佐藤功の釣ったろ釣られたろ日誌

釣り・釣りの思い出・釣り界のこと・ボヤキ.etc

自費出版した仲間の本 4続き 

2011-02-09 19:30:12 | 釣り
釣り人対古本屋の戦いのこと

 こんな事例があります。戦前の釣り関係絵葉書を集め出した頃のことでした。大阪の或る古書即売会で貴重な絵葉書が百円の安値で、それも一箇所で入れ食い状態となったのです。戦前珍しい釣り姿が収まった絵葉書を大量に抜き取り、しめしめと清算しようとした時でした。
思いがけず店主が満面の笑顔を振りまきながら「お客さ~ん テーマは何でっか?」と訊いてきたのです。それが迂闊にも「魚釣りですわ」とクソ真面目な返答をしてしまったのです。翌年の同じ即売会ではどうでしょう。あの好ポイントを覗いてみましたら、去年は「日本の風俗」というジャンルの箱に入れ二束三文で雑多売りしていた絵葉書が、「戦前釣り関係」というジャンルを新設して一枚ごと丁寧にセロファン袋に入れて千円均一で売っているではありませんか。まったく驚くやら呆れるやら、浪速商人の商魂を痛いほど見せつけられたのでした。
 他にもありますぞ。大阪梅田の地下街でのことです。「こんなとこにあったわ それにしても安いがな」と友人に一言囁いたところ、それまで暇そうに古書を読む振りをしながら万引きに目を光らせていた店主が「お客さ~ん その本予約済みや まちごうて店頭に紛れ込んだみたいやなあ すんませ~ん」このように古書界は何でも有りです。ホンマかいなと思う経験をした釣り人だけが用心深くなれるのです。
  書斎の精霊たちのこと
 小生の自宅は「国生み神話」で知られる淡路島の片田舎にあります。祖父さん祖母さんや親父もこの家で息を引き取り、葬儀もここで執り行いました。田舎の古い母屋というものはどこか神秘的であり、しかし、何かおどろおどろしい雰囲気を併せ持つ怪しい建屋です。
 積読(つんどく)状態の釣り本に占領された古い母屋の北側は、小生の隠れ家兼書斎となっており「淡路魚釣り文庫」と呼んでいます。古壁を覆い尽くすように数千冊の釣り本が所狭しと並び、中には著者本人が署名を記した古書が二百体ほど安置されています。
 署名本は少なくとも一度は著者が手にした本であり、謹呈する知人への御礼と感謝を込めた気持ちのこもった一冊なのです。戦禍や天災などの苦境に耐え、様々と所有者を代えながら数奇な運命を経て「淡路魚釣り文庫」に辿り着いたものばかりです。古書には何か得体の知れないモノが憑いていても何ら不思議ではないのです。
 ある夜、深夜の書斎がざわついているのに気づきました。何だろうと訝しきながら厠で用を済ました後、念のため書斎の電球を点けてみましたが誰も居ません。当たり前か・・・ 翌朝、その話しを末娘にしたところ「お父さんの部屋に誰かおるみたいやで」というのです。彼女は何度も金縛りになり、深夜に突然目が覚めて怪しい人影や顔をはっきり見たと言い張る子です。
我が家では恐山のイタコのような存在ですから頭から否定はできません。ただ、もしも親父たちなら、先ず小生か母親の夢枕に立つはずだろうがハテ?
 夜な夜な書斎での大騒ぎは、署名本のそれも川向こうに居る著者達の仕業ではなかろうかと思うのです。きっと、山本素石と亀山素光が釣り談義を交わし、その傍で佐藤垢石と竹内始萬が飲んだくれ、窓際では永田一脩と緒方昇が再会の歓喜に躍り上がり、ソファーでは鈴木魚心と上田尚が向き合って真剣な釣論を交わしていたに違いないと想像するのです。いや、それ以外に考えられません。真夜中の「淡路魚釣り文庫」は、精霊たちが彷徨する夢のフィッシングサロンなのかもしれません。主宰する者としては、サロンの更なる発展と盛況を目指して参加者の増嵩を図らねばなりません。あ~ 古書熱症候群はいよいよ末期症状に入ったようです。

松林眞弘氏のプロフィール

昭和33年淡路島洲本市生まれ、グレ釣り、渓流釣り、ハゼ釣り、古書釣りと「1魚1会」の釣りを楽しむ風流道楽人、淡路魚釣り文庫主宰、ため池レンジャー代表、淡路源五郎迷同人会代表幹事
コメント
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