BOOKウォッチ - 2022/12/15
オーディオブック・音声コンテンツ配信サービス「Amazonオーディブル(以下、Audible)」で、日本語では初となる村上春樹作品のオーディオブック化が進行中だ。藤木直人さん朗読の『ねじまき鳥クロニクル』をはじめ、数々の著名人の朗読で作品を楽しめる。
12月15日に配信された『辺境・近境』は、俳優の永山瑛太さんが朗読を担当した。普段から村上春樹作品を愛読しながらも、「ぼくはまだハルキストの『ハ』にも行っていない。『ハ』の一画目くらいです」と謙遜する永山さん。今回の朗読を通して深まった、作品への思いを伺った。
『辺境・近境』に収められている旅行記の行き先は、香川や神戸から、アメリカやモンゴル、無人島まで実にさまざま。永山さんに一番印象に残った場所を聞くと、作中最もページ数が割かれている「メキシコ大旅行」を挙げた。
村上春樹さんがメキシコを訪れたのは、1992年7月。バスに乗って移動しながら、車内を流れ続けるメキシコ歌謡曲にうんざりしたり、武装警官が乗り込んでくる物騒な場面に遭遇したり、先住民族の村で同行カメラマンが石を投げられたりと、一般的な旅行ツアーではなかなか味わえなさそうな濃い現地体験が綴られている。
永山さんはこの「メキシコ大旅行」に、2012年放送のドキュメンタリー番組『瑛太が挑む 世界最長の大河 ナイル~幻の源流を求めて 13,000kmの大紀行~』(BSジャパン)での自身の体験を重ね合わせていた。
(以下引用)
読んでいて、つらかったんですよね。ぼくもアフリカに4週間行かせてもらっていろんな経験をしたんですが、カメラが回っていないときや、ホテルに泊まっているとき、移動時間とかは、記録として残されていないじゃないですか。でもそういうところのほうが、すごく鮮明に記憶に残っているんです。
(以上引用)
ディープなメキシコの描写が、アフリカで味わった感覚をありありとよみがえらせたようだ。テレビには映らないような、旅の生々しい一面が、本作ではありのままに書かれている。
永山瑛太の中にいる、村上春樹の「僕」
永山さんが物心ついたときから、実家には、村上春樹さんをはじめ、村上龍さん、筒井康隆さん、大藪春彦さん、星新一さんらの本があったのだそうだ。初めて読んだ村上春樹作品は、『風の歌を聴け』だったという。
最初に読んだときはまだ面白さがわからなかったというが、それから中学生、高校生と成長する永山さんの日々のそばに、村上春樹作品はあった。
(以下引用)
〈鼠シリーズ〉(『風の歌を聴け』、『1973年のピンボール』、『羊をめぐる冒険』の初期3作品)はどれも、「僕」という主人公の一人称で語られています。その「僕」が、永山瑛太の「ぼく」として、今でも体の中にいるんですよね。
中学・高校時代にぼくが感じていた孤独や、焦燥や、言葉にならない気持ちが、村上春樹さんの見てきたもの、描こうとしているものに重なると思っていたんです。ぼくの気持ちに共感してもらえてる、ぼくのこの感覚は間違ってないんだな......と、作品に寄り添ってもらっているように感じながら読んでいました。
(以上引用)
当時の自分自身の話抜きで語ることは難しい......そう話すほど、10代の頃の永山さんにとって大きな存在だった村上春樹作品。あの頃の感覚が今でも失われていないことを、今回の朗読を通して再確認できたのだそうだ。
旅行記だけど、小説を読んでいるよう
永山さんは『辺境・近境』を朗読してみて、「気づいたら小説を読んでいるような感覚になっていた」という。事実を記しているはずでも、どこか小説のように語られる。それが本作の面白さの一つだと永山さんは言う。
(以下引用)
あとがき代わりの一章「辺境を旅する」に書いてあるんですが、村上春樹さんは旅行しているあいだ基本的に、カメラにも触らないし録音もしないんですね。メモも単語だけしか書かない。五感を研ぎ澄ませて、自分がその場所にいるときの生身の......これはぼくの言葉ですけど......生身の肉体としていろんなものを感じることが大切だ、みたいなことが書いてありました。
そして、1、2カ月おいてから書くんです。1回寝かせると、忘れるものは忘れるし、浮いてくるものは浮いてくる、と。その間に記憶がすり替えられることもあるでしょうし、もしかしたら脚色されているかもしれません。小説のように描かれている箇所を、「どれだけあなたの想像力で読めますか」「どういうふうにこれを理解しますか」と投げかけられている気持ちになりました。
(以上引用)
ぜひみなさんも声に出して読んでみてください
普段は他の出演者やスタッフに囲まれて演技をしている永山さん。一人の空間で、ひたすら村上春樹さんの文章と自分の声だけに向き合う環境は新鮮だったという。
(以下引用)
3~4時間ぶっ続けで朗読していると、自分が『辺境・近境』の中に入り込んでいってしまって、村上春樹さんと一緒に旅をしている感覚と、自分自身が村上春樹さんになっている感覚がありました。
多分、声に出して読んだ人は、世界中のハルキストさんの中でも数名しかいないんじゃないでしょうか。聴いてくださる方は、ぜひ自分でも声に出して読んでみてください。きっと、みなさんメキシコの途中でくじけるんじゃないかと思いますが......(笑)。
あと、朗読していて困ったのは、けっこう癖のある表現が多いんですよ。目で読むと違和感なく入ってくるけど、声に出して読んでみると、普段は滅多に使わないような日本語がいっぱい出てくるんです。一見、村上春樹さんが「こんな旅をしてきたよ」と読者に話しかけているようでいて、実は面白く読ませるためのいろんなトリックが入ってるんだなということに、朗読してみて気づきました。これは朗読させないぞと村上春樹さんに言われている気にもなりましたね(笑)
(以上引用)
永山瑛太さんが朗読した『辺境・近境』は、Audibleの作品詳細ページから試聴・購入できる。また他の村上春樹作品は、藤木直人さん朗読『ねじまき鳥クロニクル』、松山ケンイチさん朗読『螢・納屋を焼く・その他の短編』、小澤征悦さん朗読『職業としての小説家』、イッセー尾形さん朗読『東京奇譚集』、仲野太賀さん朗読『神の子どもたちはみな踊る』、木村佳乃さん朗読『海辺のカフカ』がすでに配信され、高橋一生さん朗読『騎士団長殺し』上巻、大森南朋さん朗読『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』上巻、2023年には杏さん・柄本時生さん朗読『1Q84』も順次配信開始予定だ。合わせて楽しみたい。
※撮影:BOOKウォッチ編集部
・書名:辺境・近境 Audible版
・監修・編集・著者名: 村上 春樹 著
・出版社名: 新潮社
・出版年月日: 2022年12月15日
(BOOKウォッチ編集部)
https://www.msn.com/ja-jp/news/entertainment/ぼくはまだ-ハルキストの-ハ-にも行っていない-永山瑛太が語る-村上春樹作品/ar-AA15iZCA
オーディオブック・音声コンテンツ配信サービス「Amazonオーディブル(以下、Audible)」で、日本語では初となる村上春樹作品のオーディオブック化が進行中だ。藤木直人さん朗読の『ねじまき鳥クロニクル』をはじめ、数々の著名人の朗読で作品を楽しめる。
12月15日に配信された『辺境・近境』は、俳優の永山瑛太さんが朗読を担当した。普段から村上春樹作品を愛読しながらも、「ぼくはまだハルキストの『ハ』にも行っていない。『ハ』の一画目くらいです」と謙遜する永山さん。今回の朗読を通して深まった、作品への思いを伺った。
『辺境・近境』に収められている旅行記の行き先は、香川や神戸から、アメリカやモンゴル、無人島まで実にさまざま。永山さんに一番印象に残った場所を聞くと、作中最もページ数が割かれている「メキシコ大旅行」を挙げた。
村上春樹さんがメキシコを訪れたのは、1992年7月。バスに乗って移動しながら、車内を流れ続けるメキシコ歌謡曲にうんざりしたり、武装警官が乗り込んでくる物騒な場面に遭遇したり、先住民族の村で同行カメラマンが石を投げられたりと、一般的な旅行ツアーではなかなか味わえなさそうな濃い現地体験が綴られている。
永山さんはこの「メキシコ大旅行」に、2012年放送のドキュメンタリー番組『瑛太が挑む 世界最長の大河 ナイル~幻の源流を求めて 13,000kmの大紀行~』(BSジャパン)での自身の体験を重ね合わせていた。
(以下引用)
読んでいて、つらかったんですよね。ぼくもアフリカに4週間行かせてもらっていろんな経験をしたんですが、カメラが回っていないときや、ホテルに泊まっているとき、移動時間とかは、記録として残されていないじゃないですか。でもそういうところのほうが、すごく鮮明に記憶に残っているんです。
(以上引用)
ディープなメキシコの描写が、アフリカで味わった感覚をありありとよみがえらせたようだ。テレビには映らないような、旅の生々しい一面が、本作ではありのままに書かれている。
永山瑛太の中にいる、村上春樹の「僕」
永山さんが物心ついたときから、実家には、村上春樹さんをはじめ、村上龍さん、筒井康隆さん、大藪春彦さん、星新一さんらの本があったのだそうだ。初めて読んだ村上春樹作品は、『風の歌を聴け』だったという。
最初に読んだときはまだ面白さがわからなかったというが、それから中学生、高校生と成長する永山さんの日々のそばに、村上春樹作品はあった。
(以下引用)
〈鼠シリーズ〉(『風の歌を聴け』、『1973年のピンボール』、『羊をめぐる冒険』の初期3作品)はどれも、「僕」という主人公の一人称で語られています。その「僕」が、永山瑛太の「ぼく」として、今でも体の中にいるんですよね。
中学・高校時代にぼくが感じていた孤独や、焦燥や、言葉にならない気持ちが、村上春樹さんの見てきたもの、描こうとしているものに重なると思っていたんです。ぼくの気持ちに共感してもらえてる、ぼくのこの感覚は間違ってないんだな......と、作品に寄り添ってもらっているように感じながら読んでいました。
(以上引用)
当時の自分自身の話抜きで語ることは難しい......そう話すほど、10代の頃の永山さんにとって大きな存在だった村上春樹作品。あの頃の感覚が今でも失われていないことを、今回の朗読を通して再確認できたのだそうだ。
旅行記だけど、小説を読んでいるよう
永山さんは『辺境・近境』を朗読してみて、「気づいたら小説を読んでいるような感覚になっていた」という。事実を記しているはずでも、どこか小説のように語られる。それが本作の面白さの一つだと永山さんは言う。
(以下引用)
あとがき代わりの一章「辺境を旅する」に書いてあるんですが、村上春樹さんは旅行しているあいだ基本的に、カメラにも触らないし録音もしないんですね。メモも単語だけしか書かない。五感を研ぎ澄ませて、自分がその場所にいるときの生身の......これはぼくの言葉ですけど......生身の肉体としていろんなものを感じることが大切だ、みたいなことが書いてありました。
そして、1、2カ月おいてから書くんです。1回寝かせると、忘れるものは忘れるし、浮いてくるものは浮いてくる、と。その間に記憶がすり替えられることもあるでしょうし、もしかしたら脚色されているかもしれません。小説のように描かれている箇所を、「どれだけあなたの想像力で読めますか」「どういうふうにこれを理解しますか」と投げかけられている気持ちになりました。
(以上引用)
ぜひみなさんも声に出して読んでみてください
普段は他の出演者やスタッフに囲まれて演技をしている永山さん。一人の空間で、ひたすら村上春樹さんの文章と自分の声だけに向き合う環境は新鮮だったという。
(以下引用)
3~4時間ぶっ続けで朗読していると、自分が『辺境・近境』の中に入り込んでいってしまって、村上春樹さんと一緒に旅をしている感覚と、自分自身が村上春樹さんになっている感覚がありました。
多分、声に出して読んだ人は、世界中のハルキストさんの中でも数名しかいないんじゃないでしょうか。聴いてくださる方は、ぜひ自分でも声に出して読んでみてください。きっと、みなさんメキシコの途中でくじけるんじゃないかと思いますが......(笑)。
あと、朗読していて困ったのは、けっこう癖のある表現が多いんですよ。目で読むと違和感なく入ってくるけど、声に出して読んでみると、普段は滅多に使わないような日本語がいっぱい出てくるんです。一見、村上春樹さんが「こんな旅をしてきたよ」と読者に話しかけているようでいて、実は面白く読ませるためのいろんなトリックが入ってるんだなということに、朗読してみて気づきました。これは朗読させないぞと村上春樹さんに言われている気にもなりましたね(笑)
(以上引用)
永山瑛太さんが朗読した『辺境・近境』は、Audibleの作品詳細ページから試聴・購入できる。また他の村上春樹作品は、藤木直人さん朗読『ねじまき鳥クロニクル』、松山ケンイチさん朗読『螢・納屋を焼く・その他の短編』、小澤征悦さん朗読『職業としての小説家』、イッセー尾形さん朗読『東京奇譚集』、仲野太賀さん朗読『神の子どもたちはみな踊る』、木村佳乃さん朗読『海辺のカフカ』がすでに配信され、高橋一生さん朗読『騎士団長殺し』上巻、大森南朋さん朗読『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』上巻、2023年には杏さん・柄本時生さん朗読『1Q84』も順次配信開始予定だ。合わせて楽しみたい。
※撮影:BOOKウォッチ編集部
・書名:辺境・近境 Audible版
・監修・編集・著者名: 村上 春樹 著
・出版社名: 新潮社
・出版年月日: 2022年12月15日
(BOOKウォッチ編集部)
https://www.msn.com/ja-jp/news/entertainment/ぼくはまだ-ハルキストの-ハ-にも行っていない-永山瑛太が語る-村上春樹作品/ar-AA15iZCA