newsphere Jun 17 2021
ブハリ大統領|Mary Altaffer / AP Photo
ナイジェリアは国内でツイッターを禁止することを発表した。直前には、ムハンマド・ブハリ(Muhammadu Buhari)大統領のいくつかのツイートが削除されていたという経緯があるが、ナイジェリア政府は以前からソーシャルメディアの規制を目論んでいたようだ。ツイッターは、これまでボコ・ハラムによる少女誘拐への抗議や警察の暴力反対などに関するムーブメントの展開に寄与してきた。ツイッター禁止の経緯とその影響とは。
◆ツイッター禁止の経緯
ナイジェリア連邦政府は4日、ナイジェリアにおけるツイッターの運用を無期限で停止すると発表した。情報文化省のウェブサイトによると、「ナイジェリアの安定的な存在・存続を脅かすような活動(activities that are capable of undermining Nigeria’s corporate existence)」にツイッターが継続的に利用されていることを理由に、ライ・モハメド情報文化相が停止を発表したとのことだ。この発表以前に、ツイッター社はブハリ大統領のツイートがツイッターの規約に違反していると判断し、問題のあるツイートを削除するとともに、アカウントを12時間使用停止(閲覧のみ)としていた。問題のツイートは、ナイジェリア南東部のビアフラ先住民族(Indigenous People of Biafra:IPOB)と呼ばれる分離独立派グループが政府関連施設に攻撃を仕掛けたとし、そのグループに報復すると脅迫するような内容が含まれた。さらに、1967-70年のビアフラ戦争(ナイジェリア内戦)に関連付けて、新たな内戦の開始を示唆するような内容のツイートが、多くのナイジェリア人の反発を買った(テッククランチ)。
禁止の発表後、テレコム・ネットワークを通じてツイッターの使用が遮断された。BBCによると、ナイジェリア政府は、ツイッター禁止(一時停止)はツイッター社によるブハリ大統領アカウントへの対応だけが理由ではないとし、SNSが誤情報やフェイクニュースを拡散させ、オフライン上での暴力をもたらしていると説明した。モハメド情報文化相は、BBCのラジオインタビューで、ツイッターはナイジェリアに不安定な情勢をもたらしているとした。さらに、違反を犯したものは、だれでも起訴されうると述べた。現在ほかにツイッターが禁止されている国は、中国、北朝鮮、イランなどだ。ナイジェリア政府はツイッター禁止後、ツイッターの類似プラットフォームであるインド発のKooにて、ナイジェリア政府オフィシャル・アカウントの運用を開始した。Kooもサービスのローカル化を早急にすすめるといったような姿勢をみせた。
◆ツイッター禁止の影響
人口2億人のナイジェリアにおけるツイッターのユーザー数は、約4000万人と推計されている。ツイッターは、とくに若者の間での政治社会運動、プロテストのプラットフォームとして活用されてきた。2014年にナイジェリアの女子生徒276名が、ナイジェリアのテロ組織ボコ・ハラムに誘拐された事件を受けて、解放を要求するムーブメントが#BringBackOurGirlsのハッシュタグとともに広く拡散された。また、2020年には、ナイジェリア警察の部隊SARS(対強盗特殊部隊、Special Anti-Robbery Squad)の不当な暴力に対する抗議の表明として、#ENDSARSのハッシュタグが広まった。ラゴス在住のBBC記者は、ナイジェリア政府は2015年ごろからSNSに対する規制を検討していたと分析する。
政府の発表後、現地の主要なモバイル回線を通じたツイッター接続が遮断された。いくつかのWi-Fiネットワークなどでは接続できるケースもあるようだが、ナイジェリア人にとって携帯通信は主要なネットアクセス方法だ。ただし、VPN接続は可能。ツイッター遮断の発表を受けて、「VPN」の検索が急増した。アフリカニュースの週間デジタルマガジンThe Continentによると、ツイッター禁止後のVPNの利用は1409%増加した。VPN接続による不正なアクセスを政府がどこまで追跡・起訴できるかどうかは不明だが、ナイジェリア国内のユーザーにとっては無視できないリスクだ。さらに、ナイジェリアは国内のインターネット・アクセスの管理強化のために、中国サイバースペース管理局(Cyberspace Administration of China)に助言を仰いでいるとのこと。もし今後、中国の「グレート・ファイアーウォール」のような情報のブロッキング・システムが構築された場合、ナイジェリア国内の人々のインターネット・アクセスはさらに管理・規制される可能性がある。一方、ツイッター遮断が今後継続された場合、人々はWhatsAppやKooをいった代替プラットフォームへ移行するといった行動で、レジリエンスをみせる可能性も高い。
ツイッターの遮断は経済コストも伴う。ネットブロックは、ツイッター遮断のコストは1日あたり600万ドルだと試算する。影響はシャットダウンによる経済活動の鈍化といった直接的なものだけではない。デジタル・メディアを禁止するといった強行措置は、ナイジェリアが外国資本の流入を促すうえでの足かせともなる。規制が増えることで、投資家が退く可能性も高い。ツイッター社は4月中旬に自社のアフリカ拠点をガーナにかまえることを発表した。ナイジェリアは、アフリカ最大の経済であり、ガーナと比較してより大きな人口を抱えている。実際、ナイジェリアのツイッター・ユーザーだけで、ガーナの全人口を上回る。しかし、ツイッター社は、政府の規制が少なく、より優れた投資環境であると判断したガーナに拠点を設けることを決定した。
ナイジェリアのツイッター遮断については、ナイジェリアの政府関係者内でも意見が分かれているようだ。テック・ハブとして起業やイノベーションを推進したいラゴス州知事にとっては、遮断は必ずしも歓迎できる施策ではない。今後、政府によるさらなるSNS規制が進むか、それとも市民の発言の自由を守り、創造的なイノベーションが促進されるような状況となるか。ナイジェリア政府の今後の判断に注目したい。
https://newsphere.jp/politics/20210617-1/
ブハリ大統領|Mary Altaffer / AP Photo
ナイジェリアは国内でツイッターを禁止することを発表した。直前には、ムハンマド・ブハリ(Muhammadu Buhari)大統領のいくつかのツイートが削除されていたという経緯があるが、ナイジェリア政府は以前からソーシャルメディアの規制を目論んでいたようだ。ツイッターは、これまでボコ・ハラムによる少女誘拐への抗議や警察の暴力反対などに関するムーブメントの展開に寄与してきた。ツイッター禁止の経緯とその影響とは。
◆ツイッター禁止の経緯
ナイジェリア連邦政府は4日、ナイジェリアにおけるツイッターの運用を無期限で停止すると発表した。情報文化省のウェブサイトによると、「ナイジェリアの安定的な存在・存続を脅かすような活動(activities that are capable of undermining Nigeria’s corporate existence)」にツイッターが継続的に利用されていることを理由に、ライ・モハメド情報文化相が停止を発表したとのことだ。この発表以前に、ツイッター社はブハリ大統領のツイートがツイッターの規約に違反していると判断し、問題のあるツイートを削除するとともに、アカウントを12時間使用停止(閲覧のみ)としていた。問題のツイートは、ナイジェリア南東部のビアフラ先住民族(Indigenous People of Biafra:IPOB)と呼ばれる分離独立派グループが政府関連施設に攻撃を仕掛けたとし、そのグループに報復すると脅迫するような内容が含まれた。さらに、1967-70年のビアフラ戦争(ナイジェリア内戦)に関連付けて、新たな内戦の開始を示唆するような内容のツイートが、多くのナイジェリア人の反発を買った(テッククランチ)。
禁止の発表後、テレコム・ネットワークを通じてツイッターの使用が遮断された。BBCによると、ナイジェリア政府は、ツイッター禁止(一時停止)はツイッター社によるブハリ大統領アカウントへの対応だけが理由ではないとし、SNSが誤情報やフェイクニュースを拡散させ、オフライン上での暴力をもたらしていると説明した。モハメド情報文化相は、BBCのラジオインタビューで、ツイッターはナイジェリアに不安定な情勢をもたらしているとした。さらに、違反を犯したものは、だれでも起訴されうると述べた。現在ほかにツイッターが禁止されている国は、中国、北朝鮮、イランなどだ。ナイジェリア政府はツイッター禁止後、ツイッターの類似プラットフォームであるインド発のKooにて、ナイジェリア政府オフィシャル・アカウントの運用を開始した。Kooもサービスのローカル化を早急にすすめるといったような姿勢をみせた。
◆ツイッター禁止の影響
人口2億人のナイジェリアにおけるツイッターのユーザー数は、約4000万人と推計されている。ツイッターは、とくに若者の間での政治社会運動、プロテストのプラットフォームとして活用されてきた。2014年にナイジェリアの女子生徒276名が、ナイジェリアのテロ組織ボコ・ハラムに誘拐された事件を受けて、解放を要求するムーブメントが#BringBackOurGirlsのハッシュタグとともに広く拡散された。また、2020年には、ナイジェリア警察の部隊SARS(対強盗特殊部隊、Special Anti-Robbery Squad)の不当な暴力に対する抗議の表明として、#ENDSARSのハッシュタグが広まった。ラゴス在住のBBC記者は、ナイジェリア政府は2015年ごろからSNSに対する規制を検討していたと分析する。
政府の発表後、現地の主要なモバイル回線を通じたツイッター接続が遮断された。いくつかのWi-Fiネットワークなどでは接続できるケースもあるようだが、ナイジェリア人にとって携帯通信は主要なネットアクセス方法だ。ただし、VPN接続は可能。ツイッター遮断の発表を受けて、「VPN」の検索が急増した。アフリカニュースの週間デジタルマガジンThe Continentによると、ツイッター禁止後のVPNの利用は1409%増加した。VPN接続による不正なアクセスを政府がどこまで追跡・起訴できるかどうかは不明だが、ナイジェリア国内のユーザーにとっては無視できないリスクだ。さらに、ナイジェリアは国内のインターネット・アクセスの管理強化のために、中国サイバースペース管理局(Cyberspace Administration of China)に助言を仰いでいるとのこと。もし今後、中国の「グレート・ファイアーウォール」のような情報のブロッキング・システムが構築された場合、ナイジェリア国内の人々のインターネット・アクセスはさらに管理・規制される可能性がある。一方、ツイッター遮断が今後継続された場合、人々はWhatsAppやKooをいった代替プラットフォームへ移行するといった行動で、レジリエンスをみせる可能性も高い。
ツイッターの遮断は経済コストも伴う。ネットブロックは、ツイッター遮断のコストは1日あたり600万ドルだと試算する。影響はシャットダウンによる経済活動の鈍化といった直接的なものだけではない。デジタル・メディアを禁止するといった強行措置は、ナイジェリアが外国資本の流入を促すうえでの足かせともなる。規制が増えることで、投資家が退く可能性も高い。ツイッター社は4月中旬に自社のアフリカ拠点をガーナにかまえることを発表した。ナイジェリアは、アフリカ最大の経済であり、ガーナと比較してより大きな人口を抱えている。実際、ナイジェリアのツイッター・ユーザーだけで、ガーナの全人口を上回る。しかし、ツイッター社は、政府の規制が少なく、より優れた投資環境であると判断したガーナに拠点を設けることを決定した。
ナイジェリアのツイッター遮断については、ナイジェリアの政府関係者内でも意見が分かれているようだ。テック・ハブとして起業やイノベーションを推進したいラゴス州知事にとっては、遮断は必ずしも歓迎できる施策ではない。今後、政府によるさらなるSNS規制が進むか、それとも市民の発言の自由を守り、創造的なイノベーションが促進されるような状況となるか。ナイジェリア政府の今後の判断に注目したい。
https://newsphere.jp/politics/20210617-1/