市村信子 会員限定記事
北海道新聞2024年9月1日 4:00
ビヨーン、ビヨーン。独特の繊細な音を響かせるアイヌ民族の口琴ムックリ。国立アイヌ民族博物館(胆振管内白老町)や、土産物店で販売されているものの大半は、釧路市在住の鈴木紀美代さん(77)が手がけた作品だ。マキリ(小刀)で一本一本竹を削っていく作業を、けが一つなく半世紀続けて来られたのは、祖父母や父母、高校生で亡くなった娘が「守ってきてくれたおかげだと思う」と話す。
■娘の死乗り越え活動 今後は普及に注力
――祖父の秋辺福治さんは、釧路市春採のエカシ(長老)だったのですね。
「祖父の家に親族が集まると、祖父は決まって炉をたたき、『さぁ、みんな踊れ』と音頭を取りました。祖母は孫たちに手取り足取り踊り方を教えてくれる。とても楽しかったのを覚えています。6歳のころ、祖母がホウキの柄を使ってムックリを作るのも見ました。『さぁて、何ができるかな?』と言いながら、柄を削っていくんです。できるまでとてもワクワクして、音を聴いてさらに感動しました」
――実家の暮らしぶりは、厳しかったそうですね。
「父(秋辺福太郎さん)はアイヌ古式舞踊の名手と言われ、全国各地に招かれて舞踊を披露しました。でもそれは、お金にはならないんですね。普段は木彫工芸をしていて、生活は苦しかった。私は7人きょうだいの一番上。小学生の頃からズリ山(石炭採掘の際に出た石などを積み上げてできる山)で石炭拾いをしたり、北見の商店へ奉公に行ったりしました。きつかったです。中学卒業後は地元の印刷会社や料理店で働き、20歳で結婚した後も、父の作品を磨いたり、袋詰めする作業を手伝ったりしました」
――ムックリを作り始めたきっかけは。
「父が『これからはムックリが売れるかもしれない』と力を入れ始めたので、自然に手伝うようになりました。最初は実家の家計を助けるためだったんですけど、だんだん面白くなり、『いい音が出るものを作りたい』と思うようになりました。父にこつを聞いても『ムックリに聞け』としか教えてもらえなくて、仕方なく自分で工夫しました」
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