シネマトゥデイ2024年1月15日 7時15分
野田サトルの累計発行部数2,700万部を突破する大ヒットコミックを実写化する『ゴールデンカムイ』(1月19日全国公開)で、人気キャラクターのアイヌの少女・アシリパ(※「リ」は小文字)に抜てきされた山田杏奈(23)。未来を見つめるようなまっすぐな瞳も役にピタリとハマり、アシリパの純粋さと意志の強さをすばらしく表現している。山崎賢人(※「崎」はたつさき)演じる主人公・杉元とのコンビネーションも心地よく、彼らのコミカルなやり取りがしっかりと再現されていることも原作ファンにはうれしいポイント。自宅でも自主練に励んだというアシリパの豊かな表情をはじめ、山田が本作で果たした新たな挑戦について語った。
本作は、明治末期の北海道を舞台に、莫大なアイヌの埋蔵金をめぐる争奪戦を描いたサバイバルアクション。日露戦争での闘いぶりから“不死身の杉元”と呼ばれる元軍人の杉元佐一と、アイヌの少女・アシリパが、埋蔵金の在りかを記した「刺青人皮(いれずみにんぴ)」を求めて一癖も二癖もある軍人や囚人たちと渡り合う。
アシリパは、原作ファンの間で絶大な人気を誇るキャラクターだ。決定の報せを受けた瞬間について山田は、「マネージャーと“やりましたね!”と声を掛け合いました。すごくうれしかったです」と回想。「以前、実写版のアシリパのキャスト予想を見たことがあったんですが、そこに私の名前を挙げてくれている方もいらっしゃって。それを見た時もすごくうれしくて。当時は、すでにどなたかに決まっているんだろうなと思っていたんです」と喜びを噛み締める。
もともと多くのファンに愛されている漫画であることも認識しつつ、山田自身も原作を読みふけり「めちゃくちゃ面白い」と惚れ込んだそう。だからこそ年齢や身長など、原作のアシリパと自身の異なる部分にプレッシャーを感じたとも。とはいえ「製作陣の方々の中でもいろいろな検討があった上で、私に決めていただいた。だからこそ、責任を持って演じようと思いました。信じてくれる人がいるということが何よりもうれしいこと」としみじみ。「その思いを裏切らないようにしようと覚悟しました」と意を決して飛び込んだ。「心配していてもしょうがない。“やるしかない! なるようになる!”と考えるタイプで、思い切りはいい方かもしれません」と微笑む。
アクション、乗馬、弓…初尽くしのチャレンジ
北の大地を生き抜く知恵と優れた狩猟技術を持つ少女役とあって、クランクイン前にあらゆる準備に励んだという。
山田は「(2023年公開の主演作)『山女』の福永壮志監督が『アイヌモシリ』(※リは小文字)というアイヌの映画を撮られていたので、『ゴールデンカムイ』の出演が決まる前にその作品も観ていたり。不思議なご縁だなと思いました」と感じながら、アイヌ語や文化、風習について学んだ。さらに、ほとんど経験がなかったというアクションにもトライ。「クランクインの3か月ほど前から練習を始め、走り方や立ち止まり方、振り返り方など、基本的なことから教えていただきました。完成した映画を観ると、そういった基本的な動作が緊迫感を生む要素にもなっているなと感じたので、時間をかけてやらせてもらってよかったなと思っています。今日は馬に乗る練習、今日は弓、といろいろな新しいことに挑戦させていただきました」とアシリパとしての動きを身に染み込ませた。
原作の完全再現を目指した衣装にも大いに助けられたそう。アシリパの衣装はすべて手作りで、1年かけて制作されたという。着物の刺繍やマタンプシ(鉢巻※シは小文字)やテクンペ(手甲)は、アイヌ工芸家の関根真紀がすべて手縫いで刺繍を施した一点ものだ。
「説得力のある衣装にとても助けられました」と切り出した山田は、「アシリパがはいているももひきのようなものも、ボタンで留めたりするのではなく、紐でキュッと縛る構造になっていたりと細かいところまですごくよくできていて。“これは毎日彼女がやっていることなんだな”と思いながら衣装や小道具を身につけていくと、アシリパになれるような感覚がありました」と感謝しきり。「仕上がった衣装が、原作からイメージしていたそのまま。マキリ(小刀)など腰にいろいろなものを付けているのも、なんだかたくさんマルチツールが付いたかのような気分になってきて。すごく楽しかったです」と笑顔を見せる。
感覚がマヒする現場
アシリパを演じる上で大切にしたのは、「原作に、アシリパの『わたしは新しい時代のアイヌの女なんだ』という言葉があって。自分が生きていくことと自然との関わりに対して、すごくしっかりとした考えを持っている。無邪気さと、そういった芯の強さとの絶妙なバランスがすごく魅力的だなと。アシリパのそういったところは丁寧に表現したいと思っていました」と山田。
芯の強さが宿るアシリパを表現しつつ、埋蔵金を巡る旅を共にする杉元や白石(矢本悠馬)とのコミカルなやり取りまでを演じ切った。調理した鍋に杉元が持っている味噌を入れようとすると、アシリパが「杉元それ…オソマ(うんこ)じゃないか!」「私にうんこ食わせる気か!」と猛抗議する、原作ファンにはお馴染みの場面もスクリーンで楽しむことができる。
山田は「キャストやスタッフさんの中でも、“うんこ”というのをためらわなくなるような現場でした。みんなだんだん感覚が麻痺してきちゃって!」と楽しそうににっこり。自身にとってはオソマにしか見えない味噌への拒絶反応をはじめとするアシリパの表情は、思わずクスリとしてしまうほど豊かなものになっており、「台本には”変顔をする”とは書かれていないんですが“漫画では、この時のアシリパはこういう表情をしていたよな”ということは毎回見逃さないように気をつけていました。白目の表情を試してみようとすると、鏡で自分の顔を見ることはできないので、スマホで自撮りして確認したりして(笑)。“この筋肉の動かし方をするのがいいのかな”と試行錯誤していました」と振り返りつつ、「杉元と白石、アシリパで桜鍋を食べる時の顔は、すごくいい顔をしていると思います。杉元と白石がアシリパを見守っている感じも、とても好きです」と3人の関係性について愛おしそうに語る。
山田は2018年公開の『ミスミソウ』で映画初主演を務め、2023年には『山女』で第15回TAMA映画賞最優秀新進女優賞を受賞するなど、実力派の若手として成長を遂げてきた。「本作のような規模の大きな作品は、それだけ多くの人の目に触れることになります。これまで積み重ねてきたものをきっかけに、こういった作品に呼んでいただけたこともすごくうれしくて。役者としては、“あなたにやってほしい”と思っていただける役があることが一番ありがたいことで、力にもなる。そう思ってもらえる役者でいられるよう、これからも頑張ります」と清々しい表情で話していた。(取材・撮影・文:成田おり枝)