フレッド・ブランドンは、僕の大切なアメリカの友人だ。
今は、アメリカで旅客機のパイロットをしている。
僕が大学を卒業して、大学の生涯教育学部に勤務している頃の話である。
彼の古里、ワイオミングに招待された。
とてつもなく広大な平原が広がる美しい州だ。
あちらこちらにバッファローの群れがいた。
交通の手段は、車以上に、セスナを飛ばすことが多い。近所に遊びに行くといっても、鹿児島から熊本まで離れているというような距離だからだ。
大自然を満喫して、一週間ほど過ぎた。帰りは、普通に飛行機で帰る予定だったが、彼がセスナを借りてきて、それでユタまで僕を送ると言い始めた。
セスナでロッキー山脈を越えるのは大冒険だ。
ワイオミングを飛び立って3時間ほど過ぎた。眼下には、バッドランドと呼ばれる九州全体ほどの何もない大荒野が続く。
突然、右翼がバキッという音をたててひび割れた。
セスナが回転し始めた。
その後、何が起こったのか覚えていない。
気がついたら、地面に激突したセスナと、痛い胸を抑えていた僕とフレッドがいた。
フレッドの操縦は大したもので、機体に破損はほとんどなかった。
僕も、彼も、無傷だった。奇跡である。
でも、この後が問題だ。この地から、歩いてユタまで行くのは死を意味している。食料は何もない。
彼が持っていたライフルはあるが、銃弾は数発しかない。
遥か向こうを野生のカモシカの群れが走って行った。
結局、飛行機を応急処置して、とにかく飛ばしてみることにした。
握ったこともない操縦かんを握り、二人の力で、なんとか離陸させた。
フラフラと舞い上がるセスナが、何回も落ちそうになる。
操縦かんを握った僕の手から流れる汗は、恐怖で水のようだ。
ロッキーの山を越える瞬間は、死んだと思った。
雪の山を吹き上げる神風がセスナを舞い上げ、九死に一生を得た。
風に乗ったセスナは、滑るようにユタの飛行場に着陸した。
僕らを心配して待っていた、僕のユタの友人、ローリーは物凄い剣幕で、「徹を殺す気か!」と、初めて会ったフレッドに噛み付いた。
そんなローリーだったが、二日後に、フレッドと、とても良い仲になってしまった。
男女関係とは、こんなものなのか?アメリカ人はわからない?色恋は?全然わからない??