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2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~

2014年04月03日 | ●佐藤優
 (1)外交官に必要とされる2つの能力は、
  (a)どのような状況においても自国の主張を貫く能力。そのためには、自国が大嘘をついているときでも、面の皮を厚くして、正々堂々のフリをして無理難題を主張できる根性がすわっていなければならない。
  (b)希望的観測を排し、情勢を客観的に捉え、妥協点を探る能力。

 (2)セルゲイ・ラブロフ・ロシア外相は、(1)の2つの能力を兼ね備える。 
 3月24日、ハーグ(オランダ)で、G8のうちロシアを除くG7が首脳会談を行った。G7はそこで「ハーグ宣言」を採択し、ロシアによるクリミア併合は国際法に違反するので認めない、と明言するとともに、6月にブリュッセル(ベルギー)でG7首脳会合を開催することに合意した。
 同月、ソチ(ロシア)で開催が予定されていたG8首脳会合をG7はボイコットする。

 (3)これで、G8の枠組みが無くなるか否か、現時点では不明だ。
 ロシア人は、「俺たちは圧力には屈しない。お前たちがそういう態度を取るならば、こっちからG8を出て行ってやる。しかし、この借りは利息をつけて返してやるからな」と思っている。
 G7の「ロシア外し」の動きについて、ラブロフ・露外相は24日、<、「西側が必要ないというのならば、ロシアはG8(主要8カ国)の枠組みに固執しない」と述べた。ソチで6月に予定されていた主要国首脳会議(G8サミット)が開けなくても構わないという姿勢を強調した>【注1】
 <ラブロフ氏は、ロシア代表として核保安サミットに参加している。インタファクス通信などによると、ラブロフ氏は記者団に「国際的な問題は主要20カ国・地域(G20)やその他の枠組みの中で話し合うことができる」と指摘した>【注2】
 ロシアの大衆は、「ついにわれわれも大国の地位を取り戻した」と有頂天になっている。こういう世論を背景に強硬論を述べることは、どんな凡庸な外交官にもできる。
 しかし、ラブロフ外相は、内心では「かなりまずい状況になっている」と思い、事態の打開について考えている。

 (4)報道を注意深く読めば、プーチン政権がシグナルを出していることが目に入る。
 <ロシアのラブロフ外相は24日、訪問先のオランダ・ハーグで、ウクライナ新政権のデシツァ外相代行と初めて会談した。ラブロフ氏が記者会見で明らかにした。>【注3】
 <ロシアは、新政権の正統性を認めてないが、イタル・タス通信によると、ラブロフ氏は「キエフ指導部と実務的な接触を保つようにというプーチン大統領の指示に基づいて会談した」と説明した。ウクライナ危機についてのロシア側の考えを伝えたという。>【注4】
 正統性を認めていない政権との外相会談が行われることは稀だ。それが外交の常識というものだ。
 外相会議は「プーチン大統領の指示に基づいて行われた」とラブロフが明言している。このことが重要だ。
 ロシアは、クリミア編入以上の行動を取らず、ウクライナ新政権との関係を正常化する用意がある、というシグナルだ。
 ウクライナが、東部、南部に広範な自治を認める連邦制に転換するところが、ロシアの考える妥協点だ。

 【注1】【注2】記事「G7、ロシア抜きで6月会合 ソチでのG8はボイコット」(朝日デジタル 2014年3月25日) 
 【注3】【注4】記事「ロシア外相、ウクライナ外相代行と初会談」(朝日デジタル 2014年3月25日) 

□佐藤優「プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~佐藤優の人間観察 第62回~」(「週刊現代」2014年4月12・19日号)
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 【参考】
【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~
【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~
【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~
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