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「主演・高倉健」の小説、作者が見たスターの素顔

2014-12-27 | アイヌ民族関連
読売新聞 2014年12月26日 09時43分
 “主演・高倉健”の小説がある。芥川賞作家の丸山健二著「鉛のバラ」である。
 「自分の小説の主人公になってもらえないか。そのために写真を撮りたい」。作家のこの依頼を、2003年に健さんは二つ返事で了解、その後、一人自ら車を運転し、長野県・安曇野にある作家の家に乗り付けたという。
 健さんは、黙って孤独に耐える演技が似合う俳優だが、「寡黙な人というイメージは虚像」と作家は語っていた。「あの人は、ほんとに話すのが上手。インテリで話題も豊富だった」。立っているだけで絵になる天性のスターと思われていたが、それも違う、と語った。「観客に拍手喝采されてうれしがるような人ではなく、いつまでたっても存在感がスクリーンに収まりきらない。別格だよ」
 丸山健二は翌年6月、底なしの虚無と向き合う孤高の男を小説にし、表紙に高倉健の写真を使った。当時の話が取材ノートに残っている。
 二人の出会いは、元映画少年の作家が1983年刊の高倉健写真集に文章を寄せたことだった。「それが高倉健という男ではないのか」と題した文は、こう始まる。
 〈何もかもきちんとやってのけたいと思い、これまで常にそうしてきたのは、映画を愛していたからではなく、あるいは役者稼業に惚ほれこんでいたせいでもなく、ただそれが仕事であり、それで飯を食ってきたというだけの理由にすぎない〉
 高倉健は、俳優生活50年記念の写真文集「想」などに自ら記したように、好きで俳優になったわけではない。貿易関係の仕事を目指し、明治大学商学部を選んだが、就職難で働き口はなく、芸能プロダクションのマネジャー見習いの面接に行ったところ、東映の専務から「君、俳優にならないか」と唐突に言われ、食うためにニューフェイスになったにすぎない。
 芸名も気に入らなかった。デビュー作「電光空手打ち」の主人公の名前である「忍勇作にしてほしい」と掛け合ったが相手にされず、渋々ながら高倉健を名乗った。
 俳優3年目の58年、内田吐夢監督「森と湖のまつり」にアイヌの青年役で主演したことが転機となる。監督からは駄目出しの連続で、「お前の手にはアイヌの悲哀がない」とまで言われた。「だったら使わなければいいだろう」。思わず握り拳をつくった時、「OK!」が出た。人間の思い、生き方がスクリーンには映る。そのことを知るきっかけになった。「活字を読まないと顔が成長しない」。監督の言葉を心に刻んだ。
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 気持ちの萎えた時、健さんが何度も読み返し、励まされたという丸山健二の文章は、こう続く。〈とはいえ、いやいやながら仕事をしているのではない。好きとか嫌いとかを尺度にして仕事をするのではなく、やるかやらないかを問題にするのであって、やると決め、引き受けたからには持てる力を惜しげもなく注ぎこみ、奮闘する(中略)それが高倉健ではないのか〉
 「昭和残侠ざんきょう伝」など任侠映画では、義理と人情の板挟みになり、最後はもろ肌脱いで巨悪に斬り込んだ。「八甲田山」では3年の歳月をかけ、吹雪の雪山にもこもり、苦難に耐えた。そうして本名・小田剛一は「高倉健」になっていく。
 〈少しでも前進しようと狙っている。彼は決して溺れない。それが高倉健ではないのか〉。その仕事師ぶりは、小道具担当の細やかな配慮や、それを見逃さず撮影するプロの凄腕すごうでを文章に残していることからも伝わってくる。
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 「よい習慣は、才能を超える」。これは元東レ経営研究所社長の佐々木常夫氏のベストセラー「働く君に贈る25の言葉」の名言だが、健さんは、まさに、才能のあるなしとか、好き嫌いではなく、仕事という習慣を通して、己を鍛え上げた人だったと思う。
 東京の丸の内TOEIでの追悼上映会初日12月6日、「網走番外地」が終わると、観客から拍手が上がった。「任侠おとこ気質ごころに男が惚れて」。それは「不器用」でも懸命に生きる男の立ち姿への讃歌さんかであった。
 射撃で五輪を目指す警察官の愛と苦悩を描く映画「駅 STATION」で、五輪を諦め、狙撃部門に専従するよう命じられた男(高倉健)は語る。「自分は一介の警官です。命令が出れば従います」
 一介の役者は「高倉健という仕事」に徹することで、記録と記憶に残る俳優になった。
 (編集委員 鵜飼哲夫)
http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20141224-OYT8T50175.html?from=ytop_ymag
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