毎日新聞 2010年1月14日 東京朝刊
「私が発展させてみせる。国内の他の地域と同じように」。インドネシア最東部パプア州。中央高地、ジャヤウィジャヤ県のウェティポ知事は観光による経済発展の夢を描く。草ぶきの伝統住宅が残る県都ワメナでは、4階建てのショッピングモール建設が進み、50室規模のホテルも近く開業予定という。8月には、コテカ(ペニスケース)姿の男たちが伝統儀式を披露するイベントも開かれる。狙いは「秘境」を求める外国人観光客だ。
ただ、知事の考えには先住民から批判的な声も聞かれる。「本来は部族ごとに違う慣習をごちゃまぜにして、神聖な伝統儀礼を観光客用の見せ物にしている」。先住民文化に詳しいヨラン・ヨゴビ氏(39)は顔をしかめる。ワメナ近郊で生まれ、中部ジャワの大学で学んだ。04年にワメナに戻ると、社会はすっかり変わっていたと嘆く。「昔は皆が自然に感謝し、年長者を敬って暮らしていた。今は食料はじめ何でも金で買えるようになったことで、畑は荒れ、拝金主義が横行している」
観光振興の障害となるのは、こうした反発だけではない。パプアは国内で唯一、分離独立運動が残り、武装組織・自由パプア運動(OPM)が活動する地域でもある。先月も、州西部でOPM指導者のクワリク司令官が警官隊に射殺される事件があり、葬儀に集まった先住民と治安部隊との間で一時緊張が高まった。ワメナでも00年10月、独立旗掲揚をめぐり、先住民グループに警官隊が発砲、逆に先住民が入植者を襲う事態に発展し、数十人の死者が出ている。
海外からの独立運動支援を警戒する政府は、パプアに入る外国人に入域許可取得を義務付けている。ワメナを訪れる外国人が年間千人規模にとどまっているのはこうした事情も背景にある。
潜伏活動を続けるOPMのファキキル司令官は「インドネシア政府は軍や警察を使ってわれわれパプア人を殺し、迫害し、差別してきた。パプア人が自らの文化と尊厳を守るには、独立以外の道はない」と大義を強調した。
ジャワ人の妻を持つヨゴビ氏さえこう言う。「先住民は、ジャワ、スマトラなどからの入植者に対する劣等感と怒りを心の中でくすぶらせている」【ワメナで井田純】
http://mainichi.jp/select/world/news/20100114ddm007030102000c.html
「私が発展させてみせる。国内の他の地域と同じように」。インドネシア最東部パプア州。中央高地、ジャヤウィジャヤ県のウェティポ知事は観光による経済発展の夢を描く。草ぶきの伝統住宅が残る県都ワメナでは、4階建てのショッピングモール建設が進み、50室規模のホテルも近く開業予定という。8月には、コテカ(ペニスケース)姿の男たちが伝統儀式を披露するイベントも開かれる。狙いは「秘境」を求める外国人観光客だ。
ただ、知事の考えには先住民から批判的な声も聞かれる。「本来は部族ごとに違う慣習をごちゃまぜにして、神聖な伝統儀礼を観光客用の見せ物にしている」。先住民文化に詳しいヨラン・ヨゴビ氏(39)は顔をしかめる。ワメナ近郊で生まれ、中部ジャワの大学で学んだ。04年にワメナに戻ると、社会はすっかり変わっていたと嘆く。「昔は皆が自然に感謝し、年長者を敬って暮らしていた。今は食料はじめ何でも金で買えるようになったことで、畑は荒れ、拝金主義が横行している」
観光振興の障害となるのは、こうした反発だけではない。パプアは国内で唯一、分離独立運動が残り、武装組織・自由パプア運動(OPM)が活動する地域でもある。先月も、州西部でOPM指導者のクワリク司令官が警官隊に射殺される事件があり、葬儀に集まった先住民と治安部隊との間で一時緊張が高まった。ワメナでも00年10月、独立旗掲揚をめぐり、先住民グループに警官隊が発砲、逆に先住民が入植者を襲う事態に発展し、数十人の死者が出ている。
海外からの独立運動支援を警戒する政府は、パプアに入る外国人に入域許可取得を義務付けている。ワメナを訪れる外国人が年間千人規模にとどまっているのはこうした事情も背景にある。
潜伏活動を続けるOPMのファキキル司令官は「インドネシア政府は軍や警察を使ってわれわれパプア人を殺し、迫害し、差別してきた。パプア人が自らの文化と尊厳を守るには、独立以外の道はない」と大義を強調した。
ジャワ人の妻を持つヨゴビ氏さえこう言う。「先住民は、ジャワ、スマトラなどからの入植者に対する劣等感と怒りを心の中でくすぶらせている」【ワメナで井田純】
http://mainichi.jp/select/world/news/20100114ddm007030102000c.html