ALL REVIEWS 6/3(木) 11:00
1966 年、12 歳のチャーニーは、カナダ政府が先住民族の同化政策として制度化した寄宿学校から逃げ出す途中、線路上で凍死した。死因審問の結果、悲劇を繰り返さぬよう四つの勧告が出されたが、なんら改善策はとられなかった。
それから四半世紀以上経った2000年から2011年の間、オンタリオ州のサンダーベイ市で7 人の先住民の高校生が死亡した。うち5 人は、先住民の聖地の麓を流れるカイ川で遺体となって発見されている。高校卒業の資格を得るために、彼らは故郷から何百マイルも離れた都会で暮らしていた。将来への希望を見つける機会となるはずが、彼らが経験したのは、日常に溢れる先住民への差別と人々の無関心、そして堪え難い孤独であった。
七人の若い羽根たちが辿った生と死の軌跡を丹念にたどり、彼らの家族や先住民族の物語をとおして、カナダ建国の植民地時代から今日まで続く人種差別や文化的ジェノサイドの実態を鮮明に描き出した『命を落とした七つの羽』の序文をご紹介いたします。
◆多様性の国カナダでの人種差別の実態
「なぜ、カナダでこんなことが?」
これは『命を落とした七つの羽根』の読者から、私に寄せられる最も多い問いの一つだ。
こうした質問をしてくるのは大体、非先住民で、正直なところ、私はどう答えたら良いのかわからない。彼らの目に浮かぶのは、悲しみと信じられないという思い。それを見ると、彼らが知っているカナダ、彼らが育った国、あるいは彼らが到着したばかりの国について、彼らが本当に理解できていないことが分かる。彼らが信じていた国は、すべての人々にチャンスが開かれた親切で平等な国。あらゆる希望が満たされる国。彼らは、こういった幻想が本当のカナダではないこと、先住民族に関して言えば、この国には分断と暴力に満ちた過去があることを知って愕然とする。そして彼らは、この分断と暴力が依然として残るという事実を知り悲しむのだ。
カナダ人は、自分が知る愛すべきこの国、人権のために立ち上がったことで世界中から尊敬されている国が、先住民族の子どもたちを100年以上も両親から引き離し、インディアン寄宿学校に放り込んでいたとは信じたくないのだ。彼らは、カナダにインディアン法と呼ばれる法律−−政府が認定する先住民族のあらゆる生活を規定する−−がまだ存在することを知り愕然とする。そしてまた、カナダ政府がこれまでに署名してきた条約を反故にしてきた事実を聞かされたくないのだ。カナダ人の多くは、ジョージ・フロイドさんが2020年5月29日に米国ミネアポリスの警察官デレク・ショービンに殺害されるまで、2020年にカナダ国内で警察とのいざこざで8人もの先住民が死亡した事実を信じたくなかっただろう。
彼らに対する私の返答はこうだ。「私たち先住民族の人々は未だにサンダーベイの水辺や通りで死んでいる」 。
カナダ人が直面する困難な真実の一部であるが、真正面から向き合わなければならない事実だ。
カナダには暗い過去とはできるだけ向き合わないよう努めてきた歴史がある。しかし、国として前に進むためにはそれは不可欠だ。
私はこの国の人種差別(レイシズム)と大量虐殺(ジェノサイド)を扱った二冊の本を書いた。
一冊目は、『命を落とした七つの羽根 カナダ先住民とレイシズム、死、そして「真実」』。2000年から2011年までの間に亡くなった、七人の10代の先住民の若者たちの生と死について書いた本だ。若者たちは、プロペラ機でしかアクセスできないような辺境の小さなコミュニティ出身で、サンダーベイ市では両親や友人、そして彼らが知るすべてのものから切り離されて暮らしていた。五人の生徒、ジェスロ・アンダーソン、コラン・ストラング、レジー・ブッシー、カイル・モリソー、ジョーダン・ワバスはサンダーベイを流れる川で発見された。二人の生徒、ポール・パナチーズとロビン・ハーパーは下宿で死亡した。
これらの子どもたちの死は、それが起きている間、カナダの大手メディアや人々の間で無視されていた。しかし、七人の子どもたちの家族とファースト・ネイションズの指導者たちは、生徒たちの死に注目を集めようと毅然として戦ってきた。彼らは徹底的な調査と検死を要求した。亡くなったすべての生徒の死因審問請求には六年以上の時間を要した。徹底抗戦による審問請求がようやく実現した。
八ヶ月以上に及ぶ審問では200人もの人々が証人として出廷し、2016年6月に145項目もの勧告と共に審問は終了した。しかし、オンタリオ州北部の先住民族の人々にとって、実際の変化は、勧告内容からは程遠いものだ。審問は世界を変えることはできず、子どもを失った家族に正義をもたらすこともできない。審問は誰かを非難するように設計されたものではなく、生きている人を守るために死者から学ぶことを目的としているからだ。
審問が終わった直後、オンタリオ州検事総長事務局の傘下にある独立警察審査ディレクター(OIPRD)がサンダーベイ警察の捜査に乗り出した。ゲリー・マクネリー弁護士がまとめた調査報告書「失われた信頼:先住民族とサンダーベイ警察」 は三七件の警察による捜査を分析している。その結果、警察組織内部に 「組織的な人種差別」 があったことが判明、事件の処理方法に不備があったとして急死事件の捜査を再開することを含む四四の勧告が出された。
これらの調査のうち四件は、「七つの羽根」に関するものだ。ジェスロ・アンダーソン(15歳)、カイル・モリソー(17歳)、コラン・ストラング(18歳)、ジョーダン・ワバス(15歳) の事件を再調査するため学際的な作業部会が設置された。現在、四人の家族、サンダーベイそしてカナダが死亡調査の結果を待っているところだ。
この再調査について、元老院(上院)を最近退任したマリー・シンクレア氏に尋ねた。彼は、カナダ真実和解委員会の委員長として、6000人以上のサバイバーから先住民寄宿学校制度での経験と証言を集め、先住民族との関係修復を開始するためにカナダがしなければならない九四の行動要請を盛り込んだ報告書を作成した人物である。新たな学際的作業部会による事件調査は信頼に足るものか?との問いに、彼は 「ノー」 と答えた。
シンクレア氏の鋭い答えがすべてを物語っていた。彼はこう説明した。「警察は何が問題なのか全く理解していない。先住民が犠牲になるのは全て自業自得であり、犠牲者に責任を押し付けようという意思はサンダーベイでは非常に大きかった。おそらく現在もそうだろう。すぐにその意識が変わったとしたら驚くべきことだ。彼らは、確かに変わったと言うだろうが、その態度に大きな変化があったとしたら私は驚きますね。」また、こう言葉を継いだ。「それは、相当根深い組織的態度であり、サンダーベイ警察内のシステムに深く浸透しているものだからです。それを変更させるのは警察委員会の役割で、何らかの行動をとる責任があったのだが、彼らはそれをしなかった。彼らはそれを問題視さえしなかったのだから。」
サンダーベイに暮らす先住民に対して何十年にもわたり繰り返されてきたメッセージは、彼らは犠牲者としての価値すらなく、彼らの死は正当な調査に値しないというものだ。それは警察行政上の組織的人種差別ではない。それは単なるレイシズムだ。サンダーベイの先住民コミュニティは、何が変わったと信じればいいのか?
そして、これはサンダーベイだけの問題ではない。最近、2016年にサスカチュワン州のある農場で農家のジェラルド・スタンレーに射殺されたコルテン・ブッシー(レッド・ペサント・クリー・ネイション出身、22歳)の死亡に関して、カナダ連邦警察の民間審査苦情委員会による再審理が公開され、警官がコルテンの母親デビー・バティストを侮辱したことが明らかになった。再審理では、連邦警察がブッシーの死に関する調査の扱いに関し、47件の調査結果と一七件の勧告が出された。再調査では、警察が証拠を野外に置きっ放しにしたこと、母親であるバプティストさんの息を嗅いで飲酒の有無を確かめていたことを戒めた。彼女の息子が死んだと警察が彼女に告げた直後にだ。彼らは母親をまるで犯罪者のように扱ったという。
カナダ全土の先住民族は、サンダーベイだけでなく、これ以上の報告や王立委員会の設置、調査を求めていない。私たちがすでに知っていることを今さら報告されても仕方ないのだ。カナダという国家を運営するために作られた組織、官僚、政策、プログラムは、先住民族を念頭に置いて作られたものではない。こうした社会的制度や組織は、この土地に入植するためにやってきた人々が、カナダという国を建設するために作られたのだ。しかし、これらの土地は私たちが生きてきた土地だ。何万年もの間、先住民族が暮らしてきたタートル・アイランドだ。
カナダは、警察や政府、あらゆる行政機関で同じ問題を何度繰り返し発見すれば、問題だと認め始めるのだろうか?
カナダの歴史的無関心、いずれ事態は良くなるという楽観的な信念は暴力そのものだ。そんなことはありえない。時間をやり過ごすことで解決することはない。もし、あなたが暮らす地域社会で、高校や大学への進学や就業のために地方から出てきた若者たちが次々と死亡したり、路上でホームレスになったりしたら、あなたは一体どう考えますか?
8ヶ月間、欠かすことなく「七人の羽根」の審問に出席し取材を続けてきたCBCジャーナリストのジョディ・ポーターは次のように語った。「私たちは、ここで語られていることをどのように意味付ければ良いかわからないのです。何が私たちをカナダ人たらしめるのか、その存在の不安さが露呈している。あなたという存在が、この土地に住み続けてきた人々にとって命取りになる、と言われているのですから。」
二〇一八年、私はCBCマッシー・レクチャーの登壇者として、カナダ国内の五つの都市を訪れ、カナダにおけるレイシズムとジェノサイドについての二冊目の本「All Our Relations: Finding the Path Forward」の話をした。一連の講演は、人間を土地から分離するという暴力、家族を引き裂くこと、それによって引き起こされる魂の分離を中心的なテーマとして取り上げ、社会からの疎外感をなぜ感じるのかについて考える内容だ。しかし「真実」以上にその答えを与えてくれるものはない。先住民族はこの大地につながっている。私たちはずっとここにいて、これからもどこにも行かない。私たちの進むべき道は人間の内面から示されるものでなくてはならない。心に宿る知識、私たちを何千年にもわたって支えてきた智慧に従って。
これらの本を読むことは、「七人の羽根」やこれまでに失われた全ての子どもたちの命に敬意を払うことに繋がります。
Chi-miigwetch(どうも、ありがとう)
[書き手]タニヤ・タラガ(Tanya Talaga)
トロント・スターの報道記者。母方の祖母は本書の舞台でもあるフォートウィリアム・オジブウェ族であり、タラガは幼少期から何度もこの地を訪れていた。公益に資するジャーナリストに贈られるMichener賞に5回推薦。2017-2018 年には、功績あるジャーナリストに与えられるアトキンソン・フェロー(公共政策)を受賞。2018年名誉あるCBC マッシー・レクチャーの登壇者に選ばれ5都市における連続講演会を開催、本書に続く著作 All Our Relations:Finding The Path Forward (2018)もベストセラーとなる。
[書籍情報]『命を落とした七つの羽根: カナダ先住民とレイシズム、死、そして「真実」』
著者:タニヤ・タラガ / 翻訳:村上佳代 / 出版社:青土社 / 発売日:2021年05月26日 / ISBN:4791773780
https://news.yahoo.co.jp/articles/dedc91168199c6e752e32dac5a1911f75c546a68
1966 年、12 歳のチャーニーは、カナダ政府が先住民族の同化政策として制度化した寄宿学校から逃げ出す途中、線路上で凍死した。死因審問の結果、悲劇を繰り返さぬよう四つの勧告が出されたが、なんら改善策はとられなかった。
それから四半世紀以上経った2000年から2011年の間、オンタリオ州のサンダーベイ市で7 人の先住民の高校生が死亡した。うち5 人は、先住民の聖地の麓を流れるカイ川で遺体となって発見されている。高校卒業の資格を得るために、彼らは故郷から何百マイルも離れた都会で暮らしていた。将来への希望を見つける機会となるはずが、彼らが経験したのは、日常に溢れる先住民への差別と人々の無関心、そして堪え難い孤独であった。
七人の若い羽根たちが辿った生と死の軌跡を丹念にたどり、彼らの家族や先住民族の物語をとおして、カナダ建国の植民地時代から今日まで続く人種差別や文化的ジェノサイドの実態を鮮明に描き出した『命を落とした七つの羽』の序文をご紹介いたします。
◆多様性の国カナダでの人種差別の実態
「なぜ、カナダでこんなことが?」
これは『命を落とした七つの羽根』の読者から、私に寄せられる最も多い問いの一つだ。
こうした質問をしてくるのは大体、非先住民で、正直なところ、私はどう答えたら良いのかわからない。彼らの目に浮かぶのは、悲しみと信じられないという思い。それを見ると、彼らが知っているカナダ、彼らが育った国、あるいは彼らが到着したばかりの国について、彼らが本当に理解できていないことが分かる。彼らが信じていた国は、すべての人々にチャンスが開かれた親切で平等な国。あらゆる希望が満たされる国。彼らは、こういった幻想が本当のカナダではないこと、先住民族に関して言えば、この国には分断と暴力に満ちた過去があることを知って愕然とする。そして彼らは、この分断と暴力が依然として残るという事実を知り悲しむのだ。
カナダ人は、自分が知る愛すべきこの国、人権のために立ち上がったことで世界中から尊敬されている国が、先住民族の子どもたちを100年以上も両親から引き離し、インディアン寄宿学校に放り込んでいたとは信じたくないのだ。彼らは、カナダにインディアン法と呼ばれる法律−−政府が認定する先住民族のあらゆる生活を規定する−−がまだ存在することを知り愕然とする。そしてまた、カナダ政府がこれまでに署名してきた条約を反故にしてきた事実を聞かされたくないのだ。カナダ人の多くは、ジョージ・フロイドさんが2020年5月29日に米国ミネアポリスの警察官デレク・ショービンに殺害されるまで、2020年にカナダ国内で警察とのいざこざで8人もの先住民が死亡した事実を信じたくなかっただろう。
彼らに対する私の返答はこうだ。「私たち先住民族の人々は未だにサンダーベイの水辺や通りで死んでいる」 。
カナダ人が直面する困難な真実の一部であるが、真正面から向き合わなければならない事実だ。
カナダには暗い過去とはできるだけ向き合わないよう努めてきた歴史がある。しかし、国として前に進むためにはそれは不可欠だ。
私はこの国の人種差別(レイシズム)と大量虐殺(ジェノサイド)を扱った二冊の本を書いた。
一冊目は、『命を落とした七つの羽根 カナダ先住民とレイシズム、死、そして「真実」』。2000年から2011年までの間に亡くなった、七人の10代の先住民の若者たちの生と死について書いた本だ。若者たちは、プロペラ機でしかアクセスできないような辺境の小さなコミュニティ出身で、サンダーベイ市では両親や友人、そして彼らが知るすべてのものから切り離されて暮らしていた。五人の生徒、ジェスロ・アンダーソン、コラン・ストラング、レジー・ブッシー、カイル・モリソー、ジョーダン・ワバスはサンダーベイを流れる川で発見された。二人の生徒、ポール・パナチーズとロビン・ハーパーは下宿で死亡した。
これらの子どもたちの死は、それが起きている間、カナダの大手メディアや人々の間で無視されていた。しかし、七人の子どもたちの家族とファースト・ネイションズの指導者たちは、生徒たちの死に注目を集めようと毅然として戦ってきた。彼らは徹底的な調査と検死を要求した。亡くなったすべての生徒の死因審問請求には六年以上の時間を要した。徹底抗戦による審問請求がようやく実現した。
八ヶ月以上に及ぶ審問では200人もの人々が証人として出廷し、2016年6月に145項目もの勧告と共に審問は終了した。しかし、オンタリオ州北部の先住民族の人々にとって、実際の変化は、勧告内容からは程遠いものだ。審問は世界を変えることはできず、子どもを失った家族に正義をもたらすこともできない。審問は誰かを非難するように設計されたものではなく、生きている人を守るために死者から学ぶことを目的としているからだ。
審問が終わった直後、オンタリオ州検事総長事務局の傘下にある独立警察審査ディレクター(OIPRD)がサンダーベイ警察の捜査に乗り出した。ゲリー・マクネリー弁護士がまとめた調査報告書「失われた信頼:先住民族とサンダーベイ警察」 は三七件の警察による捜査を分析している。その結果、警察組織内部に 「組織的な人種差別」 があったことが判明、事件の処理方法に不備があったとして急死事件の捜査を再開することを含む四四の勧告が出された。
これらの調査のうち四件は、「七つの羽根」に関するものだ。ジェスロ・アンダーソン(15歳)、カイル・モリソー(17歳)、コラン・ストラング(18歳)、ジョーダン・ワバス(15歳) の事件を再調査するため学際的な作業部会が設置された。現在、四人の家族、サンダーベイそしてカナダが死亡調査の結果を待っているところだ。
この再調査について、元老院(上院)を最近退任したマリー・シンクレア氏に尋ねた。彼は、カナダ真実和解委員会の委員長として、6000人以上のサバイバーから先住民寄宿学校制度での経験と証言を集め、先住民族との関係修復を開始するためにカナダがしなければならない九四の行動要請を盛り込んだ報告書を作成した人物である。新たな学際的作業部会による事件調査は信頼に足るものか?との問いに、彼は 「ノー」 と答えた。
シンクレア氏の鋭い答えがすべてを物語っていた。彼はこう説明した。「警察は何が問題なのか全く理解していない。先住民が犠牲になるのは全て自業自得であり、犠牲者に責任を押し付けようという意思はサンダーベイでは非常に大きかった。おそらく現在もそうだろう。すぐにその意識が変わったとしたら驚くべきことだ。彼らは、確かに変わったと言うだろうが、その態度に大きな変化があったとしたら私は驚きますね。」また、こう言葉を継いだ。「それは、相当根深い組織的態度であり、サンダーベイ警察内のシステムに深く浸透しているものだからです。それを変更させるのは警察委員会の役割で、何らかの行動をとる責任があったのだが、彼らはそれをしなかった。彼らはそれを問題視さえしなかったのだから。」
サンダーベイに暮らす先住民に対して何十年にもわたり繰り返されてきたメッセージは、彼らは犠牲者としての価値すらなく、彼らの死は正当な調査に値しないというものだ。それは警察行政上の組織的人種差別ではない。それは単なるレイシズムだ。サンダーベイの先住民コミュニティは、何が変わったと信じればいいのか?
そして、これはサンダーベイだけの問題ではない。最近、2016年にサスカチュワン州のある農場で農家のジェラルド・スタンレーに射殺されたコルテン・ブッシー(レッド・ペサント・クリー・ネイション出身、22歳)の死亡に関して、カナダ連邦警察の民間審査苦情委員会による再審理が公開され、警官がコルテンの母親デビー・バティストを侮辱したことが明らかになった。再審理では、連邦警察がブッシーの死に関する調査の扱いに関し、47件の調査結果と一七件の勧告が出された。再調査では、警察が証拠を野外に置きっ放しにしたこと、母親であるバプティストさんの息を嗅いで飲酒の有無を確かめていたことを戒めた。彼女の息子が死んだと警察が彼女に告げた直後にだ。彼らは母親をまるで犯罪者のように扱ったという。
カナダ全土の先住民族は、サンダーベイだけでなく、これ以上の報告や王立委員会の設置、調査を求めていない。私たちがすでに知っていることを今さら報告されても仕方ないのだ。カナダという国家を運営するために作られた組織、官僚、政策、プログラムは、先住民族を念頭に置いて作られたものではない。こうした社会的制度や組織は、この土地に入植するためにやってきた人々が、カナダという国を建設するために作られたのだ。しかし、これらの土地は私たちが生きてきた土地だ。何万年もの間、先住民族が暮らしてきたタートル・アイランドだ。
カナダは、警察や政府、あらゆる行政機関で同じ問題を何度繰り返し発見すれば、問題だと認め始めるのだろうか?
カナダの歴史的無関心、いずれ事態は良くなるという楽観的な信念は暴力そのものだ。そんなことはありえない。時間をやり過ごすことで解決することはない。もし、あなたが暮らす地域社会で、高校や大学への進学や就業のために地方から出てきた若者たちが次々と死亡したり、路上でホームレスになったりしたら、あなたは一体どう考えますか?
8ヶ月間、欠かすことなく「七人の羽根」の審問に出席し取材を続けてきたCBCジャーナリストのジョディ・ポーターは次のように語った。「私たちは、ここで語られていることをどのように意味付ければ良いかわからないのです。何が私たちをカナダ人たらしめるのか、その存在の不安さが露呈している。あなたという存在が、この土地に住み続けてきた人々にとって命取りになる、と言われているのですから。」
二〇一八年、私はCBCマッシー・レクチャーの登壇者として、カナダ国内の五つの都市を訪れ、カナダにおけるレイシズムとジェノサイドについての二冊目の本「All Our Relations: Finding the Path Forward」の話をした。一連の講演は、人間を土地から分離するという暴力、家族を引き裂くこと、それによって引き起こされる魂の分離を中心的なテーマとして取り上げ、社会からの疎外感をなぜ感じるのかについて考える内容だ。しかし「真実」以上にその答えを与えてくれるものはない。先住民族はこの大地につながっている。私たちはずっとここにいて、これからもどこにも行かない。私たちの進むべき道は人間の内面から示されるものでなくてはならない。心に宿る知識、私たちを何千年にもわたって支えてきた智慧に従って。
これらの本を読むことは、「七人の羽根」やこれまでに失われた全ての子どもたちの命に敬意を払うことに繋がります。
Chi-miigwetch(どうも、ありがとう)
[書き手]タニヤ・タラガ(Tanya Talaga)
トロント・スターの報道記者。母方の祖母は本書の舞台でもあるフォートウィリアム・オジブウェ族であり、タラガは幼少期から何度もこの地を訪れていた。公益に資するジャーナリストに贈られるMichener賞に5回推薦。2017-2018 年には、功績あるジャーナリストに与えられるアトキンソン・フェロー(公共政策)を受賞。2018年名誉あるCBC マッシー・レクチャーの登壇者に選ばれ5都市における連続講演会を開催、本書に続く著作 All Our Relations:Finding The Path Forward (2018)もベストセラーとなる。
[書籍情報]『命を落とした七つの羽根: カナダ先住民とレイシズム、死、そして「真実」』
著者:タニヤ・タラガ / 翻訳:村上佳代 / 出版社:青土社 / 発売日:2021年05月26日 / ISBN:4791773780
https://news.yahoo.co.jp/articles/dedc91168199c6e752e32dac5a1911f75c546a68