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札幌アイヌ協会激震「公費私物化疑惑」を現職理事が集団告発

2020-09-01 | アイヌ民族関連
ニュースポストセブン 8/31(月) 16:05配信
 昨年4月にアイヌ新法が成立したことをきっかけに、アイヌ文化復興の機運が高まっている。ところが、その中核的役割を担う団体「札幌アイヌ協会」で、思わぬ疑惑が持ち上がった。幹部による不透明なカネの流れを、複数の理事が実名で告発する異例の事態になっている。【取材・文/本田信一郎(ジャーナリスト)と本誌取材班】
委託先に「メノコモシモシ」の名が
 7月12日、北海道白老町のポロト湖畔に「ウポポイ」という愛称の国立施設がオープンした。正式名称は「民族共生象徴空間」。アイヌ民族博物館、民族共生公園、慰霊施設の3つからなり、ホームページによれば〈アイヌ文化の復興・発展のための拠点〉と位置づけられている。
 開業前日の記念式典には菅義偉官房長官や北海道の鈴木直道知事も出席。同日、菅官房長官が道内で講演し、「新型コロナは東京問題」と発言したことは記憶に新しい。
 ウポポイは、政府のアイヌ政策推進会議座長を務める菅官房長官の“肝いり”といわれ、開業までに実に約200億円もの公費が投じられた。
 昨年のアイヌ新法(*)成立を機にアイヌ文化復興を目指す動きが活発になっている。
【*正式名称は「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」。法律上初めてアイヌ民族を「先住民族」と明記し、アイヌ文化の振興・啓発に活用できる交付金制度が導入された】
 ところが、そうした活動の中心となるアイヌ関連団体の内部で“公費の不透明な流れ”が問題視されていた──。
 騒動の舞台は、札幌アイヌ協会。公益社団法人・北海道アイヌ協会(会員数約3200人)の「札幌支部」にあたる。北海道アイヌ協会の50の地方協会の中でも、札幌アイヌ協会は最大の会員数(約220人)を擁する中核団体だ。
 札幌アイヌ協会の会長を10年以上務める阿部一司氏(アイヌ名・ユポ)と、その実妹で副会長を務める多原良子氏に対し、同協会の理事の過半数が真相解明のための理事会開催を求める事態となったのだ。
 発端は、今年2月に行なわれた「第71回さっぽろ雪まつり」だった。札幌市は雪まつりのアイヌ関連事業として、〈アイヌ文化魅力発信イベント〉〈アイヌ文化PRイベント〉の名目で、計7965万6500円の予算を計上していた。
 札幌市は同事業を受託した株式会社北海道博報堂に「(再委託先の)札幌アイヌ協会と調整して(事業を)進めるよう指示」(市民文化局市民生活部)したという。
 ところが、本誌が関係者から入手した北海道博報堂の「再委託申出書」には、札幌アイヌ協会とは別に「メノコモシモシ」という団体の名が記されていた。札幌アイヌ協会副会長の多原良子氏が代表を務める団体だ。
 札幌アイヌ協会が受託するはずの事業の一部が、多原副会長が主宰する団体で受託されていたという構図なのだ。札幌アイヌ協会事務局長の貝澤文俊氏が言う。
「今年の雪まつりは、アイヌ新法が適用されてから初めての大きなイベントで、アイヌにとって特別な意味があった。札幌アイヌ協会として、我々は公明正大に責任を果たさねばならなかった。会長と副会長が協会を私物化するような体制を改めなければならないと考え、家族政権の廃止と、辞任を申し立てたい」
「俺はあんたを認めない」
 この疑惑に気づいたのは、札幌アイヌ協会理事の早坂ユカ氏だった。
 早坂氏ら複数の理事の証言によれば、今年初頭にメノコモシモシから同協会会員たちに「雪まつりステージの出演依頼」が届いた。契約先には「メノコモシモシ」の名が記されていた。ところが昨年末、多原氏は協会理事たちに「雪まつり事業におけるアイヌ音楽を披露するステージのキャスティングを札幌アイヌ協会が受託した」と説明していた。そうであれば、契約先が札幌アイヌ協会ではなく、「メノコモシモシ」なのはおかしいと気づいたという。
 この書面は、同じく協会理事の結城幸司氏のもとにも届いていた。結城氏が言う。
「札幌アイヌ協会は多原さんのものではなく、早坂さんも僕も協会の一員です。協会として受託すれば明朗なのに、どうしてメノコモシモシを通して出演者にギャランティを支払う必要があるのか」
 この契約に疑問を抱いた複数の理事は、阿部会長・多原副会長に理事会および総会の招集と事実関係の説明を要求した。ところが、阿部会長は6月1日、雪まつり事業の監査が終わっていないにもかかわらず、コロナ禍を理由に総会を開かない旨、そして6月6日返送〆切の書面総会とする旨の通知を理事・会員に送付した。
 その直前の5月30日、監事の藤岡千代美氏は、不透明な受託の流れについて阿部会長に質した。
 この日の監査のため、藤岡氏は事前に北海道博報堂の担当者と面会し、札幌アイヌ協会およびメノコモシモシへの事業委託の経緯を確認していた。
「博報堂は『札幌アイヌ協会の窓口である多原さんに相談した結果、メノコモシモシに再委託した』と仰る。そうだとすれば、副会長の立場を利用した不当な行為というほかない」(藤岡氏)
 北海道博報堂は、本誌の取材に対しても「札幌アイヌ協会に相談した結果、メノコモシモシと作業を進めることとなった」(博報堂グループ広報室)と説明している。
 ところが、藤岡氏がその点を指摘すると、阿部会長は激高したという。その録音データには、「どうして勝手に博報堂に行くんだ!」「俺はあんたを監事とは認めない」「誰と博報堂に行ったんだ、1人じゃねぇだろ」など、1時間以上にわたり阿部会長が声を荒らげる様子が記録されていた。
 数日後、阿部会長が監査終了を待たずに書面総会資料を送付したため、貝澤氏らは理事の過半数が署名した「理事会開催の要請書」を郵送し、「書面総会の無効申立書」を手渡した。しかし、阿部会長は「過半数の会員が承認したため書面総会は有効」と主張して、8月24日現在まで理事と会員を招集しての総会開催を拒み続けている。
「やましいところはありません」
 一連の紛議について阿部会長の見解を求めた。
──札幌アイヌ協会が受託したはずの雪まつり事業が、(実妹である)多原副会長が代表を務める団体・メノコモシモシに流れていた。
「私は知らなかった。5月30日の監査のときに初めて聞いた。(妹が)メノコモシモシで仕事を受けたことは、私にはまったく相談がなかった。兄妹とはいえ、そういうことは私に知らせれば良かったのに、とは思います」
──監査の録音を聞くと、藤岡氏を恫喝しているような印象を受けますが。
「私に何の相談もなしに、なんで(監事が)博報堂に(尋ねに)行ったの、という話でしょ。疑問があるなら、まず会長に相談するのが筋でしょう」
──過半数の理事が書面総会の無効を申し立て、総会の招集を求めている。
「書面総会を会員の過半数が了承していますから」
 しかし、結城氏らは、誰がどのような手続きで返送書面の確認と集計を行なったのか不明だと主張している。
 多原副会長にも電話で話を聞いた。
「(札幌アイヌ協会の)理事会でペーパーを配って、雪まつり事業で北海道博報堂さんから依頼が来てますので、と(理事たちに仕事を)お願いしたのですが、誰からも返答がなかった。それで北海道博報堂さんに相談したところ、じゃあメノコモシモシでやってください、となったんです」
 一方、同協会の複数の理事たちは「そんなペーパーが配られたことはない」と証言した。
 メノコモシモシが同事業費として受け取った金額を尋ねると、多原氏は「300万強くらいです」と話した。
 札幌アイヌ協会の会計報告では、同協会が北海道博報堂から受託した金額は39万円のみとなっている。多原氏の話どおりなら、その8倍近い金額がメノコモシモシに入ったことになる。
「新型コロナで来場者が少なかったこともあり、(メノコモシモシは)赤字です。持ち出しになっています。とにかく私には、やましいところはまったくありません」
 多原氏はそう主張して電話を切った。
 今回、札幌アイヌ協会の関係者たちが実名で告発した理由を、前出の理事・結城氏が語る。
「アイヌ新法が成立したのに、こんな不透明さでは我々の組織そのものに不信感を持たれてしまう。それが何より悔しいです。阿部さんや多原さんだけでなく僕ら自身も反省しなければならない。札幌アイヌ協会を信頼される組織に立て直さなければ、アイヌの未来が潰れてしまう」
 アイヌ新法成立という大きな一歩を無駄にしないためにも、透明性の回復と早期の決着が望まれる。
【PROFILE】ほんだ・しんいちろう/1959年、熊本県生まれ。TBSやフジテレビで事件レポーターとして活動後、神戸連続児童殺傷事件を機にジャーナリストへ転身。著書に『淳 それから』、『モノクロームクライシス』など。
※週刊ポスト2020年9月11日号
https://news.yahoo.co.jp/articles/69ac1a56b4a6f616c042b12f7564c9c822a0b501
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