(1)4月15日、ウクライナ政府は、クラマトルスク(ドネツク州)で行政府を占拠していた反政府系住民を軍によって強制排除した。
<トゥルチノフ大統領代行は15日夕、議会で「特殊部隊がテロリストからクラマトルスクの空港を奪還したとの知らせが入った」と述べた。>【注1】
<複数の地元メディアの報道によると、クラマトルスクの空港周辺で、親ロシア派とウクライナ軍が銃撃戦になった。ロシア国営ノーボスチ通信は、ウクライナ軍がクラマトルスク空港を制圧し、親ロシア派の4人が死亡、2人が負傷したと伝えた。>【注2】
(2)4月6日、ドネツク州(ウクライナ東部)の州都ドネツクなど3都市で行政府が、反政府系住民によって占拠された。
12日以降、占拠はクラマトルスク、スラビャンスクなどにも拡大した。
かかる占拠が起きた原因は、ウクライナ新政権の政策に強い危機感を抱いたからだ。
東部では、ロシア語常用するウクライナ国民が、圧倒的多数を占める。しかるに、ウクライナ新政権はロシア語を公用語から除外する、と決定した。ウクライナ語のみが公用語になれば、ロシア語しかできない人々は公務員から排除され、民間企業も官公庁とのやりとりにウクライナ語の使用が義務づけられるので、必然的にウクライナ語のできない人は幹部職に就けない。新政権の政策は、ロシア語しか解しない人々を二級国民におとしめる政策だった。
新政権は、ロシア語を公用語から除外する政策を撤回したが、ロシア語を常用するウクライナ国民の不信感を除去することはできなかった。
(3)トゥルチノフ大統領代行は、かかる状況で東部、南部の住民の信頼を得るための努力を怠った。
そして4月13日、ウクライナ政府は、占拠を行っている自国民に、テロリストというレッテルを貼った。翌14日には、トゥルチノフ大統領代行が対テロ作戦を開始する大統領令に署名した。トゥルチノフの狙いは、ロシアの軍事介入だ。ウクライナ東部と南部に居住するロシア国籍保持者と、ロシア語を常用するウクライナ国民を保護するための。
ロシアが軍事介入すれば、ロシアによる侵略を口実に、新政権は米国やEUから政治的、経済的支援を受けることができる。
(4)トゥルチノフは、2005年2月4日から同年9月8日まで、ウクライナ保安庁(秘密警察)長官を務めた。文民が保安庁長官に就くのは初めてのことだ。当時の大統領ユシェンコは、親欧米路線を取り、ウクライナのインテリジェンス機関を全面的に改組した。
従来、保安庁は旧KGB職員によって構成されていた。トゥルチノフ長官の下で、保安庁はCIA、SISなど欧米インテリジェンス機関との協力を深化させた。
(5)むろん、ロシアも、ウクライナ領内に連邦保安庁(FSB)、軍参謀本部情報総局(GRU)の秘密工作員を派遣し、ウクライナ新政権の権力基盤を弱体化させようとしている。
かかる行動は国際法に違反する内政干渉で、断じて認められない。
しかし、自国民にテロリストというレッテルを貼り、殺戮することに躊躇しないトゥルチノフ大統領代行を初めとするウクライナ新政権のエリートにも、事態を混乱させた責任がある。
日本政府は、ウクライナ、ロシアのいずれにも加担すべきではない。
【注1】【注2】記事「ウクライナ軍が強制排除 銃撃戦、東部空港を奪還」(朝日デジタル 2014年4月16日)
□佐藤優「ついに始まったウクライナ衝突の「伏線」 ~佐藤優の人間観察 第64回~」(「週刊現代」2014年5月3日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~」
「【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~」
「【ウクライナ】エネルギー・集団自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~」
「【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~」
「【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~」
「【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」」
「【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~」
「【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~」
「【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~」
「【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~」
「【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~」
「【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~」
「【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~」
「【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~」
「【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~」
「【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア」
「【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~」
<トゥルチノフ大統領代行は15日夕、議会で「特殊部隊がテロリストからクラマトルスクの空港を奪還したとの知らせが入った」と述べた。>【注1】
<複数の地元メディアの報道によると、クラマトルスクの空港周辺で、親ロシア派とウクライナ軍が銃撃戦になった。ロシア国営ノーボスチ通信は、ウクライナ軍がクラマトルスク空港を制圧し、親ロシア派の4人が死亡、2人が負傷したと伝えた。>【注2】
(2)4月6日、ドネツク州(ウクライナ東部)の州都ドネツクなど3都市で行政府が、反政府系住民によって占拠された。
12日以降、占拠はクラマトルスク、スラビャンスクなどにも拡大した。
かかる占拠が起きた原因は、ウクライナ新政権の政策に強い危機感を抱いたからだ。
東部では、ロシア語常用するウクライナ国民が、圧倒的多数を占める。しかるに、ウクライナ新政権はロシア語を公用語から除外する、と決定した。ウクライナ語のみが公用語になれば、ロシア語しかできない人々は公務員から排除され、民間企業も官公庁とのやりとりにウクライナ語の使用が義務づけられるので、必然的にウクライナ語のできない人は幹部職に就けない。新政権の政策は、ロシア語しか解しない人々を二級国民におとしめる政策だった。
新政権は、ロシア語を公用語から除外する政策を撤回したが、ロシア語を常用するウクライナ国民の不信感を除去することはできなかった。
(3)トゥルチノフ大統領代行は、かかる状況で東部、南部の住民の信頼を得るための努力を怠った。
そして4月13日、ウクライナ政府は、占拠を行っている自国民に、テロリストというレッテルを貼った。翌14日には、トゥルチノフ大統領代行が対テロ作戦を開始する大統領令に署名した。トゥルチノフの狙いは、ロシアの軍事介入だ。ウクライナ東部と南部に居住するロシア国籍保持者と、ロシア語を常用するウクライナ国民を保護するための。
ロシアが軍事介入すれば、ロシアによる侵略を口実に、新政権は米国やEUから政治的、経済的支援を受けることができる。
(4)トゥルチノフは、2005年2月4日から同年9月8日まで、ウクライナ保安庁(秘密警察)長官を務めた。文民が保安庁長官に就くのは初めてのことだ。当時の大統領ユシェンコは、親欧米路線を取り、ウクライナのインテリジェンス機関を全面的に改組した。
従来、保安庁は旧KGB職員によって構成されていた。トゥルチノフ長官の下で、保安庁はCIA、SISなど欧米インテリジェンス機関との協力を深化させた。
(5)むろん、ロシアも、ウクライナ領内に連邦保安庁(FSB)、軍参謀本部情報総局(GRU)の秘密工作員を派遣し、ウクライナ新政権の権力基盤を弱体化させようとしている。
かかる行動は国際法に違反する内政干渉で、断じて認められない。
しかし、自国民にテロリストというレッテルを貼り、殺戮することに躊躇しないトゥルチノフ大統領代行を初めとするウクライナ新政権のエリートにも、事態を混乱させた責任がある。
日本政府は、ウクライナ、ロシアのいずれにも加担すべきではない。
【注1】【注2】記事「ウクライナ軍が強制排除 銃撃戦、東部空港を奪還」(朝日デジタル 2014年4月16日)
□佐藤優「ついに始まったウクライナ衝突の「伏線」 ~佐藤優の人間観察 第64回~」(「週刊現代」2014年5月3日号)
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【参考】
「【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~」
「【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~」
「【ウクライナ】エネルギー・集団自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~」
「【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~」
「【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~」
「【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」」
「【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~」
「【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~」
「【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~」
「【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~」
「【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~」
「【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~」
「【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~」
「【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~」
「【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~」
「【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア」
「【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~」