剣一徹な大治郎が変っていく。
父であり師匠でもある子兵衛の雰囲気に染まっていく。
その過程が、又何とも微笑ましいのだ。
一人で小兵衛馴染みの酒屋に入り、ゆっくり酒を飲む。
雨宿りの時間つぶしとはいえ、以前なら考えもしなかった。
酒屋の夫婦は、そんな大治郎を嬉しそうにながめる。
「若先生が、お一人で酒をあがるなんざ、全く珍しい」
「きちんと、こう座って、あの飲みっぷりがよかったね」
「不動さまの若いときのような、かたちでね」
まだ、生真面目な飲み方なのだが、可愛いのだ。
そこで起きる傑作な詐欺事件を小兵衛に話す。
昔はテレビもラジオも無いのだ。
当然として、面白い話は双方の楽しみとなる。
野次喜多道中を読むと、当時の風俗がよく描かれている。
人と人の話術が洒落ていて、話す事が生活に大きくかかわる。
簡潔でも、言葉に心や情けや嬉しさ愉しさを乗っけて話していた。
話は、愉しいものなのだ。
美味い鯰を食べ過ぎて腹を下した小兵衛。
薬を貰いにきた大治郎に、町医者の宗哲が言う。
「小兵衛さんに、あまり薬を飲ますと、かえっていけない。
なにぶん、体が人間ばなれしているからのう。
なあに、薬のかわりに、毛饅頭でも食べさせれば、すぐ元気になる」
まじめ顔で宗哲先生、とんでもないことを言い出した。
「け、まんじゅう、と申しますと?」
わけがわからない大治郎。
今度は、その事を思い出して三冬に言う大治郎。
「三冬どのは御存知か?その、毛饅頭なるものを」
処女の生真面目な佐々木三冬だ。
「耳にしたこともありませぬ」
双方とも、男と女を知らぬ一流の剣客だ。
その正体を教えてもらおうと、小兵衛の隠宅に向かうのだった・・・
(「鰻坊主」より)
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