日本国内の各地から産出し、観賞用の 「色彩石」 にもなる玉石類には、著名な 「赤玉石」 や 「青玉石」 の他に、黄玉石 ( きだまいし ) や翡翠石、いろんな色のメノー石、玉髄、水晶、蛋白石、琥珀、桜マンガン石などが広く知られており、ほかにも燧石 ( ひうちいし ) や珪化木、黒玉 ( こくぎょく ・ くろだま ・ ジェット ) 、黒曜石などが数えあげられる。
以上の他、いろんな色の珪酸鉱物や岩石類の入り混じった、縞帯模様などのきれいな鑑賞石があり、特に北海道花石 ( 瀬棚郡今金町 ) の 「縞メノー石」 や 青森県の 「錦石」 、佐渡の 「錦紅石」 に 「佐渡黄玉」 (さどきだま) 、 群馬県の 「更紗石」 等は、水石界では古くより銘石としての地位を獲得している。
我が三重県の 「那智黒石」 も、堆積岩ながら鈍い黒光りのする石材石として、実用品や調度品類のほか、鑑賞石にも加工され、確たる全国区の地位を得ている。
これらの石の中でも、特に 「赤玉石」 は殆どが鉄石英を主成分とする真っ赤な珪酸質の鉱物であり、堆積岩の 「赤石」( 赤チャート ) とは、成因を異にする。
「青玉石」 は、俗に青瑪瑙とも称し、主に碧玉 ( へきぎょく ・ ジャスパー ) であるが、国内では島根県の玉造温泉付近の花仙山が原産地として、往古の古墳時代から有名であり、新潟県糸魚川市小滝の翡翠 ( ヒスイ ・ 硬玉 ) や山梨県の水晶などと共に、勾玉をはじめとする各種の装飾品として使用された歴史がある。
なお、 「青玉石」 類似の鑑賞石の 「青石」 の多くは、 「赤石」 同様に堆積岩の青チャートが殆どである。
さて、今回の石紀行で紹介をする、志摩市大王町名田の 「黄色玉石」 ( きいろだまいし ) は、大野浜と隣接の名田漁港の海浜が原産の漂礫の小石ですが、表面のみイエロー瑪瑙 ~ ジャスパー化した特殊な黄色の色石礫です。
新潟県の佐渡をはじめとする 「黄玉石」 との根本的な違いは、内部の石質であり、黄玉石の場合は内部まで表面と同じ石質 ( 同一鉱物 ) で、明らかにイエロー瑪瑙 ~ イエロー・ジャスパーになります。
本稿で述べる 「黄色玉石」 は、大野浜や名田漁港の海浜の浜砂利の中に、極くわずかに入り混じっていて、時たま見つかる程度の希少漂礫です。 但し、内部は全く別の石質が多く、この石は筆者の発見なので、勝手に 「きいろだまいし」 と名付けて、黄玉石 ( きだまいし ) や宝石鉱物の 「黄玉」 ( おうぎょく ・ トパーズ ) との読み間違いを避けた次第です。
この小礫のサイズは、殆どが梅干し大かそれ以下ですが、大きいものでもせいぜいゴルフボール程度で、こぶし大以上のものは滅多に見つかりません。
多産すれば、良質の火打石 ( 燧石 ) として利用されて来たと思いますが … 。
内部の石質は、大半が堆積岩層由来の灰白色 ~ 灰黒色のフリント質チャートです。中には石英や他の珪質堆積岩類の事もあり、いわゆる 「きつね石」 となったニセ物ですが、不思議な事に中身まで全部瑪瑙 ~ 玉髄や蛋白石質、あるいはジャスパー質化し、完全に変質 ・ 置換し鉱物化しているものもあって、その成因を考えると、海水の仕業である事は言を待ちませんが、とにかく不思議でなりません。
この小石の由来は、中生代白亜紀の急斜した的矢層群の地層を不整合に覆い、志摩地方に広く分布する海成段丘堆積層 ( 更新統 ) の亜円礫に由来するものと思いますが、原産地の付近にそれらしい地層は見られませんので、更新世時代から完新世にかけての海進や、その間の激しい海食によって、海底に水没した段丘堆積層を考えない事には、そのルーツの説明が付きません。
但し、この漂礫が集中して打ち上がっているのは、既述の大野浜と名田漁港の海浜だけです。 北隣りの畔名の海浜や、南隣りの大井浜などでは、なぜか殆ど拾えませんし、他の外洋側の海浜でも全くと言ってよい程見つかりません。
ちなみに、志摩地方各地の段丘内の砂礫層や、伊勢市内の更新世の中位 ~ 高位段丘堆積層 ( 河成層 ) の黄土色化した砂礫層を、方々調べ回ったのですが、類似礫はあっても表面はまるで違っており、単に水酸化鉄 ( 褐鉄鉱 ) に汚染された被膜 ~ 薄い被殻が見られるだけで、中にはいわゆる 「腐れ礫」 化し、ボロボロになった珪質岩礫もありました。
なぜ 「黄色玉石」 の産地が限定的なのかと言う事と共に、浜砂利中でも珪質岩の漂礫だけが、どのような鉱物化学的プロセスやメカニズムで、表面から内部にかけてイエロー瑪瑙や、イエロー・ジャスパー化してゆくのか、その解明が課題ではありますが … 。
参考までに、フリント質チャートも玉髄 ・ 瑪瑙、ジャスパー ( 碧玉 ) のいずれも、主成分の化学組成は珪酸 ( 二酸化珪素 )であり、鉱物学的には隠微晶質の石英で、ほぼ同質とされています。
( ※ 本稿の掲載写真は、2021年4月18日に撮影を致しました )