を読むときでも1冊を読み始めると、お終いまで読み通さずに、読みかけのまま中断して、ほかの本にも目移りして読みかけ、そしてまたまたほかの本にも目移りしていく。

今でもまさに進行中でこうやって溜まっていく読みかけの本が何冊もある。いずれも図書館から借りてきた本なので返却期限が目前にせまってくると、もう音楽どころではなくなる。

こうした同時並行的な形で、最近
「やっと読み終えた本」をいくつか紹介してみよう。(画像の上をクリックすると拡大できます)。

            

○「ロシア春のソナタ秋のワルツ」(2010.5.10 新評論社刊)

著者の「足立紀子」さんはロシア演劇研究家、通訳、翻訳家。早大文学研究科院卒。

度々ロシアを訪問され、演劇関係者との親密な交流を事細かに綴られていて、まるで肌身でロシアの人々に直接触れるような読後感を覚えた。

彼女がなぜこれほどまでに情熱的にロシアに入れ込むのか、読み進むにつれて段々と分かってくるような気がするから不思議。とにかく包容力があって文学好きのロシア人を髣髴とさせるエピソードが沢山。

無論、その背景にはドストエフスキー、トルストイなどの文学史上でも傑出した作家を輩出した栄光の歴史があるのは言うまでもない。

「はじめに」のところでこういう逸話があった。

「面白いことに、最後のロシア皇帝ニコライ二世以来ずっと続いているロシア国家元首の「髪ふさふさ、禿げ」交代説はいまだに崩れていない。

つまり、ニコライ二世は髪ふさふさ、レーニンは禿げ、スターリンは髪ふさふさ、フルシチョフは禿げ、ブレジネフは髪ふさふさ、アンドローポフは禿げ、チェルネンコは髪ふさふさ、ゴルバチョフは禿げ、エリツィンは髪ふさふさ、プーチンは禿げ、そしてメドベージェフは髪がふさふさだ」。

こんなに長く交代が続いているのも珍しい話だ。だからロシアはペレストロイカやソ連邦崩壊を経て変わったといっても、本質的には変わっていないところが沢山あるのかもしれない。」

これからもお分かりのとおり、著者のロシアを見つめる視点が実に柔軟で、幅が広いところが本書の一番の魅力。

○ 「国家の自縛」(2010.4.10、扶桑者刊)

著者の「佐藤 優」氏は元外務官僚。ロシア通として活躍された方。平成14年に「偽計業務妨害容疑」で逮捕され東京拘置所で512日間勾留され、この間の事情を綴った「国家の罠」は随分と新鮮だった。たしか夜更けまで一気に読んだ記憶がある。

この「国家の自縛」は「斉藤 勉」氏(産経新聞常務)との対談形式で進められていく。国策捜査、対ロシア外交、キリスト教などのテーマが縦横無尽に繰り広げられる。いわゆる「佐藤優の自白調書」だそうだ。

しかし、歯に衣を着せずに言わせてもらえれば、万事「我田引水」というか、物事をすべて自分の都合の良いように解釈していくところが段々と鼻についてくる。デビュー作「国家の罠」にはまだ謙虚さが残っていた。

自分と敵対する、あるいは肌が合わない人物や事柄はすべて「悪」扱いするのもどうかと思うし、もっと自我を超越した公平な「ものの見方」が出来ないものだろうか、なんて思ってしまう。

それにこの人、やたらに理屈っぽいが芸術的な話が一切出てこないのも何だか人間性が無味乾燥みたいで淋しい。いわゆる典型的な左脳人間。

ロシア通であれば、ショスタコーヴィッチ(作曲家)、ムラヴィンスキー(指揮者)、オイストラフ(ヴァイオリニスト)などの話がちょっとでも出てくると、幅ができて随分と彩が豊かになるように思うのだが。

○ 「神苦楽島(かぐらじま)」上巻、下巻(文藝春秋社刊)

超人気の「浅見光彦」シリーズで知られる内田康夫(作家)さんの最新作。県立図書館で予約していたところ、ぶらりと立ち寄った市立図書館で発見して借りたもの。

待望の新作とあって、喜び勇んで読み進んだがこれが一向に面白くない。

同シリーズはお気に入りで、もう既に軽く100冊以上読破したが、いずれも100点満点で70点以上と当たりハズレがないのが魅力だが、どうやら本作は珍しく大ハズレで60点以下。

まず高齢による筆致の衰えを心配したが、巻末によると本書は「週刊文春」の連載モノだったことが判明。ダラダラと盛り上がりのない展開がそれで分かった!

内田さんは「書き下ろし」と「連載モノ」ではまるっきり質が違う。

前者の方が圧倒的に面白いのはこれまでの読書経験で分かっている。次の作品に期待しよう。

○ 「これからの正義の話をしよう」(マイケル・サンデル著)

実に読み応えのある、稀に見る本だった。「全米ベストセラー」の翻訳だが巻末にこうある。

著者のマイケル・サンデル氏はハーバード大学教授。たぐい稀なる講義の名手として知られ、ハーバード大学の学部科目「Justice(正義)」は、延べ14,000人を超す履修者数を記録。

あまりの人気ぶりに同大は建学以来初めて講義を一般公開した。その模様は「PBS]で放送された。

日本ではNHK教育テレビで「ハーバード白熱教室」(全12回)として放映されている。

以上だが、実を言うと、番組の評判を聞きつけ教育テレビを見始めたが”時すでに遅し”、11回と12回だけ観てチョン。最終放映日は6月20日(日)だった。(再放送があるのかな?)

ただし、世界最高レベルの大学の講義とは「こんなに難しいものか」と、自分の知的レベルにガッカリしたのも偽らざる実感。(ただし、吹き替えの翻訳度にも問題があるような気もする!)

受講生からの意見、あるいは受講生同士の「ディベート」を積極的に活用して講義が進められるが、なにぶん、その選ばれたテーマが凄い。哲学、倫理の問題を机上の空論にしないものばかり。

たとえば「1人を殺せば5人が助かる状況があったとしたら、あなたはその一人を殺すべきか」「前の世代が犯した過ちについて、私たちに償いの義務はあるのだろうか」など。

「正解がない!」にもかかわらず決断をせまられる差し迫った問題が次々に取り上げられていく。本書の中でも豊富な実例が沢山出てきて、
「はて、自分ならどうすべきか?」と考えさせられることばかり。(講義よりも本のほうが分かりやすかった)。


こういうときの判断の拠りどころとなるのがサンデル教授が唱える
「Justice(正義)、正しい行いとは何か?」だろう。

善と悪の道徳が入り乱れる社会の中で何らかの指針を求める学生たちにとって、この講義がハーバード大学史上空前の履修者数を記録し続けるのも分かるような気がする。

現代の人間共通の(行動規範の)キーワードは、まさしく「Justice」なのかもしれない。

アメリカのエリート層はこういう教育を受けていることを知るだけでも参考になると思う。


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