現代ビジネス-2014年07月26日(土) バーバラ・デフォー・ホワイトヘッド
『現代ビジネスブレイブ グローバルマガジン』---「ニューヨークタイムズ・セレクション」より
ニューヨーク州でカジノが続々オープン
昨年の11月にニューヨーク州で行なわれた住民投票で、既存の9つのギャンブル施設に加え、新たに7つのカジノの建設が承認された。こうした状況はニューヨーク州に限ったことではなく、近年、ほかの23州でも、アメリカ先住民の経営するカジノとは違う、商業的ギャンブル施設が合法化され認可されている。
2004年以降、26のカジノがオープンし、さらに少なくとも現在12の施設を開発中という、カジノ密集地帯の北東および中部大西洋沿岸地域では、ほとんどの成人が、車で少し走ればカジノがあるという場所に住んでいる。
当然のことながら、人々の住んでいる地域からカジノが近くなればなるほど、そこでギャンブルをする人の数は増える。産業が廃れた都市やさびれたリゾート地、そして都市中心部へとカジノが広がっていく状況に伴い、低所得層のあいだでギャンブルをする人の割合が増えている。
米国経済の二重構造化が進む中、カジノ業界のリーダーたちは、利益を上げる対象を富裕層だけに絞る必要はないということに気がついた。少額・短期・無担保融資、購入選択権付き商店、サブプライム・クレジットカード、自動車の所有権を担保とする融資、税還付見越融資などは、どれも低所得者層から高い利益を搾り取るために発達してきたものだ。新たに制定された州認可のカジノも、同様の手法によるものである。
ギャンブラーを定着させるためのストッロマシン
バッファロー大学およびニューヨーク州立大学バッファロー校の研究チームの調査は、カジノのギャンブルが低所得層のアメリカ人に搾取的影響を及ぼしてることを示す新たな証拠を明らかにした。一例として、低所得層のあいだで、カジノでギャンブルをおこなう人の割合とカジノに行く頻度が上がっていることが判明した。
その第一の要因として、カジノに行きやすくなったことが挙げられる。一ヵ所、または複数のカジノから10マイル(=16キロ)以内に住んでいる場合、過度なギャンブルによる問題の発生率が2倍以上になる。
第二に、スロットマシンの便宜さである。近年、ギャンブルをする女性や高齢者が増えているが、その理由のひとつは、スキルの要らないスロットマシンでのギャンブルを好むことが要因である。カジノの手法は、一回行くごとに少額でできる賭けをたくさんさせて、1ヵ月、もしくは1週間のあいだで数回カジノに行くよう仕向け、何年間もこのパターンで低所得者のギャンブラーに継続させるように仕組んでいる。これを実践するうえでスロットマシンは鍵となるのだ。
地域のカジノのほとんどは、基本的にストッロマシンのゲーム場だ。最近のスロットマシンは高度にコンピュータ化されており、継続的、かつ、反復的に賭けができるようにプログラムされている。ハイテクの専門家は、ギャンブラーができる限りの速さでコンソールボタンを押すことで、一度に複数の賭けができるようマシンをプログラムしている。
カネを搾り取る工夫
マサチューセッツ工科大学の人類学者で、ギャンブルの機械設計に関してもっとも権威のある本を書いたナターシャ・ダウ・シュールは、ギャンブラーたちは没頭すると、勝つことよりも、ゲームを続けることに関心が向くようになると記している。
スロットマシンはペニー(1円)単位からの賭けができ、それが少額の賭けをする人にとって魅力のひとつとなっている。しかしペニー単位の賭けでも、スピンごとに複数のラインにペニーを何百回も置けば、多額の損失を生みかねない。
しかし、カジノ側の目標は、ギャンブラーを一度で一文無しにさせることではなく、彼らのマシンの前にいる時間を長引かせることだ。ストッロマシンのリズムやテンポ、音響効果を巧みに管理し、少しずつ負けは増えていくが、たまに少額の勝ちを与えるという手法でこの目標を達成するのだ。
このコンピュータ化された「スリ」がカネを搾り取る方法のひとつは、「ニアミス」を作り出すことだ。これは、機械の上でスピンするマークが、勝ちになる支払いラインのわずか上か下で止まるもので、「あ~、残念。もうちょっとで勝ちだった」と思わせることで、さらにゲーム続けるよう促すのだ。
カジノの被害は最低所得層に甚大
第2の目標は、ギャンブラーがより頻繁に、そして長期にわたってカジノを訪れるようにすることだ。お客様ご愛顧カードや、その他のマーケティング・プログラムを通して、カジノは膨大な量の顧客情報を収集する。そうした情報を使い、ギャンブラーが長期にわたって頻繁にカジノを訪れるというパターンを定着させるための、顧客仕様の戦略を策定することができるのだ。
さらにカジノは、顧客がもたらす利益と「予測生涯価値」に関する情報も収集する。この情報から、どのくらいの割合の顧客が、所得分布の中央値以下の人であるか、そして、それら低所得層が、収入のどのくらいの割合をギャンブルで失っているかを算出できるはずだ。また、低所得層のギャンブラーを対象とする地域カジノが、各々の地元の所得格差にどのくらい影響を与えているかも分かるだろう。
しかしカジノ側は、こうした情報をもちろん公開しないし、ギャンブラーの負けた賭けからもたらされる収益が分配される州も、自分たちの商業のパートナーには開示を迫ったりはしない。そのため、カジノがおよぼすインパクトに関して、おおやけにされる限られたデータは、すべて外部の情報源から収集されたものだ。
2000年にバッファローのグループが実施した、成人を対象とする大規模な調査では、カジノに行く社会経済的地位の低いグループ、および少数民族グループは、その他の人々よりも、金銭的な問題を含んだギャンブルに関連する問題を多く抱えていることが明らかにされた。このことは、これらの所得の低い人々がギャンブルでお金を失う割合のほうが、より所得の高い層よりも大きいことを示唆している。
15種類の合法的ギャンブルを調べた結果、研究者たちは驚くべき結論に至った。カジノは最低所得層の人々に、他のギャンブルよりもはるかに大きな害を及ぼしたということだ。
(文・バーバラ・デフォー・ホワイトヘッド:アメリカ価値研究所市民社会イ
ニシャチブ・ディレクター/翻訳・松村保孝)
『現代ビジネスブレイブ グローバルマガジン』vol086
(2014年7月18日配信)より
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39946
『現代ビジネスブレイブ グローバルマガジン』---「ニューヨークタイムズ・セレクション」より
ニューヨーク州でカジノが続々オープン
昨年の11月にニューヨーク州で行なわれた住民投票で、既存の9つのギャンブル施設に加え、新たに7つのカジノの建設が承認された。こうした状況はニューヨーク州に限ったことではなく、近年、ほかの23州でも、アメリカ先住民の経営するカジノとは違う、商業的ギャンブル施設が合法化され認可されている。
2004年以降、26のカジノがオープンし、さらに少なくとも現在12の施設を開発中という、カジノ密集地帯の北東および中部大西洋沿岸地域では、ほとんどの成人が、車で少し走ればカジノがあるという場所に住んでいる。
当然のことながら、人々の住んでいる地域からカジノが近くなればなるほど、そこでギャンブルをする人の数は増える。産業が廃れた都市やさびれたリゾート地、そして都市中心部へとカジノが広がっていく状況に伴い、低所得層のあいだでギャンブルをする人の割合が増えている。
米国経済の二重構造化が進む中、カジノ業界のリーダーたちは、利益を上げる対象を富裕層だけに絞る必要はないということに気がついた。少額・短期・無担保融資、購入選択権付き商店、サブプライム・クレジットカード、自動車の所有権を担保とする融資、税還付見越融資などは、どれも低所得者層から高い利益を搾り取るために発達してきたものだ。新たに制定された州認可のカジノも、同様の手法によるものである。
ギャンブラーを定着させるためのストッロマシン
バッファロー大学およびニューヨーク州立大学バッファロー校の研究チームの調査は、カジノのギャンブルが低所得層のアメリカ人に搾取的影響を及ぼしてることを示す新たな証拠を明らかにした。一例として、低所得層のあいだで、カジノでギャンブルをおこなう人の割合とカジノに行く頻度が上がっていることが判明した。
その第一の要因として、カジノに行きやすくなったことが挙げられる。一ヵ所、または複数のカジノから10マイル(=16キロ)以内に住んでいる場合、過度なギャンブルによる問題の発生率が2倍以上になる。
第二に、スロットマシンの便宜さである。近年、ギャンブルをする女性や高齢者が増えているが、その理由のひとつは、スキルの要らないスロットマシンでのギャンブルを好むことが要因である。カジノの手法は、一回行くごとに少額でできる賭けをたくさんさせて、1ヵ月、もしくは1週間のあいだで数回カジノに行くよう仕向け、何年間もこのパターンで低所得者のギャンブラーに継続させるように仕組んでいる。これを実践するうえでスロットマシンは鍵となるのだ。
地域のカジノのほとんどは、基本的にストッロマシンのゲーム場だ。最近のスロットマシンは高度にコンピュータ化されており、継続的、かつ、反復的に賭けができるようにプログラムされている。ハイテクの専門家は、ギャンブラーができる限りの速さでコンソールボタンを押すことで、一度に複数の賭けができるようマシンをプログラムしている。
カネを搾り取る工夫
マサチューセッツ工科大学の人類学者で、ギャンブルの機械設計に関してもっとも権威のある本を書いたナターシャ・ダウ・シュールは、ギャンブラーたちは没頭すると、勝つことよりも、ゲームを続けることに関心が向くようになると記している。
スロットマシンはペニー(1円)単位からの賭けができ、それが少額の賭けをする人にとって魅力のひとつとなっている。しかしペニー単位の賭けでも、スピンごとに複数のラインにペニーを何百回も置けば、多額の損失を生みかねない。
しかし、カジノ側の目標は、ギャンブラーを一度で一文無しにさせることではなく、彼らのマシンの前にいる時間を長引かせることだ。ストッロマシンのリズムやテンポ、音響効果を巧みに管理し、少しずつ負けは増えていくが、たまに少額の勝ちを与えるという手法でこの目標を達成するのだ。
このコンピュータ化された「スリ」がカネを搾り取る方法のひとつは、「ニアミス」を作り出すことだ。これは、機械の上でスピンするマークが、勝ちになる支払いラインのわずか上か下で止まるもので、「あ~、残念。もうちょっとで勝ちだった」と思わせることで、さらにゲーム続けるよう促すのだ。
カジノの被害は最低所得層に甚大
第2の目標は、ギャンブラーがより頻繁に、そして長期にわたってカジノを訪れるようにすることだ。お客様ご愛顧カードや、その他のマーケティング・プログラムを通して、カジノは膨大な量の顧客情報を収集する。そうした情報を使い、ギャンブラーが長期にわたって頻繁にカジノを訪れるというパターンを定着させるための、顧客仕様の戦略を策定することができるのだ。
さらにカジノは、顧客がもたらす利益と「予測生涯価値」に関する情報も収集する。この情報から、どのくらいの割合の顧客が、所得分布の中央値以下の人であるか、そして、それら低所得層が、収入のどのくらいの割合をギャンブルで失っているかを算出できるはずだ。また、低所得層のギャンブラーを対象とする地域カジノが、各々の地元の所得格差にどのくらい影響を与えているかも分かるだろう。
しかしカジノ側は、こうした情報をもちろん公開しないし、ギャンブラーの負けた賭けからもたらされる収益が分配される州も、自分たちの商業のパートナーには開示を迫ったりはしない。そのため、カジノがおよぼすインパクトに関して、おおやけにされる限られたデータは、すべて外部の情報源から収集されたものだ。
2000年にバッファローのグループが実施した、成人を対象とする大規模な調査では、カジノに行く社会経済的地位の低いグループ、および少数民族グループは、その他の人々よりも、金銭的な問題を含んだギャンブルに関連する問題を多く抱えていることが明らかにされた。このことは、これらの所得の低い人々がギャンブルでお金を失う割合のほうが、より所得の高い層よりも大きいことを示唆している。
15種類の合法的ギャンブルを調べた結果、研究者たちは驚くべき結論に至った。カジノは最低所得層の人々に、他のギャンブルよりもはるかに大きな害を及ぼしたということだ。
(文・バーバラ・デフォー・ホワイトヘッド:アメリカ価値研究所市民社会イ
ニシャチブ・ディレクター/翻訳・松村保孝)
『現代ビジネスブレイブ グローバルマガジン』vol086
(2014年7月18日配信)より
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39946