毎日新聞 2015年11月12日 東京夕刊
発信力の高い音楽紹介者であるピーター・バラカンが仕切る音楽フェスティバルが、“Peter Barakan’s LIVE MAGIC! 2015”だ。昨年に続き、2回目が開催された。
その2日目となる10月25日には、ルーツ音楽を清新に編み込む米国人女性3人組のアイム・ウィズ・ハー、豪州アボリジニのシンガー/ギタリストのグルムル、モンゴルの新旧音楽をつなぐデリヒ、アイヌの伝承歌“ウポポ”の再生を求める女性4人のマレウレウ、細野晴臣や鈴木茂らのTINPAN他が、7時間にわたり大小三つのステージに登場した。
ルーツミュージックとつながる意志を強く持つ音楽家。テクノロジーに頼らない、手作り感覚や土臭い感覚を前に出した人たち。一つのジャンルにとらわれずに、しなやかに音楽の枠をまたがるような作り手。国籍や抱える文化が見事に散る出演者たちの共通点をあげるなら、そうなるだろうか。
それらさまざまな出自を持つ出演者のなか、特に大きな感銘を与えたのが、この日のトリとして出演した20代前半のキューバ人歌手であるダイメ・アロセナだった。ジャズとラテン音楽を大胆に俯瞰(ふかん)しながら、スピリチュアルかつ鋭敏な現代感覚でくくったようなスケールの大きな表現は、未知の素晴らしい音楽家が世界各地にいる事実を痛感させる。そして、圧倒的な歌唱力に支えられた荘厳とも言える彼女の実演は、門外漢の聴き手にも強い印象を残したに違いない。そこには、音楽の力とマジックがあった。
ヒットチャートの序列や、音楽ジャンルという縦切りの骨組みでは語ることのできない、作り手の素顔が見える大衆音楽の数々。それらは一握りの好奇心や知識があると、より魅力的に聞こえる表現でもある。確かな審美眼のもと、そうした音楽の担い手を紹介するこの音楽フェスティバルは、まだまだなくならないポップミュージックの希望もあらわにしていたと確信する。恵比寿ザ・ガーデンホール/ザ・ガーデンルーム。(音楽評論家・佐藤英輔)
http://mainichi.jp/shimen/news/20151112dde012070022000c.html
発信力の高い音楽紹介者であるピーター・バラカンが仕切る音楽フェスティバルが、“Peter Barakan’s LIVE MAGIC! 2015”だ。昨年に続き、2回目が開催された。
その2日目となる10月25日には、ルーツ音楽を清新に編み込む米国人女性3人組のアイム・ウィズ・ハー、豪州アボリジニのシンガー/ギタリストのグルムル、モンゴルの新旧音楽をつなぐデリヒ、アイヌの伝承歌“ウポポ”の再生を求める女性4人のマレウレウ、細野晴臣や鈴木茂らのTINPAN他が、7時間にわたり大小三つのステージに登場した。
ルーツミュージックとつながる意志を強く持つ音楽家。テクノロジーに頼らない、手作り感覚や土臭い感覚を前に出した人たち。一つのジャンルにとらわれずに、しなやかに音楽の枠をまたがるような作り手。国籍や抱える文化が見事に散る出演者たちの共通点をあげるなら、そうなるだろうか。
それらさまざまな出自を持つ出演者のなか、特に大きな感銘を与えたのが、この日のトリとして出演した20代前半のキューバ人歌手であるダイメ・アロセナだった。ジャズとラテン音楽を大胆に俯瞰(ふかん)しながら、スピリチュアルかつ鋭敏な現代感覚でくくったようなスケールの大きな表現は、未知の素晴らしい音楽家が世界各地にいる事実を痛感させる。そして、圧倒的な歌唱力に支えられた荘厳とも言える彼女の実演は、門外漢の聴き手にも強い印象を残したに違いない。そこには、音楽の力とマジックがあった。
ヒットチャートの序列や、音楽ジャンルという縦切りの骨組みでは語ることのできない、作り手の素顔が見える大衆音楽の数々。それらは一握りの好奇心や知識があると、より魅力的に聞こえる表現でもある。確かな審美眼のもと、そうした音楽の担い手を紹介するこの音楽フェスティバルは、まだまだなくならないポップミュージックの希望もあらわにしていたと確信する。恵比寿ザ・ガーデンホール/ザ・ガーデンルーム。(音楽評論家・佐藤英輔)
http://mainichi.jp/shimen/news/20151112dde012070022000c.html